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ちいさな僕のお姫様  作者: にしのかなで
五章
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春が舞い降りる宴3

一方、本邸では未だその存在を明かされていなかった離れに住む「魔法魔術技師見習いの専属侍女見習い」という何だか非常にややこしい少女が存在しており、急遽その名付けの儀を執り行うため主に厨房が忙しく働いていた。


「なんでもよ、先日亡くなられた司祭殿の所から来てるらしいぞ。」


「へえ〜、いつから?」


「もう3年になるそうだ。なあ、司祭殿が居なくなればミルフォイは名乗れなくなるわな?だけどなんで、名付けの儀なんだ?」


「さあね?奥様からの言い付けだから俺たちゃとりあえずたんまり旨いモン作りゃいいのさ。余計な事考えんな。」


「でもよぉ、扱いが凄くないか?離れだけじゃなく俺たちまで今日は食えるんだぜ。」


「だーかーら、いいじゃねぇか。あの魔法魔術技師見習い様の専属侍女になる様な娘っ子だ、なんか訳ありなんだろう。あ、お前焦がすなよ!余計な事考えずに早く作って早く食おうぜ。滅多にこんな事ないぜ。」


料理人たちは軽口を叩きながらも次々とメニューを仕上げていく。離れには特別料理だが今日は本邸の使用人の分までご馳走を作らなければいけなく、確かに気にはなるが専属侍女見習いの詮索をするほど暇ではないのだ。屋敷の玄関には次々と贈り物が届けられてくる。仕事で出席できない子息から、更に王家の姫君達からも届くので厨房以外でも受け取る使用人たちも噂に花を咲かせながら離れと本邸を行き来する。


「ガウス様、準備が整ったので公爵夫人がこちらにいらっしゃるそうです。」


「あ、はい。わかりました、二階はどうなのかな?まだ降りて来ないけど。」


「私が伺ってきましょう。ガウス様は今日は主催者です、奥様やお嬢様方の接待をよろしくお願いいたします。」


「わかりました。」


襟を正して本邸へと繋がる離れの入口へと向かう。普段は閉められている扉が今日は開放されここにも養父がしてくれたであろう飾り付けが施されていた。

本邸側の扉が開き公爵夫人を先頭にいつの間にあちらに帰って着替えたのかアナスタシア、そして努力の結果帰宅を果たしたウィレムが続いてくる。ルディは離れの入口で公爵夫人に礼を取り今日の儀への感謝を述べる。続いてアナスタシアにも同じく礼をしセシルの為に帰宅し準備を手伝っていただいた事への感謝を述べ、ウィレムには向こうから「失敗するなよ」と言われ肘で軽く小突いてやった。最後にアーウィン執事が来てくれてやはり感謝の言葉しかない。あちこちに手配して色々と動いてくれたのだ。普段は殆ど使う事のない客間に本邸の方々をお通ししてからオブリーに二階に上がるよう言われる。セシルの部屋をノックするとフェンリルと養母が出てきた。フェンリルがセシルが少し緊張しているから解してやって欲しいと言い階下へ降りていく。


「ルディ。」


呼び止めた僕に養母が例の指輪を握らせる。


「どういう訳かわからないけどその指輪、使う度に精度が高くなるみたい。だから、今日の儀であの子に名前と共に正式に渡してあげて欲しいのよ。あと、その耳飾りもこれからは余程の事がなければ外さないように。」


「どうしてですか?」


「あの子がここに引き取られたのはお前の力を制御できるから専属侍女として来たんだよね。」


「はい。」


養母はそこまで言うと眉間を抑え唸ってから思い切ったように口を開いた。


「あのね、ルディ。あの子は今日、正式な名を貰ってこれまでより能力が解放されそうなんだよ。いや、確信はないけど予感がするんだよね。で、今迄はお前が制御してもらってたけどもこれからはお前もあの子の力を制御してやらないといけないかも。ん〜、つまり簡単に言うと師弟関係?いや、どうだかな・・・まぁお互い未だ未熟なんだけどお前の方は学校で力の使い方を学んでる、けどあの子は魔力持ちとは違うからさ、教えれば魔法使いの呪文なり使えるのかもしれないけど今は全くわからない。未知数の力を名を得る事で持て余すかもしれない。だから、やっぱりこの対の魔具はお互い身につけておいた方がいいと思うんだけど。」


「え・・・。と、養父さんはなんて?」


「保険だと思って着けとけって。」


「・・・・・」


「・・・じ、じゃあこれはポケットから取り出して着けるような代物じゃなくなったからさ、儀式の時に名を与えた後に渡すから。お前がはめてあげないと丁度のサイズにならないみたいなんだよねぇ・・・。タイミング忘れないでよ。ちょ、ルディ?おーい、養息子よ大丈夫かい!」


「は、い。いやなんていうか、ちょっとセシルに悪い気がして・・・」


「いやほら、縛り付けるようなものじゃないから。お互いの為だし、なかったらそれはそれで大変だし。」


あまりのショックに壁に頭を付けて落ち込んでしまった。指輪、何で指輪にしたんだろう。ブレスレットとかネックレス、何気に目立たないモノにすればよかった・・・。まさか、こんな事になるとは思わなかった。あの時は何となく女の子だから、指輪とか喜ぶかな、後で回収するし小さくて済むしなんて軽い考えで用意したのに。


「養母さん、セシルはこの事知ってるの⁉」


「あぁ、うん。そりゃ説明したからね、あの子は年の割に賢いから納得してくれたよ。あ、もちろんあんたが一番心配してるような将来のあの子の恋路の邪魔にはさせないって言っといたから。」


「・・・それ、ウィレムにもきっちり説明しといて。僕、あいつに殺されちゃうよ⁉頼んだよ‼」


「はいはい、わかったわかった。あ、ほら時間だからあんた先降りてて。ほら、はやく!ショックだろうけど儀式はきっちりやるんだよ。」


滅多に慌てない養母があれだけ動揺してるって事はこの先ただの侍女扱いじゃすまないってことだろうか?覚束ない足元で階段の踊り場まで降りると雑念を捨て深呼吸をする。ショックは大きいが、お互いのためと割り切ろう。何より大切なあの子の儀式だ、それだけに集中しろよロドリゲス・ガウス。


そして僕は何事もなかったようなすました顔をして儀式を行う場に着いた。

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