プロローグ 前編
はじめまして。hearoと申します。
初投稿になりますが、楽しんでいってもらえたら幸いです。
ソフト目の、でも緩すぎない感じにやっていければ良いなと思います。
ある程度は独自の世界観を盛り込んでいますので、『設定とか解らないとやー』と言う方はそっとブックマークでもしていただいて、溜まってから読んでいただければ幸いです(ぉ
しばらくは1日1話~2話更新の予定ですので、よろしければごゆるりと。
気づいたらそこに立って居た、としか表現出来ない。
今から1年と4ヶ月ほど前の話になる
父さんと母さんが揃って行方不明となった。
……いや、ここはちゃんと死んだと認めるべきだろうか。
高校1年の夏休み、二人は結婚20週年の記念だとかで俺を残して二人で海外旅行へと旅だった。行き先は東南アジアの島国だったと思う。
島から島へ移動するために乗っていた小船が、運悪く転覆したらしい。
船長を含む半数は海上を漂流しているところを助けられたが、父さん、母さんを含めた残り半分の行方は未だにわかっていない。
そしてそれから1年。
特別失踪による死亡判定が認められ、あえなく死んだことになった。つい4ヶ月ほど前のことだ。
その間一人っ子の俺がどうしていたかといえば、遠方の親戚に引き取られ肩身の狭い思いをさせられていた。
祖父祖母はどちらも俺が幼い頃になくなっていて、俺を引き取ったのは、ほとんど顔を合わせたことのなかった父さんのはとこに当たる夫婦だった。
この再従兄弟夫婦は最悪だった。
そもそも夫婦仲が悪くしょっちゅう喧嘩をして、周りへの八つ当たりもひどく散々罵声を浴びせられた。俺をけなす時だけ夫婦揃ってピッタリ息を揃えているのがまた頭にくる。
息子と娘が一人づつ居るようだったが、八つ当たりが嫌らしくほとんど家により着かない。
『うちの子達は居ないのに、なんであんたはここにいるの?』と罵られた時にはどう返して良いかわからなかった。
俺がここにいるのは、こいつらが無理やり引き取って転校までさせたせいだというのに。
その理由がわかったのはつい先ほどの事だ。
金にがめついところも息ぴったりだと思っていたら、父さん母さんが残した家もその他の物も、二人の死亡が認定されるとすぐに売り払ってしまった。
『家以外に貯金もなくて、ほとんど何も残っていなかった』と、虫の居所が悪かった婦人に罵声を浴びせられたつい今しがたの事だ。
前々から両親の遺産に興味が在ることは知っていたが、現金なら兎も角、後見人がこんなにも早く家まで売り払ってしまえるとは思わなかった。
そんな事もあって、『死ねクソババア』と罵声を浴びせ、着の身着のまま家を飛び出したのがおそらく1時間ほど前。
そして何処をどう走ったか覚えて居ないが気づいたら俺は……。
……荘厳な玉座の前に居た。
どうしてこうなった?
現実とは非常なものであるってーのは先の一件でよくわかったが、それを上書きして余りあるこの異状に頭がついていかない。
建物の中に入った記憶もないし、そもそもこんな建物があるなんて聞いたことも無い。
「ようこそ約束の地へ。硲彰人くん」
声をかけられて初めて、玉座に人影が在ることに気づいた。
「おっと、その様子では見えないか。ちょっと待ってくれ」
パチンッと音がして、周囲に明かりが着く。部屋の壁や柱には松明が取り付けられており、それに火が灯ったようだった。
「これで見えるかな?」
そう言ったのは玉座に座った20代後半くらいの男だった。黒髪に黒い瞳、そしてつやのある漆黒のマント。
「ごめんなさい。迷ってしまったようです。出口は何処でしょうか」
これは関わっちゃいけない人だ。俺の直感がそう告げている。
「迷った?道にかな?それとも人生にかな?ハハハハハ……ジョークだ。笑いたまえ」
……なんだこいつは。
「……そうか。面白く無いか……まぁ、君がここにいるのは迷ったからではないよ。私がここに呼んだからだ」
「いえ、呼ばれた覚えはありませんのでこれで……あれ?」
踵を返して来た道を戻ろうとして、足が動かない事に気づいた。どうなってるんだこれ?
嫌な汗が噴き出してくる。おかしい、どう考えてもおかしい。だいたいついさっきまで居たのは家の近くの河川敷だ。こんな所に迷い込むわけがない。
「落ち着きたまえ。別に取って食おうと言うわけでもない。どうせ帰ったっていい事はないのだろう?」
そう言うと男は指を鳴らす。それと同時に薄暗かった部屋の中がいっそう明るくなる。
「やっぱ松明の光ではダメだな。目が悪くなりそうだ」
上を見上げると、光の塊が漂っていた。おかしい。どう考えても浮いているようにしか見えない。
「さて、一方的に話をさせてもらおうか。ここは約束の地。君が居た世界とは別の次元に位置する……端的に言えば異世界ということになる」
「……異世界?」
「別世界ということだよ。まあ、月よりは遠いとこさ。そこに私が君を呼び出した。ああ、紹介が遅れたね。私はこの世界を統べるもの。この世界では三代魔王と呼ばれている。名前はソーマと名乗っているよ。三代目なのでね」
「……それは三作目と関係があのか?」
彼の自己紹介を聞いて、そんなどうでも良い質問がこぼれた。
「いいね。落ち着いているようだ。そのとおりだよ。君の知ってる某有名ゲームからもじったものだ。そして私も君と同じくこの世界では異世界人ということに成る」
「私は君の世界で言う日本の、君よりちょっと未来の出身だ。とは言っても、君の世界とは平行世界の出なので、直接の関係はないがね。私の出自に関しては別にどうでもいいだろう?」
そう言うと男は小さく手を振って空中に何かを描いた。
俺とそいつの間に、少しだけぼやけた映像が浮かび上がる。……地図?
「この世界には我々の世界と違って、多種多様な人類が住んでいる。あまりに多様すぎて覚えるのも嫌になるくらいね。一応は人類24種とされているが、どの口が言うかと。彼らは姿形が全く違うものも多くてね。ほら、知っているだろう。リザードマンとか、半魚人とか。彼らは人の形をしているだけ可愛いもんだ」
「そんな人類が仲良く手を取り合って暮らしているのが、この約束の地というわけさ。とは言っても、少なくとも姿形は全く違うものも多いから問題は多発する。それを解決するために、異世界から自分たちに都合の良い指導者を呼び出して解決してもらう。そうやって呼びだされたのが私。この世界ではそれを魔王と呼ぶのさ」
男は頭のおかしい説明を続ける。だが、その言葉を遮ることは出来ない。天井を漂う光の球が、彼の言葉を否定する気力を失わせる。
「なぜ魔王と?」
「初代がどうしようもなく愚かだったためさ。気にしなくていい。それより君のことだ」
ああ、そうだ。なんで俺はここにいる?なんでこんな訳の分からない話を聞いている。
「私はここに君を呼んだ。君である理由は……まぁ、見つけたのが君だったからというくらいだ。ありふれた悲劇に嘆き、悲しみ、居場所を失った。数多く居るそういう者たちの中で、運よくか、はたまた運悪くか君が引っかかった。それだけに過ぎない」
「引っかかった?」
「検索って言って判るかな?いわゆる魔法ってやつで、条件にあった人間をいろんな世界から探したのさ。そして最初に引っかかったのが君だった。偶然ね。おおっと、偶然なら帰りますとか言わないでくれよ。出会いは偶然でも、それは運命に成るかもしれない」
「そんな運命はいらねぇ」
「私もだ。運命的な出会いをするならせめて可愛い女の子がいいね」
……俺もせめて美人のお姉さんが良かったよ。
「それはさておき。私が君を……正確には異世界の誰かを召喚した理由はね、私の仕事を手伝ってもらうため……というのが正しいかな」
「仕事?」
しかしなんでそんな回りくどい言い回しをする?
「言ったろう?この世界には多くの種族が居て、それゆえに問題が頻発する。それを解決するために1つ実験をしようと思ってね。その被験者を探していたら、君がヒットしたわけだ」
「実験……俺を実験体にするために呼んだのか?」
「まあ、そういうことだね。ああ、もちろん拒否権はあるよ?帰りたいと言うなら、あのクソみたいな現実に返してあげることも可能だ。君の居た時間より後なら、いつだって帰る事はできる。だけどこのまま帰ったってちょっと変わった夢を見た程度で、何もいいことなんて無いだろう?なら、話くらいは聞く気は無いかな?」
「……話くらいなら」
そういえば家を飛び出してきたんだった。
このまま冬の寒空の下に放り出されても、いいことなんて無いのは確かだ。
俺の俺の頭がおかしくなったのでなければ、ここが異世界だろうがなんだろうがあの家よりは随分マシだ。
「いいね。うん。君のような人間なら話を聞いてくれると思ったよ。人体実験と言っても、別に薬物実験をするとかそういうのじゃないよ。まぁ、実際に見てもらう方が早いかな。手を出してもらえるかい?」
数メートル前の玉座に座っていたはずのソーマは、気づいた時には目の前で俺の手を取っていた。
次の瞬間には、親指に鋭い痛みが走る。
とっさに手を引くが、そこには何もなかった。
「ちょっとだけ血を貰ったよ。これでよしっと。さぁ、受け取りたまえ。これが君のステータスカード(仮)だ」
そう言って渡されたのは、テレホンカードより2回りほど大きな、厚さ5mmほどの金属の板。
「試作品だけど、ステータス・オープンと念じてみたまえ。それで君の身体能力が数値化される」
ステータス・オープン。言われるがままに念じてみると、白銀に輝く盤面が変化して見慣れた日本語が現れる。
名前:アキト・ハザマ
年齢:17
種族:人間族
状態;健康
レベル:1
筋力;87
体力:65
瞬発力:89
知識:165
守備力:52
魔力:10
経験値:0
Next:100
「……これは?」
「それが君のステータス。まぁ、身体能力だね。RPG、やったことあるだろう?」
なるほど。種類は違うが見たことのある内容が並んでいる。
「数値の説明は後にするとして、それが君をこの世界に呼んだ理由さ。そのステータスカードのテストプレイヤーに成ってもらいたい」
「テストプレイヤー?上手く動くか試せってことか?」
前にどうしてもクリアできなかったゲームの攻略情報を調べた時、ゲーム雑誌で募集していたのを見た記憶がある。
「そういうことだね。理由も説明しておこう。そのカードのしたの方に経験値とネクストと書かれた数値が在るだろう。経験値は今までに稼いだ経験値……まぁ魔素の総量。ネクストは次のレベルまでに必要な魔素の量。ネクストが0になると次のレベルに上がれる」
「レベルアップね」
「そう。そしてレベルアップすると貯めた魔素を利用して自分の肉体を改造し、人間じゃなくなる」
ごく自然に、ソーマは告げる。
「魔力を使って肉体を作り変え、遺伝子を書き換え、別の存在へとレベルアップする。それがそのステータスカードの効果さ。人体実験の意味はわかったかな?」
「なっ!……てめっ!いきなり」
そんなヤバイものの被験者にしやがったのか!
「おおっと、まだ君の体には何も起こっちゃいないよ。血液で登録しただけさ。君は正真正銘、ご両親から頂いた清い身体のままさね」
「その言い方はヤメロ!」
「ははは。さて、話は戻るが、そのステータスカードは魔素……魔力を使って肉体を改変する。その実験がしたい。理由はいくつかあるが最も大きなものは……この世界の人類の中にちょっと困った種族が居てね。彼らをなんとかしたいからさ」
「その彼ら……鬼族と呼ばれているんだが、この世界を作った神様は彼らを人類の敵に定めた。同じ人類なのにだよ? 彼らはそのせいで、人を喰わねば気が狂う。普段は力強く理性的で、それは良い種族なのにもかかわらずだ。本人たちは望んでいないのに、気が狂い、発狂して人々を襲ってしまう。そして人を喰った後で正気に戻り、絶望する。ひどい話だろう?」
「原因は解らない。調べては居るんだがね。ちょっとめどが立たない。そこで別の手段として、鬼族を別の何かに変えてしまえば、人喰いの衝動は抑えられるのではないかと考えた。そのすべがソレさ」
「……その鬼族のための物なら、そいつらで試せばいいじゃないか」
「私はこの世界の人類を統べるものだからね。この世界の人類相手にあまり人体実験とかしたくないってのと……言ったとおり肉体を改造するからね。使用者が力に溺れて暴走しないとも限らない。でもさ、私的には暴走したからって『はいそうですか』と始末は出来ないのよ。これでも人道的な魔王様で通ってるから」
人道的な魔王が別世界から人を拉致まがいに連れてきたりするものか。
「その点、異世界の住人ならその世界に送り返すことは私なら比較的容易にできる。送り返したって元に戻るわけじゃないけど、まあ、後はそっちでなんとかしてもらえばいい。元の世界で基礎教育に失敗していた責任は取ってもらおうかなとね」
「……ヒドイ話だ」
「魔王だからね。こちらで改変した能力を持ち越せるのだから、被験者にとってはあまりデメリットは無いだろう?なに、存在の改変事態の安全性はある程度は保証できるしね。見たまえ」
そう言って魔王ソーマはもう一枚のカードを投げてくる。
名前:ソーマ
年齢:47
種族:大魔王
状態;健康
レベル:−
筋力;−
体力:−
瞬発力:−
知識:1791
守備力:−
魔力:−
経験値:−
Next:−
渡されたカードにはソーマのステータスが書かれているようだった。
「ほとんど読み取れないんだが?」
「ああ、差がありすぎると数値化出来ないのだよ。システム軽量化の影響でね。大体、見ている者の種族の平均値から700倍弱のステータスになると表示されなくなる」
知識だけ表示されているが……それでも俺の10倍以上か。そして年齢が47。とてもそうは見えないんだが……あれ? 自分も日本人だってさっき言ってなかったか?
「私も自分で自分の肉体を改変してね。色々試した結果がソレだよ。それだけステータスが上昇しても、とりあえずは自分を保っていられる。カードはその存在改変魔術を量産のために効率化、安定化させたものだ。安定化させているから、私を超えてチートレベルまで成長するのは中々大変だと思うよ」
「量産化って……むしろ不安なんだが」
「量産品が粗悪だというのは素人考えだよ。場合によっては人類全体に広めるものだ。安全性には細心の注意を払っているさ。これは実用化前の最終テストみたいなものだ。表示とかインターフェイスとかを変更することはあるだろうけれど、性能自体に遜色は無い」
そんなものなのか。なんにせよ、目の前の自称魔王様は俺とは比べ物にならないほどの力を持っているらしい。この数値がどの程度意味があるかはわからないけどな。
「そんなわけで、存在の改変については心配しなくても大丈夫なはずさ。能力の上昇に体がついて行かなかったり、力加減ができなくなるなんて事が無いようにするための改変もされるし、効果は君だけにしか無いから子供を作っても影響は引き継がれない。もしテストを終えて君の世界に戻っても、好きなように力が振るえるスーパーマンに成るだけさ。君が行いを間違えなければデメリットは無いだろうね」
「……だけど、俺には引き受けるメリットがない。そもそもここが異世界だってのも眉唾ものだ。俺の頭がおかしくなったって考えるほうが現実味がある」
「まあ、そうだね」
それにこいつの言うことが正しいとして、何が悲しくて狂人の戯れ言に付き合って人間を止めなけりゃならんのだ。
「ここが違う世界だって事については、まぁここで生活してもらえばわかってもらえると思うよ。それから、メリットに着いては一つ案が在るんだけどね。それを言うのはズルっこだと思うから、君がやるというなら教えてあげよう。難易度も高いしね」
「出し惜しみかよ」
「ああ。なにせ君に断らせない自信があるからね。とりあえず、ちょっとこの世界で生活してみるのはどうかな? 帰ったっていいこと無いんだろう?」
「それは……そうだけど」
確かに、あのクソみたいな家に帰る気には全くなれない。
「さっき行ったように、帰ることは出来る。往復でも構わないよ。今日だったらこっちから後2回くらいは往復できるかな。今日以降だと、30日ほど時間が開いてしまうね。召喚も送還も、新月の日じゃないとコントロールがめんどくさいんだ。出来なくは無いがやりたくない」
「帰って構わないのか?」
「戻ってくるというなら時間を指定してくれれば、その時間に呼びだそう。そちらとこちらの時間は同期していないから、君の世界で過ごす時間は何時間でも構わないんだ。家からこちらに持ってきたいものも在るだろう?」
非常に魅力的な提案だった。どうせ行く宛もない。それにやけになって飛び出してきたが、あの分じゃ俺の部屋のものだって勝手に処分しかねないから、物が持ってこられるのはありがたい。
「なら、少しだけ世話になっても良い。ただ……自分の私物は持ってきたい」
「おーけー。引っ越しなら2〜3日戻ればいいかな?」
「いや、そんな悠長なことしているつもりは……」
そう言いかけて、そういえばこの男はどこまで事情を知っているのだろうという疑問が湧いてくる。
「ん〜……親しい誰かが亡くなった、くらいの事しか知らないよ。そういう条件で呼び出したからね。ああ、後は死に目には会っていない。これは確実だ」
なんとも大雑把な話だった。仕方ないのでかい摘んで状況を説明する。
「なるほど、それはヒドイ話だね。この世界は生きるのが中々大変だけど、現代日本は別の意味でねちっこくてイヤダイヤダ。まぁ、だから魔王なんてやってるんだけどさ」
「しかしそうなると、こっそり家に戻りたいよね。ん〜……よし、取寄。これを持っていきたまえ」
そう言って投げて寄越したのは銀色に輝く腕輪と鍵。
「試しに作ってみたけどこの世界じゃ使い物にならくてお蔵入りしてたマジックアイテムさ。認識阻害の腕輪は、見えていてもそれに気づけなくなる。鍵の方は、解錠鍵。開け方のわかっている鍵なら開けられる。ドアの鍵は無理でも、窓のロックは開けられるだろう?」
どちらも便利そうなのに失敗作扱いなのか。
「それとステータスカードを持っていけば、この世界の存在を向こうでも疑わなくて済むだろう」
「ああ、確かに」
「それじゃあ、一旦戻って荷物をまとめてこちらに来る、で良いかな?」
その問いかけに頷く。向こうに戻るのは午前1時。その4時間後の午前5時に再度こちらに召喚してもらうよう手はずを整える。
「ああ、そうだ。一応約束を決めようか。この後、君の世界で大きな犯罪は起こさない事。殺人とか放火とかね。こっちの世界を都合のいい逃げ場にされても良くないからね。それくらいなら呼ぶときに調べればわかるから、もし約束を破ったら呼び戻さないよ。それから、そのマジックアイテムを使って他人に迷惑をかけるのもなし。お天道さまに顔向け出来ない事はやめておくれよ?」
そういえばそうか。ここが異世界ならあのクソババア共に一泡吹かせてから逃げてくるって事も出来るのか。
「考えもしなかったって顔をしてるね。それが良いよ。行方不明のご両親に顔向け出来ないからね。後は……別に必須じゃないけど気をつけてもらいたいことはあるか」
場所は出来れば河川敷、人目のつかない所にいてほしい。この世界の物質と交換だから、運べるものは身に着けている物くらい。などなど。
幾つか注意事項を聞いて、いよいよわずか数十分ぶりに日本に帰る準備は整った。
「それじゃあまた、4時間後に」
彼がパチンッと指を鳴らすと、広間中に幾つもの、幾重にもの魔法陣が現れて光に覆われて視界が暗転した。
そして気づいた時には、誰もいない河川敷に一人立ちすくんでいた。
後編は本日中にUP予定です。