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ちいさな僕のお姫様  作者: にしのかなで
四章
21/30

花開くその側で4

夜が更けてきた頃、髪を結い上げベールで顔を隠したセシリアの手を取りひっそりと本邸の裏門に付けられた馬車に乗り込む。身元がわからないよう公爵家の家紋の入っていない質素な馬車の為、少々揺れるから久しぶりに外の世界に出て、慣れない馬車に乗るセシリアを心配したが緊張の為か大丈夫そうだ。


「セシー、気分が悪くなったら遠慮なく言うんだよ?」


心配で覗き混んだベールの中から気丈に微笑んでくれる。こうしていると、本当に何処かの令嬢のようだ。


御者をしてくれているオブリーが、慣れないセシリアに合わせてゆっくり進んでくれる。その振動に身を任せながらセシリアが離れにきてからの事をつらつらと思い返しているうちに馬車が止まる。外からオブリーがドアを開けてくれた。


「着きました。念の為少し離れた場所に止めています、少し歩く事になりますが大丈夫ですか?」


「セシリア、歩ける?酔わなかった?」


「はい、大丈夫です。懐かしいですし、歩くのは平気です。」


「では、私はこちらでお待ちしていますので。場所はこの塀の向こうです。この先の角を右に曲がられたら門がすぐありますので。」


「わかりました。」


先に降りてセシルの手を取り降ろす。それからオブリーに礼を言い孤児院にゆっくりと向かう。俯いてベールの中のセシルの表情はわからないけど、繋いだ手から悲しみと緊張が伝わってくる。今日の魔具はセシルの両耳に飾られた耳飾りだ。角を曲がって門が見えた。


「あれ・・・?」


門の前で黒衣の女性が頭を下げた。


「ミルフォイ司祭にお別れをしに来られたロドリゲス・ガウス魔法魔術見習い師様とセシリア・ミルフォイ様ですね。お待ちしておりました。」


黒衣と正反対の真っ白な髪が肩で切り揃えられているのがベール越しにもわかる。


「どうぞ、今はどなたもいらっしゃいませんから。」


教会の奥でいつも説教を説いていたであろう場所に司祭は棺に入り穏やかな顔をして眠っていた。後ろで教会の大きな扉が閉まる音がする。ハッとして振り返ると、先ほどの女性がベールをはずし緩やかに微笑んでいた。


セシルは棺の淵に手を添え小さな声で祈りの言葉を捧げていた。僕も彼女の隣に立ち黙祷する。この司祭殿がいたからセシルは僕らの離れに来た。大事に、約束を守り5年間慈しみ育ててくれたであろう彼女のもう物言わぬ後見人の前で、安らかな眠りとそれからセシルの将来は心配しなくても住むよう自分たちが守るからと祈りを捧げる。


「セシル、ほかにはどなたも来ていないからベールを取って顔を見ていただこう。きっと成長した姿を見たいと思っていた気がするから・・・」


そういうと、ベールを後ろに降ろし翠の瞳に涙を浮かべて語りかける。


「司祭様、セシリアです・・・・8歳になりましたよ。公爵家に預けてくださってありがとうございました。こちらに居られるのは私のご主人様です、ニーム・ロドリゲス・ガウス様。司祭様、私はいまとても幸せに暮らしています、司祭様のお陰です。この、・・・この髪はいかがですか?驚かれましたでしう?司祭様がお隠れになった日にきれいな銀色になりました。これは司祭様からの贈り物でしょうか?ルディ様が仰るにはこの色でしたら人前に出られるようになるかもしれないと仰ってくださいました、今日は、このミルフォイのお家を出てから初めて外に出ることができました。ルディ様は魔法使いなのです。とても強いお力があって私が司祭様にお別れを言いに来られるようにお守りまで作ってくださいました。私は本当にとても幸せです、ありがとうございました司祭様。どうか、どうかゆっくりお休みくださいませ・・・」


ポロポロと涙を零しながらもセシリアは精一杯の感謝を司祭に述べた。そこに、僕と反対側から白いハンカチが差し出される。先ほどの女性がそっと涙を拭ってくれた。


「大きくなられましたね。」


「え・・・あの、私を知っているのですか?」


二人とも少し緊張が走った。幼いセシリアを知っている人間の中には攫ってまで連れ出そうとする貴族もいたのだ、待ち伏せしていた可能性だって有り得ないわけじゃない。思わずセシリアの手を握る。


「そう警戒なさらずとも大丈夫ですわ。私はこの子を司祭殿に預けたものです。」


そう言ってにっこり微笑む。どう見ても年のころは17・8歳の少女と呼ばれてもいい容姿だ。切り揃えられた髪の毛がまた幼さをより醸し出している。


「大切なのは見た目ではありませんよ、ガウス様。私の素性はこの子を預けたときと同じで明かすことも詮索することもしてはなりません。今日はこの子が・・・あぁ、ごめんなさい。セシリアという名を頂いていたのですね。セシリアがこちらにお別れを言いに来るというので私も先に来てお待ちしておりました。」


「・・・まさか、連れて帰るんじゃ・・・」


「いいえ、まさか。ただ、どのように成長したのか楽しみでしたし何より司祭殿が最後に祝福を捧げたというその髪の色を見ておきたかったのです。すばらしい見事な銀ですね。これで今までのような心配は減るでしょう。ただ、その容姿から成長するにつれ別の心配が出てきそうですけれど。」


あぁ、ウィレム辺りが真剣に心配しそうだな・・・と僕も合点がいった。


「ガウス様、これからは離れの外に連れ出しても大丈夫です。私が保障いたします、ご心配であれば今日のような魔具をお使いくださいませ。」


吸い込まれそうな碧い瞳を細め、感慨深そうにセシルを見つめながらそう付け加えられた。


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