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かけだし勇者の放浪日記  作者: hearo
異世界と旅立ちと運命の出会い
4/64

旅立ちの日 2

3日目にして早々に投稿が遅れました(汗

木箱が開けられて、中からそれが這い出してくる。触覚の頭と胸は赤黒く、腹は真っ黒。


「それじゃあ、まあ始め!」


言われなくてもわかってるし、あちらさんにその掛け声は無意味だ。

識別のサークレットから見知のモノクルを下ろして識別(ディスクリメント)とつぶやく。

モノクル越しのターゲットの上に現れたのは、『蟲人:アカヤマアリ』の表示。この世界における想定外。


人類共通の敵、蟲人だ。


外見のパーツはほぼ地球の蟻と変わらない。大きく違うのは、胸部が地面と垂直に持ち上がっていて、いわゆるアラクネさんのように上半身と下半身になっている点。それにあわせて前足の生えている位置が若干頭部によっている点。手足の先がすべて3本指になっている点か。

ああ、後大きさ。


「でかいな……」


遠いが見立てでは2メートルほど。レベルが上がったときに戦ったのはもう少し小さかったし、数も一匹だった。

初めて戦ったやつは1.5メートルくらいだったか。その時はそいつの前足の一撃を受けてあっさり跳ね飛ばされ、全身打撲と鎖骨骨折でリタイアさせたれた。

その怪我は翌日には魔王が完治させてくれたが、そのせいで休みなく訓練だ。……鬼畜魔王め、死ねばいいのに。


「……距離(ディスタンス)


モノクル表示を距離モードに切り替えておく。識別モードはターゲットが変わるたびころころ表示が代わってうっとおしい。

周りを見回して、手ごろな小石を拾うと周囲をうかがっていたアリどもに投げつける。どうやらこちらに気づいたようだ。


腰に下げているヴァックストゥームを抜いて駆け出す。まず狙うは向かって右側、少しだけ突出している近い方。

残り10mほどに近づいたところで、こちらを獲物と認識したであろうアリ達が股の下から腹をこちらに向ける。


その行動は予想済み。


一瞬引きつけてから右直角に曲がってルートを変えると、アリの尻から吹き出したギ酸が直前まで居た場所に降り注ぐ。

そのまま2匹が直線上に並ぶよう位置取りをしつつ距離を詰める。ギ酸は連発できない。奴らは腹部を戻すまでそこから動くことが出来ない。

一呼吸で互いの攻撃回いに入る。先手は向こう。体は半身だが左腕の逆袈裟に振り下ろしてくる。思った以上に早い。


走るために下段後ろにかまえていた剣を切り上げて腕を狙う。

ガンッっと鈍い音がして腕に剣が食い込むが、切り落とすには至らない。硬い。以前のやつは切り上でも腕を落とせていたのに。


食い込んだ次に瞬間には剣をひねると共に引き抜きつつ右ステップ。

これで相手の右手からの攻撃は射程外。一番強力な大顎によるカミツキは貰えば即戦闘不能だろうが、振りが大きく速度も遅いので掴まれない限りは大丈夫。

もう一匹は左回りにこちらに来ようとしたため間の1匹が邪魔ですぐには動けない。

着地と同時に剣を振り下ろす。狙いは足の1本。


ゴインッ!!


今度は切り落とすことに成功した。

アリは体勢を崩さない。体を振って向きを変え、右手による横薙ぎの一撃を狙ってくる。

バックステップで間合いを調整、同じ横薙ぎで相手の腕を迎え撃つ。

くるくると宙を舞って、相手の手首から先が地面に落ちた。今度は切り落とせたようだ。


しかし距離がひらいてしまった。

サイドステップで2匹の位置を修正する。ウラに居るもう一匹の方はギ酸による攻撃を企んでいたらしいが、位置が変わって無駄打ちに終った。


次はどうする?目の前の一匹は両手とも負傷しているが、こいつらは四肢に痛覚が無いのかほとんど痛がる様子を見せない。グチャグチャな腕や足を好き勝手に振り回してくるから迷惑極まりない。

迷ってる暇はない。2体が相手だ。息が上がってしまえば休むことも出来ずにやられてしまうだろう。

距離を詰め、負傷している左手の攻撃を剣で受ける。


受けた相手の腕を左手でつかみ、引っ張りながら腰回りめがけて突きを放つ。


「キジェェエェェェェェ」


今度は効果が有ったようだ。口から悲鳴のようなものが漏れる。

こいつらほとんど虫なのに、一部人間のような特徴を備えているらしい。声帯は殆どないらしいが、威嚇などの音は口から発することが出来るんだとか。


一気にたたむ。


剣を引き抜き両手で上段から側面一本残った足を落とす。当然バランスを崩して倒れるので、巻き込まれないようバックステップ。もう一匹は……案の定、ギ酸でこちらを狙っている。

仲間ごとか。避けている時間はない。


風障壁(エア・ウォール)


力在る言葉に反応して、前方1メートル前に発生した風の壁がアリの放った体液を阻む。

魔法も魔術も全く使えない俺に合わせて改造したスキルカードの機能の一つ。

指定できる条件も使える魔術も限定されるが、俺の魔力を使って魔術を発動させてくれる。詠唱も必要ない。今現在俺が使える少ない切り札の1つだ。


仲間の放った酸をモロに浴びて、目の前のアリが悶える。残念だがそれを哀れんでやる余裕はない。

一歩踏み込むと共に力を込めた横薙ぎを一閃。


狙い通りに首筋をとらえた剣はそのまま突き抜け、アリの頭が宙を舞った。




「おお、なかなかの立ち回り。1匹目は出来れば魔法を使わずに倒せればよかったけど、まあ仕方ないかな」


「ええ。私も新米としては十分と思いますよ。思い切りも良い。3ヶ月前に頭を抱えたへっぴり腰と同一人物とは思えません」


「スパルタトレーニングだったからね。食事も栄養学を加味してるし、魔法で肉体の回復も助けてる。アレくらいは育ってくれないとね」


「そうですか。しかしあのステータスカードは良いですな。成長がひと目で分かるとやる気にも繋がる。表示機能だけでも先に実用化されてはどうでしょう?」


「蟲に対抗する目安にはなるけど、あの数値だけが実力じゃないし。それに能力値が目でわかるのは、増長を招く気がするから悩みどころなんだよね」


「ふむ。……確かに数値だけでは力量は履かれませんが……技術的なものも何か数値化出来ないので?」


「スキルは微妙。実装の難易度が高い。さて……後半戦、ちょっと手を加えて見ようか」




頭が無くなって四肢?がワシャワシャとのたうち回っているアリから距離を取って、もう一匹と向かい合う。

こいつら頭を落としたくらいじゃ死なないんだ。外界を認識する目や触覚が無くなってるから狙った攻撃はもう来ないけど、下手に近づいてまぐれ当たりを貰ってもまずい。

頭の方もしばらくは動くはずなんで、場所を変えたほうが良い。

幸い、もう一匹はもう3発ギ酸を放っている。体の大きさを考えても打ち止めだろう。


わずかに左右に動きながら息を整える。

もともとアリは集団で戦う生物だ。攻撃モーションの1つ1つはそこまで早くない。それにこいつらにはアリを人間大にした倍率ほどの力は無い。

このまま正面から攻めても攻めきれるかもしれない。だけど安全策を取る。


アリがこちらに向けて突っ込んでくるのを、サイドステップで軸をずらす。左右の腕を同時に横薙ぎに振られ、挟まれるのが最もまずいからだ。

互いの射程に入るタイミングで、なんとか相手左腕の射程から抜け出す。

定石通り剣の切先で相手の手首を狙う。これで片方っ!


ガンッ


そう思った一撃は、互いに弾かれるだけに終った。さっきより硬い!

視線の端でアリの胴体が回転しているのをとらえた。とっさに、剣を弾かれた勢いそのままに右手に流す。


ガンッ


右側からの一撃を防ぐが、大勢が悪く押し切られそうに成るのを感じて横っ飛びに転がる。

何があった?識別の魔法ではどっちもアカヤマアリと出ていたはずだ。固体差は殆ど無いだろう。

解らないなら考えても仕方ない。


識別(ディスクリメント)


跳ね起きながら識別モードを機動。視界に相手を捉えつつアリの後ろに向かってステップ。こいつの場合その場回転は遅いし、バックは出来ないから後方に回り込めば安全地帯だ。

表示されている相手の名前はやはり『蟲人:アカヤマアリ』。つまり、固体には差がないか、俺が判別できないような違いしかない。

なんだ?もう一度試す?確証がない。わからなかったら調べてみるしかない。


可視化ビュアー熱源サーモ


モノクルを可視化モードに切り替える。熱は異常なし。気体エア。……以上無し。


可視化ビュアー魔素マナ


魔力の可視化モードに切り替えた途端、アリの姿が紫色に染まる。うわ、何だこいつ。

これ、見覚えがあるな。模擬戦の時に使う障壁魔術だ。蟲人が意図的に魔術や魔法を使うって話は聞いた覚えがない。……ってことは、魔王か!やろう、強化しやがったな!


横薙ぎをしゃがんで交わしながら対策を考える。相手の旋回半径が小さい分、後ろに回り込むのは難しい。

三手、四手、五手。相手の腕による攻撃を弾き、受け流し、時には避け、時間をかせぐ。

魔術無効化(ディスペル)は、無理!魔力霧散(ディサペイト)も同じく!くさっても魔王の魔術だぞ。対抗できるわけがない。そもそも、風障壁(エア・ウォール)でおそらく残りの魔力は10ちょっと。

余計なことをしてくれる!これも試験って!?

迎撃時に関節を狙ってみるが、これも効果は薄い。そもそもそこまで細かい狙いをつけられる腕もない。


「ってことは!でかいの狙うしかないじゃねぇかっ」


数度の打ち合いの後、意を決し、相手の腕の振りに合わせて大きく前に飛び出して左手で受ける。盾持っときゃよかったっ!

そのまま相手の口元めがけての片手突。右からくる一撃を無視して放ったそれは、相手の攻撃の衝撃でそれてアリの右目を潰すだけにとどまった。

痛てぇ!内側に入ったから威力は軽減したけど、近いともうかわせねぇ!


距離ディスタンス!」


モノクルを距離モードに切り替える。しくった、先にやっときゃよかった。

それをやっている間に、脇腹を掴まれる。捕まった、だがそれも想定済みだよっ!


炎弾(ファイア・バレット)!」


噛みつきを狙って大きく開いた口に向かって、こぶし大の燃える弾丸が飛び込んでいく。

炎弾(ファイア・バレット)。熱を持った衝撃波を飛ばす魔術。威力も熱も弱いが、魔力消費が少ない攻撃魔術。

普通は剣や手で差した方向に発動するが、見知のモノクルが距離モードになっている時には、モノクル中央に映る三角形のスコープの先に向かって発動する。


ボンッ!


口の中から煙が上がるが、直接的なダメージは期待できない。なにせ人間や中型以上の野生動物だと威嚇にしか成らない。それでも体内に直接ぶちこみゃ動きは止まる。

その開いた口に向かって、ヴァックストゥームを突き刺し、ひねる!

アリの体がビクッ跳ねた。それを気にしている余裕はまだない。


「飯はこいつで勘弁してくれ」


全体重を載せられるだけ載せて、下顎を起点に梃子の容量でアリの頭のなかをかき回してやる。


「おぅぐっ!」


アリの体が暴れて思いっきり吹き飛ばされた。転がりながら受け身を取って起き上がると、手足をむちゃくちゃに振り回しながらグルグルと回転している。

ヴァックストゥームは口から頭に刺さったままだ。やはり殻は貫けてなかったか。

脳か神経が逝って、命令が途絶えたのだろう。


「なんとか……なったか」


ああなってしまえば、後はなんとでもなる。

魔王の方を見ると、にこやかに親指を立てて首の前で横に斬る。……ちゃんと仕留めろってか。はじめに倒した方もまだバタバダしているし、アレも片付けなきゃならんのか。


「……武器が無えな」


ダガーくらい持ってきておくんだった。蟲人相手じゃ使えないだろうと置いてきたのは失敗だったな。

仕方なく1匹めの側まで行き、切り落とした蟻の足を拾い上げる。

さて……こっから先は解体作業だ。

明日も21時を目標に投稿予定です。

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