風の丘を越えて
今週も無事更新ができました。
翌日、おおよそ待ち合わせの場所である東門に行くと、アリスとピーターを連れたポンさんが既に待っていた。
「おはようございます〜。今日からまたよろしくお願いします〜」
「こちらこそ。メアリーさんとラーンさんはまだですか?」
「朝方に彼らのかごを乗せてもらったので、もうすぐ来ると思いますが〜」
ポンさんの話した通り、門の向こうにラーンさんの引く荷馬車が見えた。
「おはようございます〜。今日からよろしくお願いしますね」
「こちらこそ」
「みんな揃っているね。入り口では邪魔になるから少し動こうか」
周りにはこれから風の丘やその先に行くらしき冒険者たちがちらほら見受けられる。
ラーンさんがロバを引いて東門から少し離れた広場へ移動する。結構でかいなぁ。
馬に比べると毛が長く、ずんぐりむっくりした体形。体高は1メートルちょっとくらいか。頭がわずかに俺の背より低い。ロバってもっと小さいイメージだったんだけどな。
荷馬車は四輪のもので、この世界では中型のもののようだ。幌はついていないが、シャフトや軸受は金属製なので結構いいものだろう。行者席はぎりぎり二人掛け。2メートルほどの荷台には木箱がいくつか並べられていた。アリスとピーターの籠も乗っているのが見える。
「さて、今日の予定ではまず風の丘を越えてエルルまで行ってしまおうと思う。荷台はあけてあるから、必要なら荷物を置くといい」
俺とサクラさんの荷物の大半は、新しく買ったリュックに詰めてサクラさんが背負ってくれている。
「アリスとピーターは乗せなくて大丈夫ですか?」
「風の丘までは道草を食わせながら行きましょう〜。ロバは引きますので、二羽のリードをお願いしていいですか〜?」
ポンさんから二羽のリードを受け取る。サクラさんはリュックを荷台に乗せ、いつものようにハルバートを背負って準備完了だ。
「それじゃあ、出発しようか」
今日の目的地であるエルルは、シルケボーから丸1日歩いて風の丘を越えた所にある村らしい。
荷馬車にはメアリーさんが座り、ポンさんがロバを引く。サクラさんが一応先頭、子兎たちを連れた俺がその後ろで、さらに後ろにポンさん、最後尾がメアリーさんとラーンさんだ。
子兎2羽は跳ねては道草を食い、跳ねては道草を食いを繰り返している。畑のほうに行ったりしないので、どうもそういうのはわかっているようだ。
「アリスとピーターは丘では籠の中?」
「はい〜。そのほうがいいと思いますよ〜。この子たちが要ると、春兎たちが集まってきてしまいますので〜。ラーンさんが匂い消しの魔術が使えるそうなので、それで丘を抜けましょう〜」
なるほど。確かにこいつらを連れて丘に行くと、母兎たちが集まってきていたな。
それに合わせて雄の兎が俺に喧嘩を売りに来るから、うっとおしいことこの上ない。
「そう言えば、丘を越えた先の魔獣や獣の生態とか誰か詳しいですか?」
情報収集は基礎中の基礎だ。一応は道が引かれているらしいけれど、行軍速度は先の情報によって大きく変わる。
「魔獣だったら私が、家畜類はポンさんが詳しいだろうが……たぶん一番詳しいのはメアリーだろう?」
「私は学者では無いので習性はわかりませんよ~。危険性とか、素材になるかくらいなら」
「蟲人ならあたしも見れば分かるけど……」
「それなら俺だってそれなりの種類の魔獣はわかりますが……そのへんはやっぱり聞きながら行くしか無いですかね。場合によってはガイドを雇いますか」
見知のモノクルがあるから、知識として持っている物なら覚えてなくても引き出せる。
ただ、そもそも遭遇するとヤバイ類の魔獣も居るから、そういうのを避けていくにはどうしても現地の人の助けが必要になる。
「それについては、エルルに着いてから考えよう。あそこも一つの難所だしね」
「……どういうことです?」
話を聞く限り、エルルはシルケボーより小さなどこにでもありそうな集落だ。その先も街道が続いているし、難所と言われる理由が想像付かない。
「こればっかりは行ってみないとね。まぁ、行けば分かるさ」
曖昧な返事しか帰ってこないってどうなのよ。
「差し当たって、今日の問題は春兎だろう。エルル付けば、その先は一角狼の縄張りだから、うさぎは気にする必要がなくなる」
「一角狼ですか?」
なんか名前は聞いたことあるな。
「一角狼は、昔この辺を支配地域にしていた狼の魔獣ですねぇ」
「いい機会だから簡単に説明しておこうか。一角狼は名前の通り額に一本角が生えた狼の魔獣だ。体高は1〜1.3メートル、成体の兎と同程度か、少し大きい個体が多いかな。少なくとも番で、多くは群れで狩りをする肉食の獣だ」
メアリーさんの店で買った本に書いてあったな。
「一番の特徴はその額の角。彼らは獲物を仕留める時、対になる個体と獲物を挟む用に位置を取り、角から放つ雷撃で獲物を感電させる。そして動けなくなった獲物を仕留めるんだ。この雷撃は一方からもう一方へ向かって放たれる。なぜそうなるのかは今のところ不明」
そうそう。多分電極の関係なんだろうけど、こっちの世界じゃまだ分かってないらしい事が書いてあったっけ。
雷撃を放つのが番の牡牝どちらか一方というわけではないってことはわかっているらしいけど、逆にそれだと場合によってプラスにもマイナスにもなるわけで、生体構造が謎だ。
「雷撃は人はもちろん、大型の春兎を麻痺させるにも十分な威力がある。大鼠くらいなら雷撃だけで仕留められるだろう。最も、彼らはネズミを仕留めるのに雷撃など撃たないだろうがね。もとが狼だけ合って彼らは身体能力だけでも優れたハンターだ。ここにいるメンバーだと、正面切って殴り合えるのはサクラくんだけだろうね」
「俺は大概の魔獣とは正面切っての殴り合いはしたくないですね。雷撃の対処法とかあるんですか?」
「襲われたときを考えるなら、挟まれないことだね」
「それは雷撃の対処法って言いませんよ」
「雷撃は金属などで誘導出来るらしいが、挟まれたら両側から撃たれるからほぼ意味が無いらしいよ。盾で防げるという話も聞くが、真実かは微妙だね。一面しか防御できない盾を試した報告事例がなさすぎる。似たような魔術を使った実験で、全方位を覆う泡の盾と言う魔術や、貝の守りという魔術なら防げたという報告はあるね」
「聞いたことが無いですね」
「マイナー魔術だからね」
ステータスカードにプリインストールされているだろうか。
「まぁ、あまり心配する必要はないよ。一角狼は魔王が行った契約以後、人類とは友好関係にある。こちらから手を出さなければ襲われることもないはずだよ」
「見たことあるの?」
先頭を歩いていたサクラさんが、興味深げに振り返った。
「ああ。エルルには何匹か居座っているはずだよ。兎が森に侵入するのを防ぐために、境界付近にはそれなりの数がいるらしくてね。エルルでは彼らの為に軒を貸している。彼らはうさぎを始めとした魔獣が村に入るのを防ぐ。いわば共生だね」
『頭のいい魔獣なんですね〜』とポンさん。
「そうだね。私も調査をした際に見たが、人の言葉も理解しているような雰囲気があったね」
……ふむ。魔王と契約を交わしたって話だし、うさぎの主の様に狼の主も人の言葉を放すんだろうか。もしかしたら、それ以外にも会話が出来る個体がいるかも知れないな。
「最近この話をした覚えがあるんだが、いつだったかな。一角狼は元々風の丘を含めたこの辺一帯を支配していた魔獣でね。先代魔王の時代に人類との闘争に負けて東へ逃れた。その人類はうさぎに負けて風の丘を明け渡した。その兎は、森の狼に十分な食料となってくれた。おかげで人と狼は争う必要がなくなったわけだ」
「当代の魔王様は、在位されてからずっと狩りすぎてはいけいないと言いつつけている。風の丘の兎達、北の沼地の蛙、東の森の狼、西の人類、そして南にクロートスト大河、この形を維持し続けるほうが、全てに置いて良い環境になるとね。まぁ、主との盟約もあるのだろうけど」
生態系の維持か……。魔王がこの世界に来た時に、文明レベルや魔獣の生態的にそう言う概念は無かっただろう。
技術は日進月歩で、人類は安定を得つつあるらしい。俺には直接関係ない話だけれど、この先もそれを守っていくのはなかなかに骨が折れそうだな。
「一角狼以外に、危険な魔獣や蟲人は居ないの?」
「魔獣はこの辺りと変わらないはずだよ。蟲人は……ハグレがたまに出るらしいがね。蟲人は雑食だろう?狼の縄張りを荒らすからね」
「一角狼が狩っちゃうか〜」
「営巣するような蟲人は特にね」
サクラさんの呪いは影響が出始めるまでに後2ヶ月くらいだっけ?
この旅の途中で、1体くらいは蟲人を仕留めたいところだ。
ちなみに、ラーンさんを始めとした面々には蟲人による発狂の回避のことを話してある。ラーンさんとメアリーさんは聞いたことがあったらしい。
ポンさんは知らなかったようだが……話を聞く前によく着いてくる気になったよな。……この人は何も考えていない可能性があるからなぁ。
そうやって雑談をしながらシルケボーを出ておよそ2時間。
「少し早いですが、森を抜けたら一度休憩をはさみましょうか」
緩衝地帯の森を抜け、風の丘の入り口までやってきた。
□□□
風の丘の様子は相変わらずだ。
草原には兎が点在しているし、遠くには走る鶏もどきと呼ばれるダチョウだか鶏だか分からない鳥の群れが見える。
そう言えば、馬とか鹿とかの亜種みたいな生物は見ていないな。ここは草食動物天国だから、居てもおかしくない気はするんだけど。
「うさぎ達の様子はどうかな?」
「今のところ、こちらを気にしている雰囲気は有りませんね」
あたりに気を使いながらも、速足で歩みを進める。
ラーンさんが掛けてくれた隠れ身のおかげで、こちらを気取られている様子はない。もちろん、まったく気づいていないわけじゃないのだろうけど、いつものようにうさぎ達が絡んで来ないので、ちゃんと俺たちだと認識はしていないのだろう。
「メアリーは大丈夫かね?」
「大丈夫よ〜。それにしてもいい天気ねぇ」
麦わら帽子のような大きなつば付きの帽子をかぶったメアリーさんが、空を見上げてまぶしそうに眼を細めた。
こう天気が良いと、彼女の肌の白さが一層際立つ。そして空を見上げると、乳白色の長いローブに隠されたその胸も……サクラさんに睨まれた。
風の丘の行軍は、うさぎの事もあるからあまりのんびりはして居られない。
隠れ身だって音を無音にする魔術ではないから、無駄口をたたいて気づかれたら面倒だ。
「そう言えば、この辺って梅雨とか雨季は有るんですか?」
6月ももう半ばだ。日本の感覚で言うと梅雨時なんだが、こっちじゃどうなんだろう?地理的にはなさそうな気もするけど。
「ん?……ここはバイオームだからね。多少の雨は降るし多少の気温の上下は有るけど……そう気候は変わらないよ?」
あ……翻訳に齟齬が出たな。梅雨とかないか。気を付けよう。
しかし、そういえばバイオームって言ってたな。草原バイオームだっけ?
周りの植生や気候から言えば森になっておかしくない所が、ずっと草原のまま維持されているのはバイオームと言うこの世界特有の……地域の影響?のようなものらしいね。
地脈だか魔力だか、そういうのが影響しているんでしょう。よくわからん。とりあえず雨を気にしなくて良さそうなのはありがたい。
途中、街道沿いに居るうさぎを避けたり追い払ったりしながら丘を進む。
「そろそろいったんこの子を休ませたいのですが〜、どうでしょう〜」
ロバを引いていたポンさんがそう提案したのは、丘に入って2時間ほどが経過したころだった。
正確な時間とかもわかればいいんだけど……ステータスカードの機能として要望してみるか。もしくは腕時計をくれとせびるか。
自分のを持ってくるべきだったなぁ。この世界じゃオーバーテクノロジーだからって、城に置いてきてしまった。
「この先に小川があるはずだね、そこまで行ったら休憩を取ろうか」
「そうですね。それで行きましょう」
風の丘に入ってからは、早歩きに近いペースで休みなく進んでいる。
アップダウンもあるし、そろそろ休憩してもいい頃合いだ。
しばらく進み、緩やかな坂を下りきったところでラーンさんの言った通り小さな川に当たった。
川幅は50センチほどで橋はかかっていない。おそらく深さも十数センチと言ったところか。街道になって居なければ足を踏み入れるまで気づかないかもな。
川を越えたところで草を簡単に切り払い休憩スペースを作り腰を下ろす。
ロバは小川で水をゴクゴクと飲んでいる。どうやら結構のどが渇いていたらしい。
準備しておいた水筒で一息つく。さて、単にぼっと座り込んでるわけにも行かない。
「結構な速度で来ていると思いますけど、エルルまで半分には届いてないですよね?」
道標の番号を見るに、まだ全体の2/5から3/7くらいじゃなかろうか。
「このまま今のペースで歩くと、日暮までには着けるかどうかと言ったところかな」
現在時刻はおそらく午後一時前後、日暮れまではまだ5時間以上あると思うが……。
「確率は高くなさそうですが、兎を含め魔獣に襲われると日没に間に合わなさそうですね」
日が落ち始めるとムカデやネズミなどが顔を出す可能性もある。
人間だけならどうにでもなるだろうが、荷馬車の荷物を守るのは結構面倒な仕事になるだろう。できれば日が暮れる前にエルルに着いてしまいたい。
「これ以上速度を上げるのは厳しいですね〜。この子がついて行けません〜」
異世界だからと言って、ロバのスペックが異常に高いとか、そういうことはないからなぁ。どういう進化をだどったのか、それとも始まりの女神が持ち込んだのかは知らんが、日本語でそのまんまの生物は地球とそう大きな違いはない。ロバはロバだし、鶏は鶏だ。春兎はよくステータスカードの翻訳魔術でうさぎと略されているけど、魔獣ではない所謂普通のうさぎも存在している。
そんなわけで、荷馬車を引いているロバはあまり高速には移動できない。
「今のペースでは?」
「頑張ってもらえばと言ったところでしょうか〜。止まったり走ったりの繰り返しは結構負荷が大きいですよ〜」
「明日の事は魔術でどうにかなると思うが……アキト君、どうする?」
「どうしましょうか……思った以上に街道沿いにうさぎが多いんですよね」
隠れ身で襲撃を防いでいるが、数メートルの位置まで近づくと気付かれる可能性がある。そのために進路上にうさぎが居る場合は、追い払うか迂回するかしなければならない。そのたびに足を止めているせいで、速度は速いのになかなか距離が稼げていないのだ。
「……荷馬車が軽くなれば、多少の負荷も減りますかね?」
ふと、ステータスカードの魔術の事を思い出す。
「軽くですか〜?確かに多少は余裕ができると思いますが〜……荷を持って走ります?」
「それはさすがに勘弁ですよ」
いや、ポンさんの言うように荷物を持って走るのもサクラさんならできるだろうけど、俺にゃ無理だ。
少し走るというのは有りで、それほど道がよくないとは言え小一時間も走ればずいぶん距離が稼げる。サクラさんは体力的には余裕だろうし、俺も伊達に体力値が人間族の平均を超えているわけではない。それに疲労は魔術による強制回復も可能だ。ただ、さっきから話しているように、荷を引いているロバはそうそう走れない。
「使える一つに軽量化があるんですけど、荷馬車に使ってみましょうか?」
軽量化は対象物体の重量を軽くする魔術。効果としては、対象物に重力と反対の力が働くらしい。質量自体は変わらないけれど、軽くなる分荷馬車の負荷は減って引きやすくなるだろう。
ただ、効果が魔力に影響するっぽいので、どれだけ効果が出るかは謎だ。
「珍しい魔術を使えるのね〜。符やアミュレットではよく見るのだけれど」
メアリーさんのほほに手を当てるしぐさが可愛い。
「発動はしますけど、使いこなせるわけじゃないからどの程度効果があるかは謎ですよ」
サクラさんの視線は刺さる。
「引くのが多少でも軽くなれば、今のペースを継続できると思いますよ〜」
「効果があるかは不明だけどね」
「サクラさん、そこ強調しなくて良いですから」
「アキトの魔術は切り札みたいな物なんだから、変なところで魔力使って、いざという時役に立たないとか止めてよ」
「それはごもっとも」
魔力だけ尽きて、効果が微々たるものでしたでは意味がない。
「そう言えば、ポンさんは魔術は使えないのですか?伺った年齢だと中等教育までは進んでいると見ました。ポックルなら呪歌も歌いますよね?」
ラーンさんがポンさんに問いかける。呪歌は魔術の一種で、歌にのせて声の届く範囲に影響を与える。少ない消費魔力で歌っている間はずっと効果が得られるという、ちょっと変わった特性がある。
「多少は使えましたが〜……生活のためにウクレレを質に入れてしまいました〜」
ダメだこの人。冒険者が自分のスキル殺してどうするよ。
「楽器なしで使えるのは、陽気な歌くらいですね〜」
陽気な歌……聞くと何はなくとも明るく陽気な気分になるというあれか。鎮魂歌の破壊者ってどうでもいい二つ名もあったな。大概はポックルが葬式に乱入して歌って、後で顰蹙を買うやつだ。
「……使えるんだ」
サクラさんがなんとなく落ち込んでおられる。どうも魔術は全く駄目のようだからなぁ。
「サクラくんは初等教育でやらなかったのかい?」
「あたしは魔術はからきしダメだったのよ」
「そうか……まあ、魔術の習得は難しいからね。私も偶に教師のまねごとをしているが、どう教えたものか。私自身、今の制度の学校には通ったことが無いのでなかなか難儀するんだよ」
「……そういうものですか。……あれ?ラーンさんって初等教育受けてないんですか?」
初等教育は今の魔王がこの世界に来てすぐ制度を立ち上げたと聞いている。
種族によって始まる年齢はバラバラだが、日本の義務教育と同様に受けさせる義務があり、かつ魔王が設立した法の中ではかなり重い刑罰がおかれているから、受けていないのは極めて珍しい。
「今の学校が制定されたのは二十数年前だよ。広まるころには研究テーマを決めていたさ」
……龍人族っていくつから働くんだよ。つーか、そういえばこの人いくつだ?
「……ラーンさんって、いくつなんですか?俺よりちょっと年上くらいかなと思ってたんですけど」
「まだ41だよ」
「41!?」
めっちゃ年上じゃねぇか。
「うそ、落ち着いてるからあたしもっと上かと思ってた」
「ラーンは昔から上に見られるわねぇ」
いやいや、おかしいだろ。ラーンサンの外見、せいぜい二十代半ばってところだぞ。もっと上に見えるとかどういうことだよ。
「そんな年齢にはとても見えませんが……」
「そう言われたのは初めてだよ。大人にみられるのは悪い気分じゃないが、面倒も多くてねぇ」
「昔から、そういうところが子供っぽくかったわよねぇ〜。テーマを決めたのも早かったし」
ん?
「いつから働き始めたのよ?」
「二十歳の時だよ。周りにはさすがに早いと言われたけどね」
んん?
「それは凄いわね……でも、年上にみられるのは自業自得よね?あたしや、たぶん年上のアキトを君付けで呼ぶし」
「ハハハ、それはまぁ」
「龍人族はそんなものよ〜」
んんん?
「すいません、話について行けないんですが」
「何がよ?」
「……41って、一番年上ですよね?」
「……いや、メアリーさんがいくつかわからないけど、この中で一番年上はポンさんじゃない?」
「……はえ?」
え?なに、どういうことだ?俺が17、サクラさんは15だっけ?メアリーさんは年齢不詳だけど、見た目から20代前半だろう。ラーンさんは41、ポンさんは全然見えないけど24……あれ?
もしかして、翻訳が微妙におかしなことになってる?
ええっと……。
「俺は今17で、ラーンさんは41、あってます?」
意識的に約束の地の言葉で話してみる。これで返答が違ったら翻訳魔術がおかしい。
「そうよ?何かおかしい?」
「算数レベルで大小の比較がおかしい」
実は混乱の魔術とかで攻撃されてたりしないよな?
「……もしかして、アキト君は経過年齢で数えているのでは?」
「経過年齢?」
「ああ、なるほど。……アキトって微妙に抜けてるところあるから、そうかも」
「抜けてるとは失礼な。……経過年齢ってなんですか?」
「知らない時点で抜けてるじゃない。経過年齢はそのまま、過ごした年数の歳よ。さっきあなたが言った通り、アキトなら17、ラーンさんは41」
……単なる年齢じゃないか。
「ラーンさんは龍人族だから、比較するなら種族年齢で比べないと。龍神族って、人間族から見て2.5でいいんだっけ?」
「それであっているよ」
「じゃあ……えっと41割る2.5だから……人間族で言うと16歳とちょっと」
「……へ?」
サクラさんが小数点の計算をするだと!?……いやいや、そうじゃない。
「アキト君は人ばかりの集落で暮らしていたのかな?人類は種族によって寿命が違うだろう。当然成長の速度も違うからね。経過年齢は当てにならないよ」
そう言えば、龍人族や森人族は長寿だったっけ……。逆に妖間族の中の1種族であるゴブリンは短命と聞いていたな。
歳の数え方で齟齬が出るとは思ってなかった。……もしかして忘れてただけか?
「ちなみに、一律に計算できるわけでもないよ。特にエルフは種族によって誤差がひどいね。一昨年に教えた子供が、見た目は人で言うなら10代も後半の大人びた外見なのに、中身は他の子どもたちと大差なくてねぇ……」
ラーンさんが遠い目をしている。ラーンさんが教師をしている初等学校って小学校の事だから、見た目高校生とか大学生とかくらいで、中身は小学校低学年か。うん、逆コナン君。とてもめんどくさそうだ。
「ええっと、何の話をしていたんでしたっけ〜?」
ポンさんが脇にそれた話を元に戻す。
そー言えば、今後の進み方の話をしていたんだっけ……。
特にいい案があるわけもなく、軽量化を試してみることになった。
ようやく旅が始まりました。今回も会話多め、たぶん次回もですね。
×次回は2/5くらいに更新予定です。
↓
2/4追記:次週ちょっと長めの出張が入ったため、前後の更新は未定です。すいません。
……所で御新規さんが増えてないっぽいのは、とっつきが悪いからですかねぇ。
□経過年齢と種族年齢
各種族で成長速度や寿命が違うために用いられる便宜的な年齢の分類。種族間で比較をする際には、種族年齢を用いる。
経過年齢で見ると、人間、鬼、ポックルは若いうちは種族年齢も変わらず。つまり成長速度はほぼ同じ。龍人は少し成長が遅めである。
種族年齢は成長速度と大まかな寿命をもとに計算されていて、寿命で言うなら人間=ポックル≒<鬼<龍人とされる。




