うさぎの主と魔王の盟約 3
日が変わってしまいましたが、ようやく投稿できました。
PVが4000を超えました。毎話見に来てくださっている方々ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。
うさぎ達に見つめられながら、広場で交代で休息をとる。
あいつらが俺たちを狙っている?のはどうやら間違いないらしい。耳がね、ずっとこっちを向いているんだ。
サクラさんとラーンさんもターゲットになって居るらしい。原因はさっきの戦闘だろう。
「……さっぱりはしましたが、落ち着きませんね」
全力疾走でかいた汗をふき、服を着替えると一息ついたという気にはなる。
ただ、俺が天幕に隠れるとうさぎ達がざわめくんで、外で着替える羽目になったのはいただけない。
「さらに数が増えているようだからね。魔術師の目で様子を見ているが、主はまだ動いていない。周囲にうっすらと魔法陣が見える。どうやら体を休めているらしい。閃光は思いのほか効いたようだよ」
今は広場で火を囲み、簡単な軽食を取りながらラーンさんと時間をつぶしている真っ最中。サクラさんは交代で着替えに行ったところだ。
「治癒魔術まで使うんですか……」
やってらんねぇなぁ。
「主と交渉ができなかった場合、ラーンさん閃光みたいな状態異常系の魔術で抑えられますか?」
「残念ながら私には使えないよ。君が使った轟音も閃光も少々難易度の高い魔術だし、そもそも私は研究に役立かを基準に魔術を治めている。魔術師の目しかり、満月の灯火しかりさ。直接戦闘で実用に足るのは、おそらく魔弾、土槍、盾、束縛糸……あとは発火と……視覚妨害の暗闇の霧かな。これは少々不安があるが……。主に対抗できるほどの術は使えない」
結構なレパートリーなのだが、残念ながらボスには決定力不足か。盾は超お世話になってるけどなぁ。
「それに、君の轟音が防がれたように、撃ってくるとわかっていれば対策も可能だ。君のマジックアイテムやスクロールのように詠唱時間が極めて短いならともかく、普通の魔術師では詠唱を始めた時点で防御魔術を展開されてしまう可能性も高い」
魔術師同士の戦いだと、相手の詠唱――呪文だけに限らないけど――を読み解いてうまく防御できるかが一つのカギになる。
俺が常に対抗呪文だの魔術無効化をセットしているのは、魔術を読み解いて防御することができないから、術自体を破壊するためだ。後出しじゃんけんでグーパンチを振りぬく感じだね。力技万歳。
「俺の魔力はほとんど回復していませんから、次に戦闘になったらもう同じことはできないですよ」
確認はしていないけど、ステータスカードの魔力値はよくて1〜2だろう。朝は34まで回復していたんだけど、飛ぶ剣、轟音、閃光で、ほぼほぼきれいに0になる消費だ。
「それに関してはこちらに用意があります」
振り向くとグスタフさんが何やら小箱を抱えてやってきたところだった。
「グスタフさん。これは?」
差し出された小箱を受け取る、中身は……ピンポン玉くらいの少しいびつな鉱石だ。乳白色の下地に、緑や青でラインが入っている。
「ギルドで用意していた魔石です。標準的な品質のものですが、1〜2人分の魔力は補えるでしょう」
……ああ、魔石。魔石ね……。
「魔石って何ですか?」
「…………………………は?」
いや、だって魔石だよ。お約束では魔力の塊とかそういう事言い出すんだろうけどさ。
この世界の魔素の理論から言うと、魔力は物質化なんてしないはずなのだ。濃度はあるけど、触れたりできるものじゃない。
「生まれてこのかた魔術が使えるなんて思っても見ませんでしたから、そういうのは避けてきたんで詳しくないんですけど」
「……むしろ魔力が少ない方のほうが、恩恵にあずかるものだと思いますが」
そんなこと言われても、この世界の住人じゃないんだし知らんものは知らんのよ?
「魔石……あとは魔結晶とか魔法石とか、まあそんな感じの呼ばれ方をするものだね。簡単に説明するなら、通常の物質より魔力の量が多い石。魔鉄や魔導銀と同じ特性を持ったその他の鉱石だと思えばいい。たまに魔獣などの体内から見つかるので、実際には鉱石とは限らないけどね」
「魔力をため込む性質があり、マジックアイテムの動力としても使われる。人が使えば普段よりたくさん魔力を使うことができる。まぁ、魔力の詰まった水袋とか、そんな感じのものだよ」
……魔王城で受けた講義の中に、術者の体力を肩代わりする石というのがあったな。……元素番号の大きいやつを多量に含んでるやつ。確かに石の方のエネルギーを使って魔術を行使すれば、体力の消耗を抑えられるんだけどさ。危険すぎるから魔王が禁止していた。使ってる人を見かけたらすぐ通報するか捕まえるように言われている。
これは魔力を肩代わりする……まぁ、つまりは魔力の乾電池か。
「結構貴重なものじゃないんですか?」
「それなりには。しかし出回らないほどのものでもありません。供給が少ないのは、大きな鉱山で取れるものを魔王様が占有しておられるためです。通信装置などの材料になるとか」
ってことは、ステータスカードにも使われているのかな。
「それを使えば、アキトさんの魔力不足を補うことができるはずです」
……ふむ。使えばねぇ。
掌の上で転がしたり、空に向けて透かして見たり……鉱石なんてどうやって使うんだ?
試しにステータスを確認しているが、魔力の表示は2だ。
「使うって、どうするんです?」
「……魔術を使うように、魔力をこう引き出す感じで使うんだが……」
「俺、魔術は使えないですからね」
……どーしたものか。
「試してみますか。えっと……うさぎ達に攻撃と思われるとまずいから……束縛糸」
グスタフさんに向けて束縛糸を発動させるが、特に変化は起こらない。
「……何も起きませんね」
「魔力的にも動いた感じはしないね」
ただ持っているだけじゃ使えないわけだな。
えっと……魔術理論的には、この魔石は俺の制御下にないわけで……ステータスカードのリンクは血液だったけど、術式がないから魔石と魔力回路をつなげるとは思えない。
魔石と俺を関連付けるとなると……刻印紙で回路接続を転写するとかか?
今からそんなことはやってられないな。
……いや、こいつ自体は乾電池みたいなものなんだから、こいつから俺の体に魔力が移ればいいのか。
「となると……たしか……ちょうどいいのがあったはず」
条件が悪すぎて、普通だったら使えないとあきらめた呪文が……あった。
「魔素吸収」
手で触れている物体の魔力を吸収して自分のものとする魔術。
直接手で触れてなければならず、生物からだと吸収速度が遅すぎて戦闘じゃ使い物にならなかったんだけど……。
「おお、すごいですよ!みるみる回復している」
1秒間に2くらいの速度で魔力が上昇していく。やばい、超使えるじゃないか!
わずか15秒ほどで30を超え……35!36!まだ上がる!
「上限値が上がってる!」
これ、すごいんじゃないか?これなら今まで全く使えなかった魔力消費の大きな魔術も使うことができる!
「……おや?……アキト君。ちょっと待ちたまえ」
あっという間に50を超えて、今は80ほど。徐々に上りは悪くなってきたかな?そろそろエネルギー切れだろうか。
「……こんなもんですかね」
欲張ってはいけない。今、空になるまで吸い尽くすのがいいとは限らないんだ。
「……魔力の流れ、おかしくないかい?」
「何がですか?」
「何がというか……あふれだしているというか……」
「あふれるほど吸収しましたからね。見てくださいよ、普段最高値は34なのに、今は89もあるんですよ」
「……私には77としか読めないが……あ、減ったね」
え?
「……うわっマジだ減ってる!」
2〜3秒に1くらいの速度でどんどん減っていく。ああ、またっ!まて、逃げんな魔力!
「……アキトさんはなんで不思議な踊りを踊っているのでしょう」
「さぁ?」
魔力値は緩やかながら減少を続け50を切る。おおいっ!どういうことだよっ!
減少速度は落ちているものの、数秒に1の割合で下がり続け……2分と経たずに34に逆戻り。
「……なんで……なんでだ……」
思わず地面に膝をついてしまう。どうしてこの世界は俺に厳しいの?なんか悪いことしたっけ?
いいじゃないか、たまには楽させてくれたって!これじゃいつも通りカツカツの魔力でぎりぎりの戦いだよっ!
「……なんでアキトは打ちひしがれてるの?」
帰ってきたサクラさんには珍妙な生物を見る目で視られるし、さんざんだ。
「……動き出したよ」
ラーンさんがそう告げたのは、魔石を使った魔力回復をしてから体感で20分ほど過ぎたころだった。周りに緊張が走る。
「残念ですが、子兎たちがつくにはまだかかりそうですね」
「早くてあと小一時間ってところですか?」
「そのくらいかと。交渉に応じてくれればいいんですが……」
「その前に、この一件が街にいる子兎のためであることを祈ろうか」
「いまさら大前提を崩すのはやめてください」
今の俺たちじゃ、主を止めるだけの力は持ち合わせていない。
「ここにつくまで数分だ。準備を」
各々が武器を手に取り、仮設集落の端へと向かう。うさぎ達との前線に立つのは、俺とサクラさん、ラーンさん、それにグスタフさん以下ギルドの職員5名。
もう一組いたパーティーのメンバーたちは、戦闘が始まると同時に非戦闘員を街側の街道へ逃がす役目だ。
うさぎ達の包囲の外に、さらに2組の冒険者たちが待機して成り行きを見守っている。こちらは戦闘になったら加勢してもらえる手筈だけど、連携がうまくいくとは限らないから気を付けないと。
仮設集落の天幕はすでに半数以上が片づけられており、取り囲むうさぎ達がよく見える。
数は500近くに上ろうか。
まじめに戦ったらひとり50匹換算。……無理だからね。時速100キロ超えそうなタックルをしてくるうさぎが四方から襲ってきたら避けようがない。
「来たね」
地面を削って、うさぎの主が降り立つ。
あんな巨体なのに、不思議と足とがしない。これも魔獣ゆえだろうか。
距離は30メートルほど先か。小高くなった上から見下ろされると、さらにでかく感じるぜ。
「アキトさん。集音魔術を使います。主に呼びかけてみてください」
周囲に魔法陣が展開され、小さな物音がはっきりと聞こえ始める。
翻訳魔法は声が聞こえる範囲に効果を表す。耳のいいうさぎに俺の声は届くだろうが、殆ど鳴き声を発しない向こうの声はこちらに届かない。それでは会話が成立しないのだ。
うさぎはこちらを警戒しているのか丘の上から動かぬまま、じっとこちらを見つめている。
やばい、緊張するな。ほんとにあれと交渉なんかできんのかよ。
「アキト、頑張って」
サクラさんに背中を押される。……やるしかないか。
「風の丘の主さん、聞こえていたら返事をしてくれ。人類はかつての盟約に従って、春兎の一族と対立するつもりはない」
叫ぶ。
「俺たちはこの地がうさぎの縄張りであるよう、森の魔獣たちからここを守っていただけだ。盟約は守られている。話を聞いてくれ」
魔王が交わした約束に触れる可能性があるのは2つ。一つは子兎。そしてもう一つは仮設集落。
子兎が原因とは限らない。そもそも、子兎の事を主が知っているとも限らない。
だからまずは集落が縄張りの侵略でないことを説明する。これはグスタフさんたちと話し合って決めた。
そして主に言葉が通じるなら、原因が子兎であるなら……必ず返答がある。それに賭けた。
『……………………』
集音魔術によって届くうさぎ達の息遣い。
それがピタリと止んだその瞬間。
『……カエセ!ワタシタチノコヲ……カエセ!』
うさぎが吠えた。
次の更新は8/6(土)の夜を予定です。
2章はあと2話ほどになりそうです。連続投稿で日曜にしめられればいいな。