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ちいさな僕のお姫様  作者: にしのかなで
一章
6/30

ちいさな歌姫(改)

オブリーからあの後聞いた話では、セシリアは確かに魔力という能力はないが彼女を孤児院に預けたのはどうやら神殿に勤める侍女のようだったと聞いているらしい。ひっそりと目立たぬように古い馬車でやって来た彼女は籐で編み上げられた籠の中に真っ白な産着にくるまれ、額にはこの国を守護する神の祝福が浮き出た赤ん坊を司祭に預けた。父母の名は明かされなかったが、いずれ名のある婦人がこの子を引き取るだろうからその時が来るまで預かって欲しいと。しかし、他の子と区別せず普通に育てること。身元は決して探ろうと考えないこと。それから、あまり人前に出さない事。


「この方は至宝です。預ける相手をお間違えなく。」


それだけ言うと来た時と同じ様に古馬車に乗り込み何処かへと消えて行った。


「それからセシリアさんが成長するにつれ額の祝福の印は薄れ今では全く見ることはないのですが、最近年長の聖歌隊の練習などを見て歌を歌う様になって、それが枯れた木に花を咲かせたり温室の花の成長が早くなったりと、まぁ奇跡とでもいうような事が起こり始め司祭は大層慌てたそうですよ。」


「じゃあ、あの子の能力は巫女様の系統・・・?」


「そこはなんともわかりませんね。何しろ身元を探ろうとすれば何が起こるかわかりません。しかし、たまたま本邸の奥様が訪れた際あの子を見かけた途端にとにかく連れ帰らなければと思われたそうです。」


「その時も何か不思議な事が起きてたんでしょうか?」


「いえ、ただ庭に立っていたそうです。しかしなぜかとても印象深く、すぐに司祭殿にこちらで引き取りたいと申し出たところ先の話を一部始終話され更に今までにも慈善で訪れた貴族の方々から何度も引き取りたいという話があったようなのですが司祭殿は首を縦に振らなかったそうです。ただ、公爵夫人が訪れ挨拶を交わした際にその時が来た。と、思われたようですよ。」


「不思議なお話ですわねぇ・・・」


「はい、まだ奥様がセシリアさんを見つける前にそう感じ奥様からの申し出を待っていたそうです。勿論、これまでの生い立ちや奇跡のような話は他の貴族の方にはされてないようで、孤児院を出てからもまだ諦めきれずセシリアさんを引き取りたいと訪れる貴族の方々が後を立たないそうですが、セシリアさんは遠い領地の領主に引き取られたと、話をぼやかしているそうです。どうも、あの子には人を必要以上に強く惹きつける魅力があるらしくこの屋敷内にいる事が知れれば何としても会いに来るだけならともかく下手をすれば誘拐なども考えられます。」


「だから、この離れ専属侍女にするとおっしゃったのか。でも、もしかしたら名のある方のお子様かもしれないんじゃないですか?神の祝福の印なんてそうそう受けられるものではないでしょう?そんな子をしかも僕なんかの侍女扱いでいいのでしょうか。」


オブリーさんは少し微笑んでからルディを見つめて


「はい。確かに祝福の印は位のある子女の証かもしれません。しかし、あの子を特別扱いしない事。そして身元を探らない事、更に人目に晒さない事。この3点が本来ならそれなりの地位にあるかもしれないあの子を預けに来た方の言伝です。それは、まだ赤ん坊だったあの子と離れなければならない何かの事情のあったご両親の願いでもあったのではないでしょうか。ですから公爵夫妻はとりあえずその能力が魔力かどうかをあなたのお養父上に確認していただき、魔力ではないものの何らかの能力で、更にガウス様の魔力に同調しているといった理由でこちらの離れに賓客扱いではなく専属侍女として迎える事になったのです。何と言ってもこの離れほどあの子を隠すのに相応しい場所はないでしょう。司祭殿は確かに預けるお相手を間違われませんでしたね。」


たくさん喋って喉が乾いたからかオブリーはフェンリルの淹れた紅茶を美味しそうに飲んだ。ルディも何だか話の内容に緊張して喉がカラカラだ、いつも美味しいけれどこんな時に飲むフェンリルの紅茶は更に美味しかった。


二人それぞれにお代わりを淹れてくれたフェンリルが座り直して聞いてきた。


「お話はよくわかりました。セシリアさんはこの離れから出さない方が良いのですね?何かあれば公爵夫妻にお伺いをたててから。それから、あのお歌の能力以外はどういったものがあるのかわかりますか?今回のように突然消えられては、私あの時は心臓が止まるかと思うくらいびっくりしましたわ。オブリーさんも先に仰って下さってればよろしいのに。あとは、とにかく普通の娘さんとして扱ってよろしいんですのね、本当に?」


チクッと言われて居心地が悪そうな顔をしてからまた人の良い顔をして疑問に応えた。


「その通りです。普通の娘さんとして立派な侍女になれるよう教育を施して欲しいと奥様からの伝言です。フェンリルさんには色々気遣いをさせるかもしれないから申し訳ないと仰られてました。離れを出るのは基本厳禁だそうです。なにせ

稀有な存在ですし、人目に晒すには危険が伴うのでしょう。身元は探れませんがその能力まで探る事は止められていません。あの子がこの離れにいることは国王陛下と魔法省のごく僅かな人数しか知らされていません。大袈裟に言えば国家機密並の扱いで現在その能力を調べています。ですので、現在解っているのは歌うことによって生命体に何らかの影響を及ぼすこと、更にガウス様と同調する事で予想もできない現象が起こる可能性がある事・・・ですかな。」


はぁ〜っと溜息をついてフェンリルは覚悟を決めたようだ。


「わかりました。セシリアさんは必ずやこのフェンリルが手塩をかけて立派な侍女に育て上げます!後のことはガウス様、よろしくお願いいたしますねっっ!」


「え⁈う、あ、はい。・・・ええぇ〜っ⁉」


「さ、では解散いたしましょう。」


「そうですね。」


ガタガタと疲れた様に椅子から立ち上がり居間を出て行く二人を呆然と見送ってから盛大な溜息を止められないまま僕も自室に戻って行った。

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