花開くその側で3
朝食の後、訪ねて来る様にとオブリーが伝言を預かって来てくれた。本邸に向かうと何時もの様にアーウィン執事が迎えてくれる。
「この度は誠に残念でしたね。」
「はい。僕はお会いしたことがなかったのですが、セシリアがかなり沈んでいます。親代わりの方でしたからね。」
「そうですね。お気持ちお察しします。」
話しているうちに客間についた、以前通してくれたエミリーが今日も案内してくれる。
「奥様、ガウス様がいらっしゃいました。」
ソファに腰掛けていた夫人は何か思案していた様で少し疲れた顔をしている。昨晩も遅かったのだ、それだけでもお疲れだろう。
「失礼いたします、奥様。今日はご報告とお願いがあってまいりました。」
「いらっしゃい、ルディ。とりあえず掛けてちょうだい。それで?オブリーに簡単な説明は受けたのだけど本当なの、あの子の髪が・・・」
「はい。昨晩の事でした、月の光を浴びて見事な銀髪に変化しています。」
「そう・・・。それで、司祭様にお別れをさせたいと聞いたけれど外に連れ出して大丈夫なのかしら?」
「断言は出来ません。しかし、少し前からセシリアの髪が銀色がかって見えてきた時からいつかこうなる日に備えてあの子の為に魔具を用意しています。銀は魔を寄せ付けません、邪な思いを抱いてあの子に近付くのはなかなか難しいと思います。ですが、僕もこの仮説にハッキリとした確証は持てません。ですので、明日の告別式の前に今夜にでもひっそりと人目を避けてせめて一目でも会わせてやりたいのです。どうでしょうか?もちろん僕も側に付いています。お許しいただけないでしょうか?」
公爵夫人は暫く考え込んでいたがやがて、離れへ渡ると言った。
「私はまだあなた方の話でセシリアの変化を聞いているだけです。この目で見て確かめたいと思います。エミリー、アーウィンを呼んで頂戴。いまから離れにまいります。」
すぐに現れたアーウィンと三人で離れへと向かう。エミリーが先触れでセシリアを見に行く事を伝えてある。いつもの様に本邸と離れの境の警備兵に礼をし何故か少し緊張して帰るとフェンリルがそうしてくれたのだろう。三つ編みを解いて微かにうねる銀の髪。やはり少し緊張した面持ちでセシリアは公爵夫人を出迎えた。
「奥様、私の為にこちらまで足を運んでいただきありがとうございます。」
「これは・・・なんとまぁ、まぁなんて見事な・・・。」
「ほ、すっかりお嬢さんになって・・・」
奥様は見事な銀髪に魅入り、アーウィンは久しぶりにみるセシルの成長に感慨深げだった。普段あまり使うことのない客間に案内し、先ほどの話をセシルにも説明する。
「ここまで混じり気のなり銀の髪なら大丈夫でしょう。ルディ、案内はオブリーに頼みます。あなたは、この子の側を離れないで。それからフェンリル、この後私と本邸にきて頂戴。この年齢の葬儀用の礼装は流石にないけれど、アナスタシアの子ども時代の物の中に代用できる物があると思うから。なければ用意しなければいけないし、あればサイズを合わせなくては。セシル、この度の司祭様の事、お悔やみを述べますわ。あなたを5年間大切に育てた方ですもの、今宵は最期のお別れをゆっくりとしていらっしゃい。では、フェンリルをお借りしますよ。」
不謹慎だが、ルディには何故か服の話辺りが楽しげに見えたけれど忘れようと思った。しかし、彼にも礼服の準備がいる。
「オブリーさん、僕の服装は学校の礼服でいいでしょうか?」
「・・・ガウス様にはフェンリルが先程新しく礼服を用意しておりましたので、時間になればお部屋で着替えていただくだけでよろしいかと・・・黒ともうしましても学校のモノではといいまして。」
「あ・・・そ、そうですね。では、それを着用して行きます。」
それから本邸から戻ったフェンリルがセシルに黒のドレスを試着させサイズ直しや帽子とベールを構え終わる頃にはすっかり日が暮れていた。