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かけだし勇者の放浪日記  作者: hearo
春の兎と風の丘
27/64

うさぎ狩りに行こう 2

軽装に着替えて宿を出た後、石畳の大通りを通って鍛冶屋に向かう。


この一帯ではエターニアに次いで大きな街だけあって、道は整備されており、家々も石造りのしっかりしたものが多い。

大通りには飲食店、肉魚屋、乾物屋、古着屋などが多く並んでいる。珍しいところは書店や文具屋か。青果店が殆ど無いのは、穀物や野菜が主に定期市で売り買いされるからだろう。

この世界じゃ収穫済みの野菜や果実はまだまだ保存が難しいし、主要な穀物は魔王の名のもとに配給制になっているから、一般家庭向けに小売されることが少ない。

金物屋と思しき店も何件かあったが、どうやらお目当ての店は違うらしい。


「ハルバートと鎧は別の店ですよね?」


メモを見ながら辺りと見比べるサクラさんにそう話しかけた。


「ええ、そうよ。職人街の店だから近くなはずなんだけど……職人街への道ってどっちかしら……」


近道を教えてもらったが、その入口が解らないとのこと。

鍛冶屋や革製品を扱う職人達が店をかまえるのは、街中でも少し奥まったエリアらしい。

大通り伝いにも行けるのだが、ショートカットした場合の3倍時間がかかるらしく近道をしたいそうだ。


サクラさんが修理に出すのは、曲がってしまったハルバートと貫かれたレザーアーマー。どちらも結構な損傷だ。

ハルバートは曲がっているだけなので、いつもどおり革製の鞘(?)をかぶせて背負っているが、鎧は流石に着ては居られないので、アーマーは麻袋に詰めている。


なので現在は私服らしい。


まぁ、私服って言ってもいつものようにフード付きのローブだ。食堂では無地の白い襟なしシャツに、デニムっぽい感じの紺のズボンだったから、多分今もそうだろう。

綿は生産量が限られていて高いから正しくはデニムじゃないんだろうな。


何にしても色気がない。周りを見回しても、薄っすらと黄色がかかったり、茶色っぽいローブを着ている人が多い。

なんかこう、全体的に華がないよなぁ。染料の確保は大変だし、仕方ないのかもしれないけどさ。

ちなみに俺は鎧の胸当てと腰当て、サークレットだけを装備したラフな格好だ。装備も剣と楯だけで、弓はおいてきた。必要なら取りに戻ればいいし、街中で使うことはまず無いだろう。


「ああ、見つけた。こっちね」


サクラさんに続いて脇道にに入る。

大通りほどではないが、道幅があってよく整備が行き届いている。

衣類はともかく、少なくとも土木に労力を回せる程度には栄えているんだな。


□□□


5分ほどで周りの様子が代わり、煙突から煙を上げている家が多くなってくる。

目的の店についたのは、更に5分ほど歩いた頃だった。


「いらっしゃいませ~」


店に入ると景気のいい声が響いた。カウンターに座っていたのは、ずんぐりむっくりとした岩人族(ドワーフ)の女性。年齢不明。短い髪をいくつも結っている、アフリカの部族にいそうな感じの髪がた。偏見だけど。

ドワーフをはじめ、森人族(エルフ)草原人族(ポックル)の3種族は、人間族に近い外見なのにホント見た目で年齢分かんないなぁ。


「お客さん、今日はどんな御用で?」


「修理をお願いに来たのだけど?」


「あ~、そいつかい?親父~、お客さんだよ~」


店の奥に向かって声をかける。


「……ちーと待ってろ!今手が離せねぇ!」


「だってさ。まぁ、ちょっと店の中でも見て待ってなよ」


「そうさせてもらうわ」


店内には幾つもの剣や槍、棍などが飾られている。壁際には鎖帷子やプレートメイルが飾られているし、店の真ん中に置かれた机にはナイフやダガーが並べられていた。

隅には農具や日用品のコーナーもある。いいね。こういうの見てるとワクワクしてくるわ。


しばらく店内を見て回る。

全ての商品に値札が付いているのはありがたい。このへんも魔王が義務化したらしい。


「しっかし……高ぇ……」


中級者向けと言われる錆止めと刃こぼれ防止の魔術印が打刻された剣は、ショートソードでも300ゴル越え。

ツーハンドソードなどの大剣は一部ではあるが1000ゴルを超えているものもある。魔術がかかっていても結局消耗品であることを考えると、普通に手を出すのに悩むであろう金額だ。

当山安いものもある。まぁそれでも籠に刺さっていた魔術無しのロングソードが1本80ゴル。手入れのコストを考えるとそれもどうなんだろうね。


種類として多いのは斧と槍か。魔獣だの蟲人だの相手をするのに必要なのは威力だからなぁ。

それでも扱いやすいためか、剣が四分の一程はある。

槍と斧も訓練で使ったけど、結局両手剣が一番扱いやすかったからなぁ。槍のリーチは魅力なんだけどねぇ。訓練で模擬戦をした時は、相手が初心者でもすごいやりづらかったし、実戦で上手く使いこなせる自信はない。


「店じゃせめて店長と呼べっつってんだろが!……客は?」


「そっちの……お嬢さん?だよ」


15分ほど経って、奥から店主と思しきドワーフのおっちゃんが出てきた。頭に手ぬぐいをまいて、あごひげと口ひげを短く揃えている。

身長はサクラさんより低いが、ガタイが恐ろしくいい。横幅とか倍くらいある気がするな

「こっちは俺がやっから、奥で火見てな。大丈夫だたー思うが、温度下がるようなら足すんだぞ」


「そんなん、言われなくたって判るっつーに。それじゃあお客さん、ごゆっくり~」


入れ替わりにドワーフの女性が奥へと消えていった。会話からすると親子なんだろうな。


「ほいで、待たせちまったな。要件は?」


「ギルドでここを紹介されて、修理をやってるって聞いているんだけど?」


「ああ、やってるぜ。物はそれかい?」


「ええ、見てもらえるかしら」


サクラさんがハルバートを渡す。


「そっちの兄ちゃんは?」


「今のとことは付き添いです。パーティー組んでるんですよ、彼女と」


「そうかい」


それだけ聞くと興味をなくしたようだ。

ハルバートを鞘から出して、カウンターのしたから引っ張り出してきた小さなハンマーで柄を叩いたり、店の奥に向かって振ったりしている。検診かな?


「どうですか?」


「……こいつは……ダメだな」


しばらくハルバートを診ていた店主のおっちゃんは、難しい顔をしながらそう返した。


「ダメ?」


「ああ……だけどその前に幾つか気になる点はあるが聞いても良いか?こいつは柄まで含めて全て鋼鉄製だろ?なんでこんな武器使ってんだ?」


「それくらい硬くないと、振り回した時に曲がったり折れたりしちゃうからよ」


サクラさんがフードを取る。おっちゃんは驚いたようだった。


「お前さん、鬼だったか。小せえから同族か巨人族(ジャイアント)辺りかと思ってたぜ」


「小さいって言うなっ!」


小さいのに巨人族(ジャイアント)ってどういうことだ?そーいや、巨人族(ジャイアント)には会ったことないか。


「悪ぃ。だけど鬼族でその立っ端は珍しいだろ?……まぁ、理由もわかったがな」

「鬼の力で振り回すんじゃぁ、木の柄じゃすぐに折れちまう。柄まで金属っつーのは妥当なところだな。だけど立っ端が無けりゃ手も小せえ。だから普通の鬼族より、細い柄じゃねぇと扱えねぇってところだろ」

「細いと柔けぇ鉄なんかじゃすぐ曲がっちまう。だから硬度の高い鋼を使ってる。それを絶妙な加減に調整して、折れねぇ様にしてんだな」


「……そうよ」


そう言えば、サクラさん普段はハルバートを片手でも振り回していたけれど、鬼人との戦いの時にラルフさんから借りた両手斧は両手で振るっていた。

サクラは背が低いし、確かに手も小さい。ラルフさんは背が高くて手も大きい。なるほど……種族補正ですごい力を持っていても、そう言うところはどうにも成らないんだな。


「んでだ、このハルバートだがまずひどく曲がっている。こんだけ力がかかってよく折れなかったって感じだが……こいつを伸ばせば、当然その部分はもろくなる」


「それに曲がったまま使われたせいかもしれねぇが……ヘッドにもダメージが入ってんな。こっちは治らなくもねぇと思うが、鬼の力で振り回すんなら今の長さじゃ不安が残る」


「歪んだせいでずれた重心も完璧には戻らねぇ。同じ強度が出る保証もねぇ。新しく打ちなおすならできるが、修理は難しいぜ。そもそも、修理するような構想で作られた武器じゃねぇだろ」


サクラさんは店主の話を聞いて、顔色を曇らせる。

金属の槍頭を木製の柄に鋲で止めるような作りなら、先に柄の方が壊れるため柄だけ変えればいいが、サクラさんのハルバートはそうは行かないもんな。


「サクラさん?」


「……そのハルバートは、あたしが村を出るときに両親が特注してくれたものなの。背の……高くないあたしがリートを得るには長モノが良かったから」


……両親がくれた物……か。


「なんとかする方法はないかしら?」


「……金をかけりゃあ、ならんでもねぇがな。ぶっちゃけこいつはただの鋼だ。直した後に魔術刻印を入れて、魔術で強度を補完するって手はある。が……特注品は高えぞ。ウチじゃできねぇし、3ヶ月はかかる。金額もおそらく1万ゴルは越えるんじゃねぇか」


おぅふ。

時間と金額を聞いて、サクラさんも流石に目を丸くしている。


「鋼の塊に戻して、伸ばして形にし直すんなら出来なかない。オーダーメイドになるし……1200ゴルってとこか。既成品でよけりゃ魔術刻印が入ったもんが買える値段だぁな。もちろん、木の柄のもんと比べりゃ、強度だけはソッチのほうが高くなるだろうけどな」


「……流石に、予算が厳しいわ」


ちらっとこっちを見てから、サクラさんが声を絞り出す。


「贈りもんだし使いてーってなら、ヘッドのダメージはそこまででもねぇから、曲がった所で切って片手斧にするてのは出来るぜ。多少形は変わっちまうが100ゴルでやってやんよ。2日もありゃできる。どうする?」


金額的にも、使い方的にも妥当なところなのだろう。

サクラさんも流石に素手では厳しいことは、このあいだの鬼人との戦いでわかっている。

……だけどさ……両親からの贈り物か。


「……じゃあ」


「少し考える時間を貰ってもいいですか?」


迷っているサクラさんの声を遮る。


「アキト……」


「どうせ即日には治らないんですし、構わないでしょう?」


別に、いま即決しなくたって良いじゃないか。金もそうだし、もうちょっと納得の行く方法があるかもしれない。


「うちはいつでも良いけどよ。困らねぇか?」


「大丈夫ですよ。なんとかなります。とりあえず、今日はギルドで仕事を探して、その様子を見てまた来ます」


「嬢ちゃんもそれでいいんか?」


「……仕方ないわね。そうするわ」


「あいよ。んじゃ、こいつは返しとくぜ」


店主さんからハルバートを受け取って店をでる。

純粋に修理するのは1万ゴルかぁ……なにか考えなきゃいけないな。


明日は23時頃には投稿予定です。


岩人族(ドワーフ)

採掘とその加工を役割とする種族。

多くはずんぐりむっくりとした体型で、身長は低め。筋力に優れており、男性も女性も大体はがたいが良い。

鉱山などで働くことを想定して生み出された種族故か、人間族より夜目が効き,呼吸による中毒に高い耐性を持つ。



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