春が舞い降りる宴4
「ホント、残念な子よねぇ・・・そう思わない?お母様。」
「ふふっ、社交デビューを済ませたからこれからは公の場に出るのが増えるでしょう。私は楽しみだわぁ。あの綺麗な顔を連れ立ってあるけるのよ?他所の奥様方に自慢できるじゃない。」
「ちょっと!そんな事考えてるの?ズルいわ、私にも時々貸してくださいな。」
「あら、いいの?そんな事してたら嫁き遅れるわよ。」
「いいんです。私はまだまだあのちびっちゃいお姫様達を躾なきゃ。それに、悪い虫除けに丁度いいくらい。」
「あのねー、何の話に花咲してんのさ。あいつが社交場なんて出るわけないだろ。」
「だから、残念な子って言ってんのよっ。今日みたいにいつも磨いとけば、いくら難あり物件でも良家のご令嬢と話が持ち上がるのにねぇ。」
「姉上、まずご自分の身を固めてからにして下さいよ。全く、働き過ぎじゃないの?いくらでもウチで遊んでられる身分なのにさ。」
「あ〜ら?姉様は僕のお嫁さんにしますぅって言ってた子が立派なこと言うようになって・・・貴方のお相手も直に探し始めなくちゃね。」
ルディに対する感想が本人にまで丸聞こえであり、客間に集まった主だった使用人達も苦笑していたが、そのさざめきが突如止む。小さな足音をさせ僕の養母に導かれ主役の登場らしい。僕はセシルが儀式の場に着くまでその姿を見ることができないけど、客間の奥に控えているフェンリルとエミリーが満足気に微笑んでいる。アーウィンは目頭を押さえ、オブリーとウィリーは・・・あれは、8歳の女の子に見惚れてるな。さあ、いよいよ儀式の始まりだ。
「ニーム・ロドリゲス・ガウス魔法魔術技師見習い殿、本日はこの娘に誠の名を授けていただきたく、ヒエラ・ツェツィーリア・ガウス魔法癒術師が立会人となり名付けの儀の執行をお願いいたします。」
養母の口上もうっかり聞きそびれるところだった。うん、ごめん。ウィレムにオブリーさん認める今日のセシリアはとても綺麗だ。
「承知。本日此れよりヒエラ・ツェツィーリア・ガウス魔法癒術師を立会人としこの娘の名付けの儀を執り行う。セシリア・ミルフォイ汝は是迄の名を忘却の河に流し、天から降る幾多の星の中から誠の名を得んとしこの名を永遠に身に纏い何者からも穢れなき存在を示す是その身が天の星々に還る迄その身を守り祝福を与えん事を今此処に我と我の同胞としてその名を与える汝是迄の名を流し誠の名を得る事に異存はないか」
「ございません。我天から降る誠の名を得てその名を与えし魔法師に永遠の忠誠を誓いその同胞となることを慶としその名を此処に集いし者達に知らしめ我の存在を此処に示し数多の祝福を受けその名により我を祝福する者達に同じく祝福を授けその名を天に還し時迄身につける事を誓います」
「此処に集いし者の中に異議のある者はおらぬか」
「・・・」
「其れでは此れより我が預かりし汝の名を与えよう。汝、セシリア・ミルフォイは此時よりアレクシア・カーテローゼ・ハプトマンの名を名乗るがよい。此名は汝を祝福し凡ゆる厄災を寄せ付けず汝の幸福を祈る者からの最大で最良の授けものであり此れからの人生において最大の護りである事を誓おう。では、アレクシア・カーテローゼ・ハプトマン前へ」
立会人の養母から華奢な箱に納められた指輪を受け取る。その指輪をアレクシアの指にはめ古語の呪文を呟き初めてはめた時の様に其れはアレクシアの指のサイズにピッタリと収まり何時もより輝きを増している。
「我、汝のいついかなる時も幸福を祈り此指輪を授けん。其れでは汝、その名を唱え此処に集いし者等の祝福をその身に受けよ。」
「我が名はアレクシア・カーテローゼ・ハプトマン。此名を生涯身に纏い魔法師様の祝福に感謝いたします。」
僕の前に膝まづき指輪を付けた手を差し出しその手を取り立ち上がらせ客間に集った人々に二人で深々と頭を下げる。会場に入りきれなかった人々からも盛大な拍手を受け無事に儀式は終了した。隣でそれまで緊張した面持ちだったアレクシアがホッとした顔をしたのがわかる。
次に公爵夫人から参列者の代表として祝辞が述べられ宴が始まる。真近で養母がこれまた安心した様に息を付く。アレクシアの周りには公爵夫人に始まりアナスタシア、フェンリル等が集まり祝福を述べる。ルディはもう緊張のあまり喉がカラカラで、近くにある飲み物を一気に煽る。
「ルディ、上出来だったよ。養父さんにも自慢できるわ。」
「ありがとうございます。それにしても緊張した〜。」
「いい名じゃないか、アレクシア・カーテローゼ・ハプトマンか。ハプトマンは古の戦と祝福の女神の名だ。どれだけあの子が親に愛されて生まれたかこれで証明できるってもんさ。」
「成る程、あの子にはこの先決して会う事は赦されないかもしれないけどちゃんと両親からの贈り物が届けられて何よりの祝福ですね。」
そこへウィレムが人垣を掻き分け近づいてくる。
「おい、ルディなんとかしてくれよ。女性陣に囲まれて可愛い妹に近づけやしない。」
ボヤきながらもその顔は嬉しそうだ、しかし次の瞬間また嫌味が始まった。
「それよりお前な、あの指輪・・・」
指輪の件なら養母に聞く様誤魔化してへラリと笑って庭へと逃げる。陽が暮れ始め養父の用意した明かりが灯され幻想的な雰囲気に包まれている。軽食をつまんでいるとアレクシアが人垣を逃れてそばに来た。アルコールの入ってないグラスを渡し乾杯をする。
「ありがとうございました、ルディ様。」
「良い名を頂いたね、おめでとうアレクシア。」
「はい!あの今日だけ特別にルディ様だけにお礼の歌を歌う事をお許しいただけますか?」
「僕に?」
「はい。おねがいします。」
周りはもう無礼講の様に主も使用人達も賑わっている。
「じゃあ、一曲お願いできますか姫君。」
顔を赤らめて頷き一呼吸置くとこの国では聞いた事のない言葉で歌い始めた。