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ちいさな僕のお姫様  作者: にしのかなで
四章
22/30

花開くその側で5

「ひとつ、大事なお話があります。」


碧い瞳を僕に向けると一呼吸おいて告げた。


「この子の名前ですが、ほかの子どもと同じようにミルフォイの姓は使えません。」


「あ、はい。それは公爵家でも現在どうするか話をしています。」


「では、そのお話も必要ありません。」


「は・・・?」


「大変遅くなりましたが、セシリアには実の名がありますので明日にでもガウス様から名付けの儀を行っていただきたいのですが。」


「え?いや、でも既にある名前ならば名付けの儀は・・・」


「一度も、名乗ったことも呼ばれたこともないのです。」


そう言ってセシリアの頬を撫でた。


「この子のご両親が大切にしまっておいた名前です。親でさえ呼んだことのない名前・・・」


「あの!私の両親は・・・」


「シィーーーーー」


人差し指をセシリアの唇にあて、内緒話のように囁く。


「ごめんなさいね。私からあなたに素性やこれまでの経緯を話すことは禁じられているの。あなたも聞いているのでしょう?詮索してはいけないと。」


「・・・はい。」


「だけどね、司祭様はあなたに銀のお守りを授けたけれど私からは今日あなたに本当の名前を教えて差し上げます。それで我慢できるかしら?」


「・・・」


黙ってしまったセシリアに小首を傾げ困ったような顔をする。その動作ひとつひとつが、まるで人ではないような美しさである。しばらく黙っていたセシリアが口を開いた。


「なにも、知らない事が私の為だと・・・私を守る為だと仰るのですね?」


「そうなの。本当にごめんなさいね。」


「一つ、お願いが出来ますか?」


「内容によるわ。」


「私は元気で、たくさんの優しい方々に守られてとても幸せに暮らしているとお伝えして欲しいのです。」


「わかりました。・・・では、あなたの本当のお名前をお教えしますね。あなたは、明日からこの名を名乗ってください。」


何処か別世界に行っていたのかと錯覚を起こすような時間だった。僕らが教会を出るとまた、大きな扉が閉まる音がする。思わず振り返ると、さっきまであんなに明るかった教会の中が今は僅かな灯りだけが見えている。あの女性は果たして人間だったのだろうか。まるで浮世離れした風情の女性を思い出しながらセシルの手を取り馬車に急いだ。予想外に時間がかかってしまい、春とはいえ夜は冷えるオブリーに謝らなくては。馬車は、止めた場所から1ミリも動いた気配がなかった。御者席に座っている執事に声を掛ける。


「おや、もうよろしいので?」


「はい、あのすみません。詳しい事は帰ってから話します、遅くなってすみませんでした。」


「いいえ、まだ半刻ほどしか経っていませんから大丈夫ですよ。」


「え・・・でも。」


慌てて懐中時計をみる。確かにここに着いてから半刻程しか経っていない、どう言う事なのか?それよりも、外気で風邪を引かせてはいけないので馬車にセシルを乗せ自分も乗り込む。行きと同じくゆっくり進んでくれる馬車の揺れに二人とも酷く疲れたように本邸まで眠ってしまった。夢の中にあの人が現れてセシルの事をよろしくお願いしますと、深々とあたまを下げられた。

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