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かけだし勇者の放浪日記  作者: hearo
女神の教えと隠里
59/64

未開の森の隠里 3

「……しんどかった」


「……私も死ぬかと思ったよ」


「生きた心地がしませんでした~」


事後処理に落ちた蜂の確認と、討伐証明となる蜂の針を集めながら、俺、ラーンさん、メアリーさんの3人はため息をついた。


「こんなに多いのは初めてだったけど、何とかなるものね」


元気な人間はサクラさんくらいだ。モノクルで魔力の状態を確認したらひと月以上前の状態に戻っていた。呪いの影響は緩和されたようだ。


「気を抜いている余裕は有りませんよ。ここは全然安全地帯じゃないですからね」


他の魔獣が寄ってこないとも限らない。


「……アキト君はタフだね」


「冒険者なんてそんなもんでしょう」


生きてりゃ丸儲け。それに今回は無傷だ。味方も多かったし、訓練の時にはこれより酷い目に合っている。まあ、まだ何とかなる。無傷だし。


「最後は逃げられちゃったわね」


「仕方ないですね。追えません」


サクラさんが女王蜂を仕留めた後も少しだけ粘ったけれど、結局10匹弱は逃がしてしまった。それでも集めている針がすでに二十を超えている。一つ一つが大きいアイスピックくらいは有るので結構手間がかかるな。


「……羽がもったいないですね~……結構焦げちゃってますけど」


軽くて丈夫、しかも透明な羽は使い道も多いから持っていけばそれなりの値が付くのだろうけど、今回は諦めるしかないな。そんなに持てないし、針だけでいっぱいだ。


「こっちはオッケーよ。頭はつぶしちゃったし、羽は適当に切り飛ばしたから、女王の方も針だけね」


「イゴールさん、大丈夫ですか?」


『問題ない。特に傷もない。荷物を乗せればすぐに出られる』


イゴールさんは既に狼の姿に戻っている。

狼たちの中では歴戦の戦士と言うだけあって、彼の戦い方は安定していた。判断が早く、人間形態でもかなりの技量を持っていた。キルナ村で一緒に戦ったラルフさんより上かもしれん。


「一応、使えそうな素材は避けておきましょう。もしかしたら帰りに回収できるかもしれません」


メアリーさんの提案で、傷の少ない羽や外皮、顎などを少しだけ分けておく。内臓や複眼は処理が難しいので放置。しばらくすれば森の動物たちが食料にするだろう。

蟲人の……と言うか、大きい昆虫系の生物の解体は外皮に硬度がある分比較的楽なもので、蜂たちを片づけてからおそらく15分ほどで出発の準備が整った。まあ、結構な数が雷撃で焦げていて解体できなかったのも要因の一つだけど。


「行きましょう。村はもうすぐ近くなんでしょう?」


魔力が尽きた俺に代わって、サクラさんが先頭で道を進む。

けれど30分と走る前にサクラさんの乗るベラさんが足を止めた。


『……嫌な臭いだな。風が渦巻いている』


レオンがぼやく。臭い?


「サクラさん、感じますか?」


「ん~……ちょっと煙たい、かな?くらい?気のせいかもしれないけど」


「村で焚いている魔獣除けの香かもしれませんね」


「そんな便利なものが?」


「基本的にこの地域の魔獣にしか効果が無いものですが……」


「どういったものが効くか分かっていれば、開拓村などではよく使われるよ。残念ながら旅人には意味がないがね」


「そういう物ですか?」


「魔獣から縄張りを奪い取る程の効果は無いし、ちょっと嫌な臭いがしても、お腹が減っていたらとりあえず食べるしか無いだろう?」


……ちょっと嫌な臭いがするものはできれば食べたくないんだけどなぁ。


「イゴールさん、行けそうですか?」


『臭いでの警戒に多少難はあるが、問題ない』


『我はあまり気乗りせぬな』


『鼻ばかりでなく、目とヒゲで空間を読む訓練は必要だ。村に付いたら人の姿になればいい。それまでは走れ』


『……………………』


『やーい、言われてやんの』


『うるさいっ』


……微笑ましいというべきかなんというか。


「近くまで行って、また人間の姿に成りますか?」


「……もし良ければそのままでお願いできますか?香があるとは言え、何があるかわかりません。村の者は口が固いですから、オオカミさん達の心配も無用と思います」


『かまわぬ』


メアリーさんの提案で問題ないようなので、このまま村まで乗り付けてしまおう。

未開の村がどんなところか解らないけど、警戒されることにもメリットはあるんだ。

移動を再開すると、ものの数分で分かるほどに臭いが漂ってきた。メアリーさんが言うには、風の魔術で臭いを当たりに拡散させているらしい。


「村はもうすぐです。しかし、この煙の量は……あ、見えました」


彼女の視線の先には、白い煙が上がっている。

結構な量。どうやら香を炊いている真っ最中らしい。

煙の根本を見ると、木々の合間に石と土で作られた壁が見えた。


「あれですね」


「はい。このまま門の前まで」


『めんどうだ。中に入るぞ』


「あ、こらっ!横着すんな!」


レオンが大地を蹴る。警鐘の音が成っているのが聞こえる。どうやら村側の見張り櫓もこっちに気づいたらしい。


『……あそこか』


壁に足場を見つけると、底をかかりにひとっ飛びで村の中へと降り立った。


『人の話を聞かん奴め。ここは我々の縄張りではないのだぞ』


どうやらイゴールさんも着いてきたらしい。当然、サクラさんも一緒だ。


「あ~……まらこれも面倒な」


そして武器を抱えた村人たちが集まって着ている。どうしたものか……。




「貴様ら何奴だっ!」


集まってきた村人の中でも、一番いい装備をした男が叫ぶ。わかりづらいけど姿から言ってブルドックみたいな短頭種系の牙狼族だろうか。もしくは爪猫族か。種族が分かりづらいのはやはり創られなかった人(ノンモ−ドル)の村だからだろうか。確かに短頭種の牙狼族は聞かない。


「まあ、落ち着いて。できればその物騒な槍を向けるのもやめて貰えると嬉しいな。大丈夫、俺たちは敵じゃない」


村人の武装は槍が一人、剣が二人、弓が一人。あとは農具を抱えたやつが数人。こんな未開の地の警備兵にしちゃ貧弱な装備だ。


「まだ外に仲間がいるんだ。悪いけど門を開けてやってくれないか?俺らが何者かについては、その二人が説明してくれるさ」


「ふざけるなっ!」


どうやらご立腹の様だ。まぁ、突然こんな珍客が現れたらそうなるのも無理はないだろう。とは言え、武器を向けるのは感心しないな。構えていないと対応できないと言っているようなものだ。


「どーでもいいけど、警戒するならそんな所で突っ立ってていいの?そこ、あたしの間合いの中よ?」


「なに!?……ひっ!お前、鬼か!?」


そう聞いた瞬間、俺たちを取り囲む輪が一気に遠のく。やっぱり鬼族のチートっぷりは知られているのか。……変な形で伝承されてなきゃいいけど。


「そう警戒せずに。悪いんだけど荷物下ろさせてもらっていいかな。飯にしたいんだ」


「お腹すいたの?」


「食べないと魔力が回復しないでしょう」


「それもそうね」


「きさまr「副団長!」」


おっと、どうやらメアリーさん達が入ってきたらしい。若い……たぶん人間系の種族の男が走ってきて耳打ちをするとどこかへ走っていった。たぶん村長さんのお出ましかな?

振り返るとわずかに門が開けられ、二人と二匹が歩いてくるのが見えた。


「すいません。先行してしまって」


「いえ……でも慌てました。入る時にはちゃんと割符と合言葉を示す手筈になって居たので……無事で何よりです」


「突然切りかかられることは無かったので大丈夫でしたよ。……ちょっと、防衛の人数が少ないのが気になりますね」


後半は仲間内にだけ聞こえる様につぶやく。

とりあえず村は無事だった。けど、行商人が来なかった問題が解決したわけじゃないから、気を配っておくに越したことは無い。


『けむい~。もう荷物下ろしてもいいでしょ?』


サクラさんと二人で狼たちに乗せていた荷物を下ろし解放してやる。

人にとっては僅かな香の香りと煙だが、鼻の利く一角狼(ホーンウルフ)には我慢ならない物があるのだろう。


『人になるよ。人になるからね!』


荷から解放されたサーヤが、変身魔法(ポリモルフ)の首輪を発動させる。同じように使おうとしたレオンはイゴールさんに止められている。結構センシティブだからなぁ。

僅かな光を帯びながら、狼の肉体は緩やかに人へと変わっていく。夏毛はさらに短く、身体は縮み四肢は伸びる。変身魔法(ポリモルフ)の変化時間はおよそ1分ほど。内臓などの体内器官も含めて人類と同じように作り直すため、擬態(ミィミクリー)のように一瞬と言うわけには行かないが、その変化は目まぐるしい。

4足歩行から2足歩行へ。長い鼻は縮み、体毛は消え、素肌があらわになる。すらりと伸びた脚、年齢と不釣り合いに膨らんだ胸元……おおっ!?


「ちょ!服!服ぅっ!アキト、こっちみんな!背中向けなさい!」


サクラさんが慌てて手近な布でサーヤの肢体を隠す。


「……むぅ。まさかここで人間族をチョイスするとはね」


眼福眼福。変身を終えたサーヤは、実年齢上はサクラさんと同じ年頃の髪の長いの美少女になっていた。

慌てて巻き付けたのははぎ取った蛇皮か。隙間から除く白い肌がなんとも言えないエロティシズムを漂わせる。……ナイスだ。


「鼻の下伸ばしてないで服だしなさい!」


「彼女の荷物はこれだったかな。とりあえず服とサンダルだよ」


「ありがと~。やっぱり人間だとほとんど臭くないね。ちょっと変な感じだけど」


サクラさんに手伝ってもらって、無地のワンピースを着こむ。残念ながら微妙にサイズがあって居ない。たぶん体毛の生えた牙狼族に変身することを前提にした服だからだろう。


「……このまま動くといろいろ見えちゃいそうね。ブラも無いし……アキト、麻の細いロープ出してもらえる」


「はいよ。適当に切ってください」


サクラさんは割と器用にロープで弛んだ服を縛り止めていく。


「……ちょっと胸を強調しすぎな気も知るけど……仕方ないか」


「なんか引っ張られる感じで動きづらいよ~」


「ちょっと我慢しなさい。あとで何か考えるから」


「衣服に慣れるのも人の姿で居る訓練ですよ」


荷を下ろし終えたベラさんも擬態の魔術で人の姿になって居る。こちらも艶のある灰色の長い髪をした美しい女性の姿だ。日本でならなら30代半ばくらいに見られるだろうか。実際の年齢はもう少し上のはずだ。

擬態なので髪と同じ色の革鎧を着ている。身体の一部だから着ているという表現は正しく無いけれど、やっぱり武器も合わせて人にしか見えないな。


「何でもいいけど、もう少し緊張感を持ったら?取り囲んでる村人に呆れられてるわよ」


「いや、十分警戒されてますよ。唖然とはしてますけど」


ついうっかり先制攻撃されないかと警戒はして居たが、その様子は無さそうだ。

メアリーさんがちゃんと手順を踏んでくれたおかげだろう。

鞄から少し粉っぽいクッキーを出してパクつき始めた頃になって、村長らしき人がやってきた。


「お久しぶりです、アスランさん。遠路はるばるお手数をおかけしたようですね。……出来ればもう少し穏やかに来ていただきたかった所ですが……」


やって来たのはアリクイの顔をした……多分男性。一体何族か見当もつかない。アスランってのは……メアリーさんの苗字か。


「ごめんなさいね。香がキツくて、狼達が嫌がったの」


「……貴女が来るのは契約の範疇ですから、仕方ないと言えばそれまでですからが。そちらは?」


「護衛の冒険者の方よ。信頼の置ける人達だから問題ないわ」


「そうですか。何はともあれこちらに。こちらは客人だ。皆は仕事に戻ってくれ」


その人の言葉に、取り囲んでいた村人達が離れて行く。副団長と呼ばれた男はまだ警戒をしているようだったが、気にするほどでもないか。

男性はやはりこの村の村長だった。頭はアリクイだが爪猫族だそうだ。確かにアリクイも立派な爪はあるが……アリクイって猫とはだいぶ別系統進化のはずだぞ。


取り敢えずは村長宅の客間に通される。

旅人が来ることを想定していないから、宿は無いらしい。

メアリーさんは商売の話を始めるようだが、俺達の仕事は往復の護衛。首を突っ込むならもう少し別のところだろう。


「村の中を見て回っても?」


「あまりウロつかれるのは困るのだが」


「そうお邪魔はしませんよ。こんな魔獣だらけの土地で村を維持している秘訣があれば見せて頂いたい所ではありますけど」


「大したことでは……まぁ、案内をしてあげなさい」


こちらに睨みを利かせている副団長さんが付いて来るようだ。

サーヤとレオンは特に興味が無いとの事で、狼ズは保存食を食べた後は昼寝を決め込むらしい。村の中も微妙に煙たいから動きたく無いのだろう。

ラーンさんはメアリーさんに付いているので、いつも通り俺とサクラさんの二人で外に出る。


「……立派な塀ですね」


「前時代の物だ。これで囲われて居て、魔除けの香があるから我々はこうして生きて居られる」


どうやらかつて人類が蟲人と負け戦を続けて居た頃の街の跡らしい。

壁は立派だが、それ以外はこれまで見たどの村よりも粗末だ。


家は木造で雨風がなんとか防げる程度の作り。

土むき出しの地面は踏み固められてはいるが穴だらけで、鶏やヤギが歩き回っている。

牛や豚の鳴き声も聞こえるから、畜産もしているようだ。時折糞尿の臭いが漂って来る。


広さだけは十分あるらしく、塀の中に畑が点在して居た。作っているのは芋だろうか。保存食だけではわびしいから、余裕があったら少し買いたいところ。

飲み水は井戸らしい。ため池は農業用水と下水用のが一つづつ。ここにもスライムさんが住んで居た。下水処理に関しては始まりの女神に感謝の念を禁じえないね。


「広さの割には家が少ないですね」


「そう多く住んでいるわけでは無いからな。……そろそろ一周する。もういいか?」


「壁をもう少しよく見させてもらえると……」


サクラさんが袖を引いたのに気づき振り返ると、目だけで合図をくれる。ふむ……取り敢えずは戻るか。


「ありがとうございました」


村の中をぐるっと回ったことを確認して客間に戻る。時間としては小一時間くらいはかかっている。

ところどころに香の焚く場に火が入っていた以外、特に違和感はなかったけど。


「何かありました?」


サクラさんは気になることがあるらしい。


「ずっと後ろを着いてきてる人が居たわね。たぶん一人」


ふむ……接触したい系かな。




「村に着いたらですが、少し様子を見たいと思いますがいいですか?」


「どういう事でしょうか?」


「行商人が来なかったのが単なる事故じゃないと仮定した場合、それをあっちが外に隠したいと思ってる可能性があります。メアリーさんに全部伝えるとは限りませんからね」


「具体的にはどうするの?」


「可能であれば村の中を見せて欲しいと提案します。後は村人、特に子供と話をしたいところですけど……まぁ、これはどんな村か分からないので。何が問題があれば、夜に相談しましょう。夜まで待てば消音1回分くらいは回復します」


「……私もラーンも使えるから無理をしなくても平気だけど……そこまでする必要はあるのかしら」


「一応念には念を入れてですね。ここはもう人の領域じゃありませんし……何より、怖いのは人間だと叩き込まれましたから」




村の中を見て回った時には村人は全くと言っていいほど近寄って来なかった。大人は元より……話をしたかった小さい子供を見ていないな。

単に外からの人間が珍しいだけならいいけど。


「見張りは?」


「いるわね。声が聞こえているかはわからないわ」


一応ステータスカードを開いてみるが、魔力値は2。これじゃ使える魔術は発火くらいか。どちらにせよ二人が戻ってくるまで待ちかなぁ。


「ん~……なに?何かあった?」


二十畳ほど板張りの部屋の片隅で寝息を経てていたサーヤが起きてきた。寝ぼけた表情とわずかに乱れた服がなんとも色っぽい。

長い髪を邪魔だからとポニーテールにしているのもグットだ。


「ええまあ……いや、どっちかって言うと何もなかった、の方が近いですけど」


他の3人は特に起きてくる気配もなく、部屋の片隅で毛玉になって居る。ベラさんは擬態のままだけど、レオンに付き合ってイゴールさんは狼状態のままだ。


「まどろっこしい言い方をするねぇ。おねーさん達もずっと話し込んでるみたいだし」


「聞こえます?」


「レオンがぶつぶつ言ってたからねぇ。この身体だと耳も鼻もいまいち。目はちょっとよく見えるかな」


人間族の身体スペックなんてそんなものか。


「サクラさんが人に後をつけられてたって言うんですが、どうしようかと」


「ん~……暇だし私が見てこようか?」


「見張りが居るからたぶん無理ですよ」


「大丈夫。ほら、そこに窓があるし」


確かに気の壁に開けられた換気用の窓があるけど、どう考えても人が出入りできるサイズじゃない。

しかし、サーヤは気にせず目を閉じると、全身が淡く光を帯びる始める。この光は変身魔法の光か。


「え、ちょっと!」


彼女の形はすぐに崩れ、シンプルなワンピースが床に落ちる。そして体は小さく小さく縮んでいき、1分と待たずに小さな小さな妖精の姿になった。


「このサイズならその窓から出られるでしょ」


妖精族(フェアリー)。カゲロウの様な2対4枚の翅を持っているから、日本じゃピクシーと呼ばれることの多いタイプだろう。身長は15センチくらい。小さくてもなかなかのナイスバディだ。ん~……じっくり眺め……。


「だからっ!人の姿の時は服の気を使いなさいっ!」


「わぷっ!」


サクラさんが引っ張り出してきた白い木綿のハンカチに埋もれる。


「アキトもわかっててやってるでしょ!」


「別に本人が気にしないならいいと思い……あいあいさー」


すっごい怖い顔で睨まれた。

サクラさんはハンカチを手早く妖精用の衣装に直してしまう。

戦いで破れたりボタンが飛んだ俺の服は、なぜかサクラさんが直してくれてたりするんだけど、こういうところ器用でいいよね。まぁ、こっちじゃ裁縫とかは当たり前の技術なんだろうけどさ。


「それじゃあ、ちょっと見てくるね~」


薄い翅を羽ばたかせると窓の外へと飛んでいく。

変身魔法は慣れないと変身した後が大変と聞くけど……器用なものだな。

そういえば、彼女もレオンも、人の時と狼の時で口調が違う。翻訳魔法のせいもあるんだろうけど……謎が多いな。


「すいません、アキト様、サクラ様。よろしいでしょうか」


ちょうど彼女が窓の外に見えなくなったタイミングで扉がノックされた。どうやらお呼びがかかったらしい。


リビングらしき部屋に通されると、メアリーさんとラーンさん、それに村長さんと難しい顔をした副団長が舞っていた。


□□□


村長宅のリビングは広さ10畳ほど。

そこに大きめのテーブルと毛皮の張られた木製の椅子、冬場使っているであろう薪ストーブなどが置いてある。

装飾品は多くないが、壁には大きな獣の角や頭の剥製らしきものが飾られている。爪猫族と言っていたから、彼か、先祖が仕留めた獲物だろう。

客間にも毛皮のカーペットが敷かれていたな。あそこは実際には客間と言うよりは村の集会所だろう。椅子やテーブルは置いてあったが、人が止まれるような設備は無かった。

っと、話がそれてる。


「おかけください」


促されて席に着く。


「話は?」


「それなりに進みました。運が良かったかもしれませんね」


メアリーさんが指さしたのはテーブルの上に置かれた女王蜂の針。どういう事だろう。


「私たちの推測通り、この村は危機的状況にありました。発端は二月ほど前、行商に出たトーマスさんとその一行が行方不明になったことだそうです」


トーマスってのは、メアリーさんのところに来ることになって居た行商人か。


「行商の流れは、護衛を連れて街道まで出て、そこから街道を西へ向かいます。護衛の方たちは街道へ出た時点で村へ引き返すのですが、今回はいつまで待っても戻ってきませんでした」


「荷馬車の残骸らしきものがありましたね」


「はい。おそらくは。戻ってこない護衛の捜索隊を結成し、探しに出たところで破壊された荷馬車の残骸を見つけたそうです」


「居なくなった人たちは?」


メアリーさんが首を振る。


「理由は分かりませぬが、彼らが身に着けていたものは見つかっておりません」


それで行方不明か。


「そうしている間に、今度は森に出ていた狩人達が戻らないといった事態が発生したそうです。そしてその狩人たちを探しに行った捜索隊も……」


「隊長殿も3度目の捜索から戻らなかった……」


村の兵力がやけに少ないと感じたのはそのためか。


「このところ、森の魔獣の数が増えているように感じられるのです。最悪の事態も想定しておりましたが、皆足跡を残さず消えており確証が持てませんでした。しかし……つい1週間ほど前に蜂の騒ぎがありました」


蜂ね。たぶん俺たちが倒したやつか。


「目撃されていたのは働き蜂の蟲人です。対処方法は例年通り、蟲人にも効果のある香を焚き、村から離れないようにしておりました」


煙たさを感じるほど焚かれているのはそのためか。


「この香はもともと、この辺りに住まう主と呼ばれる魔獣が嫌う臭いなのです。元来はソレがこの一帯の魔獣や蟲人を喰らっているため我々はこの地に住んで居られたのですが……もしや縄張りを変えたのかと。蜂の出現はそれを確認しようとした矢先の事でした」


主……兎や狼と同じだろう。群れを作るタイプか、1体でいるタイプか分からないけど。


「その蟲人を俺たちが倒した……だけならめでたしめでたし、だよね」


「はい。ですがそう言うわけにも行かないかと。女王蜂が巣を離れていたのであれば、すでに巣別れがされている可能性があります」


「……その可能性は考えましたけど、時期じゃないですよね」


地球の蜂と同じく、あいつらも女王蜂と数十匹の働きバチでグループを作る。女王蜂は巣に新しい女王蜂が生まれると、半分の働きバチを引き連れてまた新たな営巣を行う。

ただ、向こうの蜂と違って働きバチも越冬をするし、新たな女王蜂が育つのには数年はかかるらしい。


そして巣別れをする時期は夏の盛り。

雑食のあいつらは暑い時期に巣を作り直し、秋の実りを巣にため込んで冬を越す。

気温は上がってきているとはいえ、まだ初夏に当たるこの時期に女王が巣を空けるとは思えない。蟻や蜂のような危険度の高い蟲人の行動は、前代魔王の時代からずっと研究され続けているんだ。こういった間違えると致命傷になるような情報の精度は高く、例外はほぼ無いと言っていい。


「あたしの地元だと少し早いけど、それでもまだ季節じゃないわね」


「標高もそう高くないから、私も時期がずれているとは思わないがね」


「それでも、注意するに越したことは有りません」


まあ、あれをハグレと見るか巣別れと見るかは微妙か。


「蜂や蟻の出現は5年から10年に1度くらいの頻度ではあります。早期に巣を見つけて焼き払うのが対処方ですが……今の人数では村を守るのが手一杯なのです」


……大体俺たちが呼ばれた理由が分かったな。


「つまり、蜂の巣かその残骸を見つけて、残りが居たら始末してほしいと言うわけね」


「はい。その通りです。皆さんはたった数人で30匹近くの蜂の蟲人と女王を無傷で打ち取ったと聞いております。ぜひお力をお借りできませんでしょうか」


いやー、一歩間違えば死ぬところだったけど。


「どうする?」


「どうするも何も根本的な解決になってないでしょう」


村の人口が何人か知らないけど、家の数から言うと100~200の間くらいか?それに対して兵力は10人足らず。行方不明の人たちの安否は絶望的。これを乗り越えたってどうにかなるものでもない。


「ぶっちゃけ移民をおススメしますよ? 当代魔王の時代になってから、あなたたちみたいなちょっとだけ違う人への差別も減ってますし、役所に掛け合えば人手不足困ってる開拓地を貰えますよ」


無理な開拓を控えては居るが、人間の領域内でもまだまだ整備が必要な場所はたくさんある。

魔王が労働環境の改善に力を注ぎこんでいるおかげで、そう言った面は日本に比べてだいぶホワイトだ。街で働く希望が無いなら、場所によっては一攫千金も狙える開拓移民はそれなりに人気のある職業と言えるだろう。


「我々に村を捨てろというのかっ!」


副団長殿はご立腹の様だが、この騒動の原因が蜂だとして、その後やっていける見通しが立つとは思えないんだけどな。


「外の世界が目まぐるしく変化しているのは知っております。村の若い者で、外に出て行ったものも居る。ですがここを離れる事は出来ません。ここは街から遠い。子供も老人も居る。皆で森を抜けるのは難しいでしょう」


……確かにあの森の中を大人数で移動するのはな。襲ってくれって言っているようなものだろう。

俺やサクラさんが護衛に着いたところで、カバーしきれなくて被害が出るのは目に見えている。

ギルドか、あるいは魔王軍に救援を要請するってのが妥当なところだろうけど。

ギルドは金がかかるから軍かな。ただ、それは最後の手段だし、できれば俺の素性はまだ隠しておきたいから提案しづらい。

街に戻ってステータスカードで連絡を入れて、軍を派遣してもらうのが手っ取り早いけど……どこの駐屯部隊が来るにしても半月くらいはかかりそうだ。巣分けだった場合、その間村が無事でいられるか分からない。


「巣分けだった場合、俺たちだけで攻略は無理ですよ?」


蜂の蟲人はサイズがデカいから樹木の上に住処を作れない。その代わりに地上や地中に巨大な巣を作る。多くなると1000匹以上の蜂が暮らすようになる巣はダンジョンそのものだ。

巣分けでは巣に残る蜂の方が多いらしいし、正直相手にできる数には限界がある。


「近年の目撃例はありませんでした。村の近くでないなら主を誘導してけしかけることも可能です。まずは調査をお願いする、と言った形になりますでしょう」


……まぁ、周辺の安全確認は必要か。


「呼ばれたって事は、メアリーさんはOKって事ですよね?」


「ええ。今のままここを放っては帰れないし……ごめんなさいね」


「ラーンさんは?」


「帰る道中にもっと大きな群れに襲われたら、今度こそ命に係わるよ。多少は安全と分かっている拠点があるんだ。周辺の調査をすることに異論は無いよ」


「サクラさんは」


「あたしはどっちでも。アキトの魔力が尽きてるから、ちょっと不安だけどね」


「ありがとうございます」


……サーヤに確認しに行ってもらった件もあるし、ここは様子を見ておくか。しかし、定形外依頼かなぁ。まためんどくさい。きっとギルドの事務員さんには嫌な顔されるだろう。菓子折り分くらいは多く稼がないとダメかな。


「……んじゃ、報酬しだいってところですね」


何にせよ報酬を貰わないことには、こちらの首が回らなくなる。

あまり金のある村ではない気もするが、慈善事業なら救援依頼を出すくらいにすればいい。


「はい。残念ながら現金の持ち合わせはそう多くありませんので、物でのお支払いになりますが、こちらを」


村長がテーブルの上に置いたのは、小指の先くらいの大きさの光石。

透明な物が2つ、白い雲が入った物、黄色味がかった者、うっすらと青みを帯びている物が1つづつの系5つ。


「……宝石の原石かしら?」


「形からして、一応カットしてあるみたいですけど……失礼」


未加工のこういった原石は、相当珍しい石でもない限りあまり価値が無い。

モノクルで識別をしてみると、どれも水晶と出た。白い雲が入った物も含くめて、透明なものはクオーツ。黄色い物がシトリン。青みを帯びているのはアメジストだ。品質は分からない。見分けるだけの知識が無いからしかたない。


「これは魔石です」


「魔石?」


この間、うさぎの主と戦った時にギルドから借りて使わせてもらったものだ。

魔力の密度が高い石で、魔術を使う時に魔力を肩代わりさせることができる。ステータスカードの魔術発動にはそのままは使えないが、魔素吸収(マナ・ドレイン)を使って体内に取り込むことで魔力不足を補うことが出来る。

モノクルを魔素モードにして確認すると、確かに、周りに比べて高い魔力を秘めているようだ。


「確かに魔石ですね。これをどこで?」


「すでにかなりの鉱脈が掘られた後ではありますが、東にある望郷の渓谷は魔石や貴重な金属の産地でした。ここからであれば、足の速い者が1日走ればつくことができます。そこでかつての坑道から少しだけ採掘を行い、生活に必要なものの購入に充てています」


望郷の渓谷……どっかで聞いた名前だ。依頼を受けた時だっけ?何で名前が出るのかと思ったら、結構な鉱山地帯だったわけか。

ギルドから借りた魔石はピンポン玉くらいの大きさだった。空気中の魔力を集めて徐々に回復する加工がされていることもあったのだろうが、大金貨1枚……一万ゴルは下らないと聞いた。

これは全てをまとめてもその大きさには届かないし、未加工の使い捨てだけれど、それでも千~二千ゴルには成るんじゃないだろうか。

いや、金額よりも魔力が少ない俺にとっては、手に入らない魔石が得られることが貴重か。結構おいしいかもしれない。


「……価値を測りかねますね」


「うちの店では、そのサイズと魔力量なら1つ500ゴルくらいですね。秘められている魔力の分量は、おおよそ0.2人分。5つで一人前と言ったくらいでしょうか」


結構なお値段だ。


「……この村に来なければならなかった理由はコレ?」


「以前お世話になったのは本当ですよ」


……のほほんとしてても商人と言う事なのか。


「実用的ではありますが、小売り価格では当てになりませんよ。……現物ならこの3倍ですね」


「……渓谷まで走れるものが少ない今、そう出せるものは無いのです。後……5つくらいなら」


「じゃあ、前払いで五つ。終えて五つ。それとこの村での滞在費をそちら持ちで、情報収集のために村の中を自由に出歩いて、村人と話をすることを承諾いただければ受けましょう」


俺の提案に、村長と副団長が顔を見合わせる。

たぶん一番最後の提案は想定外だったのだろう。しかしこの提案は断れない。断ったら何か隠したいことがあるというようなものだからだ。


「……わかりました。村の者には協力するようにと伝えておきましょう。滞在も客間を使っていただいて問題ありません」


よしよし。これでサーヤが何かつかんできた場合にも大手を振って調べることができる。


「それじゃあ、商談成立ってことで」


テーブルの上に広げられた宝石を摘まむと、巾着タイプの財布へと押し込んだ。

8月中に何とか投稿できました。

執筆ペースが上がってきたので、何とか継続したいところです。

次回は9月中頃、事情聴取回+アルファを予定しています。


■変身魔法(種族変化)

人類のある種族へと肉体を作り替える、または元に戻す魔法。

作中では変身魔法と訳されているが、基本的に人類24種族以外には成れない為、種族変化と呼ぶ方が正しい。

体格は元より、大きさそのもの、組成、実体の有無なども変化し、各種族の特徴が跳ね委されるが、姿は使用者により各種族ごとに固有で、好きな姿に変身できるわけではない。

また変化後は寿命も変化し、鬼族などになった場合は呪いの影響も受ける。


また、アキトの使うステータスカードにはプリインストールされていない。

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