平穏な日々と厄介な依頼 1
お久しぶりです、hearoです。
ずいぶん間が空いてしまいましたが、本日より第3章を投稿開始いたします。よろしくお願いいたします。
当面は週一更新を予定していますので、ゆっくりお付き合いいただければ幸いです。
シルケボーについてから半月以上、風の丘で春兎の主とやりあい、子兎を託されてから十日ほど経った。
このところはギルドの依頼を一つこなすのと合わせて、風の丘や緩衝地帯の森で狩りをして、2日に1度は子兎を丘に連れて行く日々。
依頼のほうは生活費に少しプラスと言った具合だが、丘でうさぎに絡まれることもあって狩りのほうで順調に稼ぎを増やしている。
パーティーの共用金も600ゴルを超えた。
個人が自由に使えるお金として収入の2割を二人で分けているが、それを合わせれば6月分のレンタル費用は払えるだろう。
そうでなくとも、あと数日中には必要な軍資金がたまる予定。そろそろここを旅立つのも考える時期だ。
何気なくギルドカードとステータスカードを眺める。
■冒険者カード
名前:アキト・ハザマ
年齢:17
種族:人間族
出生地:エターニア
登録地:エターニア
ランク:2
職業:勇者(第三魔王歴25年5月16日まで変更不可)
資格:エターニア警邏隊試験合格
称号:なし
■クエスト
駆除:3/3
採取:2/2
狩猟:2/2
輸送:2/3
調査:1/1
限定討伐:1/1
討伐:1/1
■特記事項
人命救助の為に依頼達成が困難になり発生したアキト・ハザマの負債は三代目魔王ソーマが肩代わりする。
■ステータスカード
名前:アキト・ハザマ
年齢:17
種族:人間族
状態;健康
レベル:1(1)
筋力;118
体力:121
瞬発力:107
知識:215
守備力:91
魔力:35
経験値:263
Next:37
こなした依頼はめでたく10を超えた。今のところ、失敗はキルナ村の輸送依頼だけなので順調だ。
ステータスカードのほうは地味に上昇している。筋力と体力と魔力が+1、瞬発力と知識が+2、守備力は変わらず。経験値はだいぶ溜まっていて、3レベルに必要な量を満たすまであと少し。
とはいえ経験値稼ぎをするつもりはないから、稼ぎは運しだい。……まぁ、運が悪いと溜まるので、できれば溜まらないほうが平和でいい。
旅の準備はある程度始めている。
大きめの革製リュックを購入したし、日用品も各種取り揃えた。二羽の子兎――アリスとピーター用の道具もほとんどそろっている。
あと飛ぶ剣用にナイフを2本ほど新調した。以前買ったマントも合わせると結構荷物が増えてきたけれど、まだぎりぎり何とかなる。
そんなわけで、残りは多少の路銀と、二羽をどうするかという根本的な問題を残すのみ。
とりあえず、一度は社の森に出向いてみようか。
その急な依頼が舞い込んだのは、そんな話をしていた日の朝だった。
「護衛の依頼ですか?」
依頼が張り出されるころを見計らってギルドに顔を出すと、ギルド職員のアイリーンさんに呼び止められて商談スペースへと通された。
「ランク2の項目に護衛なんてあったかしら?」
サクラさんが首をかしげると、ショートボブっぽい白い髪が額の角に沿って舞う。
「護衛の項目正式な追加はランク3からになりますが、指定なしや指名の場合などは受けられますよ。扱いは輸送と調査の複合依頼になります」
「複合依頼ですか?」
『街を出る前に髪を切りに行こうかしら』とつぶやくサクラさんを横目に、聞いた覚えのない言葉を聞き返す。
「1回で2つの項目にカウントされる依頼の事です。この間の緊急依頼も、調査と討伐の複合依頼ですよ。あまり使わない言い回しなので、覚えなくても大丈夫です」
ふむ、そういうものがある、くらいに思っておくか。
「いろいろと疑問はあるんですが……なんで俺たちなんです?」
「詳しい理由は依頼主に聞いていただくのが良いと思いますが、世界の架け橋を直接の指名になりますので」
直接指名?
「依頼主はラーン・アーロさんです」
俺の疑問に、アイリーンさんはそう答えた。
そして俺とサクラさんは顔を見合わせる。
ラーン・アーロさん。
子兎の世話や風の丘での依頼で一緒に仕事をした冒険者のひとり。
ランク3の冒険者で魔術師、シルケボー近辺の生態調査をテーマとする龍神族の研究者でもある。あと教師。
栗毛色の長い髪と、うっすらと分かる程度の肌色のうろこが特徴の、落ち着いた雰囲気の美人さんだ。
人間に近いタイプの龍神族で、冒険者にしては細身のほうだろうか。身長は俺より低いはずだけど、龍神族の特徴である鹿の角が2本、頭頂部の左右から生えているのであまり小さいイメージがない。
サクラさんと並ぶとサクラさんの小ささが目立つ。
ちなみに、サクラさんの角は額の少し上に2本ちょこんと生えている感じで、身長を増す役には立っていない。
「ラーンさんがなんでまた。どこかにフィールドワークにでも行くんですかね?」
ここ最近はうさぎの主が住む社の森に入り浸っていたはずだ。最後にあったのは3日くらい前だっけ。
「この間会った時にはそんな感じじゃなかったわよね?」
丘の集落から一緒に戻ってきて……しばらくは街で資料をまとめると言っていたはずだ。
「詳しい内容は直接伺うのが良いと思われますが、どうされますか?」
……護衛の依頼か。
「どうします?」
「話を聞くくらいはしてもいいんじゃないかしら。受けるかどうかは、話を聞いてからね」
護衛は依頼が長期化しやすいらしい。鬼の呪いの事もあるし、大森林を目指すならそろそろ南に向かいたいからなぁ。
「それじゃあ、まずは話だけ聞いてみるってことで」
「かしこまりました。朝方にはこちらに来られるとのことでしたので、このまましばらくお待ちください」
アイリーンさんが書類をまとめて小部屋を出ていく。
「実際どうします?」
「内容と行先次第じゃない?アリスとピーターの事もあるしね」
子兎を連れて護衛の依頼って受けられるもんなんだろうか。……ラーンさんなら気にしないか?
しばらく待つとラーンさんが一人で商談スペースへを入ってきた。
「すまない。待たせてしまったようだね」
「かまいませんけど……アイリーンさんはどうしました?」
依頼の打ち合わせでは職員が誰も立ち会わないことはないはずだ。
「いろいろと手続きがあってね。先に来させてもらったよ。話はどの程度?」
「さわりだけですよ」
「そうか。まあ、急な話だったしね。何から話そうか……まずは依頼人の話かな」
依頼人?ラーンさんが依頼人じゃないのか。
「正式な依頼主は私の友人でね。彼女から私に依頼が出されているんだが、私自身はこの通り独り身で、しかも後衛だから護衛の仕事には向かない。だから君たちに依頼を出したというわけさ」
「なんであたし達に?」
「考えられる限り最大の能力があって、不測の事態にも対応できそうというのが一つ」
「不測の事態が起きそうな依頼なんですか?」
「護衛以外のところでね。詳しくは彼女が来てから話そう。それと、君たちを指名した理由……というか、公募しなかった理由がもう一つある」
「公募しなかった理由?」
「そう。公募すると依頼主の名前を出さなきゃいけないんだが、できればそれは避けたかった」
「……あまり公にしたくないってこと?」
「そういうわけでもないんだけれど……護衛の公募は早い者勝ちではないからね。まじめに依頼を出すと男共がうるさくてかなわない」
「?」
「ああ、依頼主はたぶん君たちも知っている人だよ。話したら、店で見かけたことがあると言っていた。……特にアキト君は何度か会っているようだね」
なんでこっちを向いて微妙な顔をするんですかね?
「お話し中失礼します。手続きが終わりましたのでお連れいたしました」
アイリーンさんがパーティションの間から顔を出す。
一緒に入ってきたのは、二十歳くらいの長い黒髪の女性。非常に柔らかい物腰で、かわいいときれいのちょうど中間ぐらいの、絶妙な顔立ちをしている。
身長は150センチを超えるくらい。地味目のワンピースを着ているが、逆にそれがメリハリのある体型と相まってなんとも言えない色香を醸し出している。
「それでは紹介しよう。私の10年来の友人で、今回の依頼の正式な依頼主。魔女・メアリーの魔法具店店主、メアリー・アスラン……さんだ」
「受けましょう、この依頼ぅごふっ!?」
間髪入れずに打ち込まれた拳にもんどり打って、地面と熱い抱擁を交わす羽目になった。
……痛い。
メアリーさん、本名メアリー・アスランさんはシルケボーで魔法具店を営む女性だ。
以前、飛ぶ剣やサクラさんのハルバートに強化魔法をかけることを考えた時、必要な刻印紙を探して店を訪ねたことがある。
柔らかい物腰、少し太めの眉がアクセントになった美人で、なんというか、俺にとってはドストライクな女性だった。
つやのある黒髪は素敵だし、何よりこの世界に来てあった女性の中でも一番と言っていいほど……おっぱいは偉大だ。
手持ちの資金が厳しすぎて刻印紙には手が出なかったけれど、その後も何度か―――サクラさんに隠れて――店に行き顔を合わせていた。ほとんど冷やかしになって居るけど……ああ、武器の手入れに使う油なんかを一度買ったな。
最後にあったのは一昨日だっけ?店の前で挨拶を交わしたくらいだったはずだ。
「あたらめまして、メアリー・アスランと申します。メアリーと呼んでくださいね」
「アキト・ハザマです。このたびはご指名いただきありがとうございます。どんな仕事でも誠心誠意お手伝いさせておうっ!」
足が!足が非常に痛い!!
「ごらんのとおり……別に淫魔種と言うわけではないんだが、彼女はどうにも男性の目を引くタイプでね。依頼を出すと結構な頻度でもめる」
何を当たり前なことを。俺があいつらになびくわけないじゃないか。
「えーーーまーーーそうでしょうね!」
サクラさんの視線が痛い。足は物理的に痛い。そろそろ踏むのをやめてほしい。
「特に今回は泊りがけの護衛依頼だからね。余計なトラブルはしょい込みたくないと言うのが正直なところさ」
「皆さん、ちょっと血の気が多いですが、よい人たちですよ〜」
「……その血の気の多さは、君にとっては良くても周りには迷惑極まりないよ」
最近知ったことだけど、メアリーさんの店には取り巻きが居るらしい。
互いに姿を見せないという鉄の掟があるとか。なのでメアリーさんの魔法具店は『お客が多いようには見えないがいつも誰かしら居る』らしい。
「まあ、そんなわけでお願いしようと思える相手が限られるわけだ。特に今回は……ね。それで、君たちならまあいいだろうと」
「あたしとしては、受ける気が無くなりつつあるんだけど」
「なんでこっちを睨みながら言うんですか?」
「まあ、そういわないでおくれ。依頼内容を考えれば、能力的にも立場的にも、君たちは最適と言えるんだ」
ラーンさんはそう言うと、メアリーさん、アイリーンさんにそれぞれ目くばせをした。
「どこからお話ししましょうか」
「少し回りくどいですが、順を追ってで良いと思います。依頼内容を率直に話すと、疑問点が処理できないと思いますので」
どういうことだろうか?
ラーンさんは不測の事態がどうのと言っていたけど……俺たちが最適?
鬼族がらみか……うさぎは関係ないよな。
「そうですね。……うちの魔法具店では、とある村からその地域でしか取れない薬草などを入荷して販売しております。効果自体は珍しい物ではありませんが、犬人族や猫人族の方には一般的なものよりもよく効く、ちょっと珍しい物ですね」
「普段は夏の間に何度か、村の方がシルケボーまで薬草を届けに来てくださっています。前回は3月の末にお会いしております。そして5月の末には再度来られる予定になっておりました」
……なるほど。
「つまりその商人が来ないと」
「はい。その通りです」
割とありがちな話だな。
5月末だと丘でうさぎの騒ぎがあったころ。あの騒ぎに巻き込まれたとしても、さすがに2週間も遅れるのはおかしいだろう。
「えっと……それで……依頼は護衛よね?人探しじゃなくて」
「はい。依頼したい内容は、その村までの護衛になります」
……調査じゃなくて護衛か。
っていうことは、メアリーさんが直接村に出向く必要があるってことだろう。
「なんで?ちょっと珍しい薬草だからって、わざわざ護衛を付けて買い付けに行くほどの価値があるものなの?っていうか、それほどの物ならもっと生産とかしてそうだけど」
「あー……確かに劇的な効果がある物は、魔王管理の農場で量産してますよね」
生育管理が大変なものもあるが、怪我や病に効く自然生薬系のものは当代魔王が就任後早期に量産を始めたはずだ。
おかげで解熱剤や傷薬から虫よけといった物まで結構簡単に手に入る。
「先ほどお話しした通り、効果としては珍しいものではありません。……ただ、私は以前その村の方にお世話になったことがありまして、恩返しもかねて、仕入れさせてもらっています」
効果として珍しくない。恩返し。
「つまり、その村から仕入れていることが大事ってわけですね」
「はい。その通りです」
メアリーさんがにっこりと微笑みかけてくれる。やったぜ。
「調査じゃなくて護衛ってことは、直接出向く。その必要があるってことよね?」
「はい」
「可能性はいくつか思いつくけど……いえ、でもおかしいわね。商売的に言ったら必需品じゃないわけでしょ? よそ者との取引を警戒する村もあるだろうけど……そういう村って、逆に外とのつながりが絶たれるのは死活問題だから、何かあった時のために念書とか割符とか作るわよね」
「サクラさん……」
珍しく頭を使っておられる。
いつも依頼なんて突っ込んでってぶった切る、くらいしか考えてなさそうなのに。
「はい。おっしゃる通りです。その村と取引をしている商人は私以外に知りませんし、いてもそう多くないでしょう」
「ならなおさら。護衛を雇っていくようなところなら、本人が直接出向かなくてもいいようにしているのが普通よね」
「詳しいですね」
「……鬼の村だって似たようなものだもの」
……なるほど。
「そうできれば良かったのかも知れません。けれどそれは彼らが望みませんでした。だから、わざわざ足を運んでもらっていたのです」
「なんでまた?」
「彼らが村の場所を人に知られるのを嫌がったためです。そしてだからこそ、調査ではなく、護衛という形で私が直接村へ向かおうとしています」
村の場所が知られたくなかった……なるほど。きな臭くなってきた。
当代魔王の統治時代になってから、街道の整備は急ピッチで行われている。安定的な物流、人の移動は人類を豊かにするからだ。
国という概念がないこの世界では地図の整備も魔王の直轄組織が行っていて、魔王の支配下にあるすべての町や村、砦などの防衛施設まで書かれている。
ギルドでも簡単な地図なら配布しているし、それには当然周辺の村の大まかな位置も乗っている。つまり、普通であれば隠す必要はないし、隠すことはできない。
「……その村ってのは、どこにあるんですか?」
この近辺で、そんな隠れ里があるとは思えない。
南には街道が続いている。あるとしたら大森林か、もしくは……。
「行先は、人類が失った東の果て、未開の地。いまだ魔王様の庇護の元にない名もなき村です」
……どうやら相当に厄介な仕事が舞い込んだようだ。
ちょっとだけ出ていたメアリーさん再登場回。
キャラ紹介とか作りたいんですが、本編の更新が遅れそうなので自粛しています。
次回は1/22とか23とかに更新予定です。
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