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かけだし勇者の放浪日記  作者: hearo
異世界と旅立ちと運命の出会い
5/64

旅立ちの日 3

投稿後もちまちま誤字を修正しています。

「いやぁ、お疲れ様。なかなかの戦いっぷりだったよ。3ヶ月でここまで来たとは思えないくらいだ」


「黙れ外道魔王」


外からちまちま攻撃すること1時間。ヴァックストゥームを取り返し、ようやく手足と頭、胸、腹に解体し終えた。蟲しぶてー……。


「単独で大型のヤマアリ2匹を撃破しほぼ無力化するまで5分もかかっていない。途中でモノクルを距離に切り替え忘れたのと、最後に武器を放しちゃったのはマイナスだけど、成果を見れば中級冒険者には届くかもしれないね。特に2匹目の攻撃が通じないとわかってから、可視化に切り替えるまでの速さ、炎弾で動きを止めて口を狙う流れは目をみはるモノが在るよ。自分の出来ることをちゃんと理解しているのは評価に値する」


「良いから黙れ糞野郎」


こっちは体が痛くてしょうがないんだ。それなりに良いのを2発貰ったんだぞ。


「まぁ、そう言わずに。いつまでも座り込んでないで……っと、そうだったね」


魔王が手をかざすと、足元に魔法陣が現れて体の痛みが消えていく。


「これくらいで大丈夫かな?」


「大丈夫じゃねぇ。腹減るだろうが」


回復魔術を使われると、めちゃくちゃ腹が減るし便所に行きたく成るんだ。体の再生を促しているだけだから、治すのに使ったエネルギーを補給して、壊れたところの悪いものを出さなきゃならん。


「それで、結果は?」


「満点とは言えないけれど、合格と言っていいだろう。ジェイもそう思うだろう」


「ええ。魔王様がちゃちゃを入れた後の動きは特に素晴らしかった。アレが無ければ順当に勝てたでしょう。むしろアレは必要だったので?」


「言うねぇ。まぁ、不足の事態に立ちまわるのも必要なんだよ。さて、とりあえずは君の門出を祝おうじゃないか。おめでとう。皆で拍手でもしようか?」


「や・め・ろ」


皆がおめでとう、お疲れ様と声を掛けてくれる。

魔王城内では微妙な立ち位置だが、それでも3ヶ月一緒に訓練をした仲間だ。

……最初があまりにヘボかったせいで、印象に補正がかかってる気がするけど。


「さて、今後の事を話そうか。ここじゃなんだから、謁見の間に移動しよう。付いてきたまえ」


そう言うとソーマは城内へ戻っていく。


「アキト。出発は早くても明日だろう? 出る前に教官室に来ると良い。餞別にいいものをやろう」


「ありがとうございます。必ず伺います」


魔王の後に続いて、城内へ戻る。ああ、ようやくここともおさらばと思うと、とても感慨深い。さっさと出たかった城内の風景が、なんとも愛おし物に見えてくる。……奴の後ろ姿がなければ最高なのに。




「さて、アキト・ハザマ。おめでとう。君はとりあえず文明人でありながらこの殺伐としたファンタジー世界で生きていく力の一端を得た」


謁見の間に正面から入って玉座に座るという事をした後では威厳もクソもない。


「この世界に君を呼んだのは私だからね。そのくらいの責任は取る必要があるんだが、予想以上に早かった」


「あんたも教官もスパルタだったんでね」


「いい新兵の育成モデルに成ったよ。ははは。さて、望み通り君はここを出るのだろうけど、着の身着のまま放り出すのもなんだからね。選別をあげよう」


「何かくれるのか?」


「今君が着ている訓練用の革鎧と……ミーナ、メーナ。準備していたものを」


「「はい、魔王様」」


いつの間にか現れた中学生くらいの少女二人が、キャスター付きの台を転がしてくる。

……………………。

………………。

…………。


「……………………」


ああ……ああ、ああっ!

気づいたら目から雫が滝のようにこぼれ落ちていた。


「何をむせび泣いているのだね」


「お前にわかるかっ!俺の苦しみがっ!」


女の子だ。この3ヶ月間道ですれ違うことすら無かった女の子だ。つーか違う性別の相手だっ。やった!やったぞ!呪いは解けたんだっ!


「はっ……はじめましてっ!アキト・ハザマですっ」


そう言うと二人は顔を見合わせる。


「あはは、はい。はじめまして、メイドのミーナです」


「メイドのメーナです」


ああ、これだよ、これ。人生には潤いが必要だ。


「「いつも影からあなたを見守る、アキト様付きメイドのミーナ・メーナです」」


「……………………はい?」


「大変だったんですよ〜。アキト様の視界に入らないよう色々とフォローするの」


「気絶したアキト様を運んだり、ぶちまけた汚物を片付けたり……」


「「部屋のゴミ箱の中を処分したり……」」


「…………うわぁぁぁあぁぁぁ」


なんで、なんでだ!どうしてこうなった!なんでそこで息を揃えた!?


「いや、柱に頭叩きつけても痛くも痒くもないだろう?」


「今ほどお前を殺したいと思ったのは久しぶりだ」


「何度かあるんだ。まあ、彼女らは君のフォローを陰ながらしていてくれたんだ。感謝しておいて損はないよ。まぁ、それはそれとして、話を勧めて良いかね。二人はちょっと下がってなさい」


「「かしこまりました〜」」


「あああああ……」


「こんなところでこの世の終わりみたいな顔を使うのは勿体無いよ。さて、餞別だがみたまえ」


お前に俺の気持ちが分かるか、こんちくしょう!

しぶしぶ台座に目をやると、上に乗っているのは短剣、盾、弓、クロスボウ。どれも訓練で使ったことのある装備だ。


「その魔王剣レプリカとサークレットは貸し出したままにするとして、武器がバスタードソードだけじゃ困るだろう?マン・ゴーシュかバックラー、ショートボウかクロスボウの好きな組み合わせを選ぶと良い」


「……これ、そこらの店でも買える普通の武器防具じゃないのか?」


唯一ショートボウだけ、ガイドの着いた近代的なアーチェリー用のベアボウだけど。材質は違うだろうけどさ。こいつのおかげで初心者の俺でも弓が的まで届く。


「もちろんそうだよ。私の目的は君にレベルアップしてもらって、その経過を調べることなんだから。強力なマジックアイテムとか渡すわけないだろう?」


何をバカなことを、とでも言いたげだ。とても頭にくる。


「それならバックラーとショートボウ」


マン・ゴーシュを持つとウァックストゥームが両手で持てないし、クロスボウ威力はあるが取り回しが悪い。ベアボウはそれなり−蟻の外骨格くらいなら貫けるくらい−の威力だし、それにこれが外で売ってるとは限らない。


「まあ、君のスタイルならそう言うだろうね。それから、蟻の討伐報酬。まぁ、わざわざ準備したものなので安いがね」


脇に置かれていた袋の中には、銀貨と銅貨が幾つか入っている。


「そうそう魔王剣レプリカとサークレットは、ただ貸すのは惜しいから利子を取るけどどうする?もちろん、レベルアップしてくれればただであげよう」


「するつもりは無い。……いくらだ」


「そうだね。まぁ、年利でそれの価値の1%くらいにしておこうか。ひと月あたり830ゴル。小金貨8枚と銀貨3枚だね」


「死ねよクソ魔王っ!」


ざっくり計算しても日本円なら8万オーバー。年間100万近くかかる。

この世界は物価が安いし、その分稼ぎも少ない。蟲人2体の討伐報酬が少金貨に届いて居ないのにその価格設定。借金まみれに成るわ。


「それくらいないと張り合いないだろう。今の君じゃ魔王剣の性能は引き出せてないけど、剣もサークレットもチートアイテムだよ。ああ、買い取ってくれても構わないよ。二つ合わせて大金貨100枚にまけよう」


途方も無い金額で話にならない。


「首が回らなくなる前に突っ返すかもな」


「構わないよ。ちゃんと返しに来てくれればね。ああ、レベルアップしたらこちらでわかるから、その時はお金の心配はしなくていい」


こいつはホントにぶれない。


「後でミーナから借用書をもらいたまえ。手続きは冒険者ギルドで出来るようにしておこう。それから……取寄(アポート)。これを持って行きたまえ。推薦状みたいなものだ。君は住民登録がされてないから、そのままだとギルドで不審者扱いされる」


そういえば、この世界にも戸籍のようなものが導入されてるんだっけ。座学でやったな。


「本籍はここで良いよ。使ってる部屋もそのままにしておこう。家を買えるくらいまで稼げたら引っ越すのも良い。そんなところかな」


この3ヶ月でこの世界の事はだいぶ学んだ。こいつの改革のおかげで治安はかなり良くなっているし、都市部では食事や公衆衛生などは、昭和後期の日本と同レベルぐらいまでは来ている。

逆に工業や娯楽はあまり発達していない。特に工業は意図的にコントロールしていて、工場制手工業を禁じている結果らしい。労働争議はめんどうなんだそうだ。ちなみに娯楽のほうは手が回らなかったと本人が言っていた。


「それから……もう一つの方。この街を離れるなら、そちらもよろしく頼むよ。そのための機能をステータスカードには組み込んである。後で二人に聞くといい」


「……警邏隊として貰ったバッチ分くらいは働くさ。一応礼は言っておく。世話になったな」


「ははは。こっちに来て随分とやさぐれたもんだ。まぁ、それぐらいがちょうどいいかもね」


俺がやさぐれたとしたらお前のせいだよ。世界は確かに優しかったが、結局は理不尽でもあった。


「そうそう、ステータスカードにはここと通信する機能がある。君のオペレーターはミーナかメーナがやっている事になるから、どうしても困ったら使いたまえ。通話料は1分間に80ゴル。城下以外でも、首長の館や冒険者ギルド、銀行や私と取引をしている大きな商館の近くなら使えるよ」


「死ねっ!」


その価格じゃ今日の稼ぎが30秒持たない!


「これから先、君が遭遇する困難を全て助けてあげることは出来ない。私は人類全てを見なければいけないからね。この世界はまだまだ非情だ。心したまえ。君がもし誰かの命の危機に直面しても、私はそれを助けないだろう。私が動けるのは村や街の壊滅の危機位からだからね」


「君が一日も早く、君のままでいられるための力を得ることを願っているよ。そして更に願わくば、その力を人類の良きことに使ってくれることもね」


「……言われなくても、最後のはわかってるよ」


俺はこの世界じゃ異邦人だ。他の世界にやってきて、そこに迷惑をかけるなんて恥ずかしい真似はできない。

そんなことしたら、家を飛び出した俺を拾ってくれた魔王(こいつ)にも、死んだ父さん母さんにも顔向け出来ない。


「それじゃあ行きたまえ。また会う日を楽しみにしているよ」




「魔王様、よろしかったのですか?」


アキトが下がった後、控えていたメーナがそう問いかけてくる。


「一応形にはなったとはいえ、アキト様の能力はトータルで言えば新米を卒業したくらい。一人でこの世界を回るのは危険なのではないでしょうか」


「多少の危険は仕方ないね。一応、慈善事業で彼をこの世界に呼んだわけじゃない。カードを使ってもらえるように仕向けるのは当然さ」


ステータスカードの検証は順調だ。

能力の数値化に問題はないし、日々の成長分の更新もちゃんと行われている。彼は肉体が魔力の影響を受けないから都合がいい。

この世界の住人や私はどうしても無意識に魔力で肉体を強化してしまうから、数値がちゃんと取れなくて困る。

今の魔術補助機能はワンオフだけど、その量産へ向けたの精査も合わせてできる。万々歳だ。


「君らのサポートが無くなって、生きるのに精一杯になってしまわないか不安はあるがね。彼の選択は尊重すべきさ」


レベルアップによる存在改変の検証もしたいが、あまり強引なのは好ましくない。

それにレベルアップでの改変はカードに溜まった経験値を消費するから、多量に経験値を貯めてからレベルアップすることでどの程度想定と差がでるかは興味がある。


「最後というわけでもないが、出発のフォローは頼むよ。一般常識は教えられるだけ教えたけど、時間は足らなかったからさ」


「かしこまりました」


メーナを見送って、私も席を立つ。

さてさて、彼がどんな冒険をすることになるか。とても楽しみだねぇ。

GWも終ってしまいましたorz

仕事のため、明日は更新は23時予定です。

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