花開くその側で1
オブリーとフェンリルは今日、公爵夫人のお供でミルフォイ司祭のお見舞いに行っていた。何でも、体調が思わしくなく孤児院を閉めるのでその後の処理を公爵夫人にお願いしたいとの申し出があったらしい。彼は自分のいなくなった後、孤児院の子ども達が路頭に迷わぬよう全ての子どもに新しい行き先を用意していた。新しい預け先や養い親などに預けるには役所に提出する書類等も必要になるその手続きをオブリーが、またセシリアの事を気にかけていたため、面倒見ているという点でフェンリルが共に司祭を訪れる事となったらしい。
「実際のところ、子ども達の新しい預け先に関する書類等は殆ど完璧で後は役所に提出すればいいところまでできあがっていました。養い先が変わればそれまでのミルフォイを名乗っていた子ども達は新しい苗字に変わるのですがその新しい預け先もすべて決まり、先方の書類も届いていました。私ができる事といえば、新しい預け先に間違いなく子どもが渡されるのを見届けるだけですね。」
階段を降りて来る足音に二人で顔を上げた。暗い表情で降りて来たフェンリルはお茶の支度をするから居間で話すようにと言い残し食堂へと消えた。目の前に差し出されたお茶の香りが暗いムードを幾分か和らげた。
「私はセシリアのお世話をしているという事でお会いしたいとお呼び出しをされました。ミルフォイ司祭様にはセシリアがこちらに来てからの様子をお話して差し上げましたら喜ばれておりました。ガウス様にも大層感謝されて安心出来たのでよろしくお伝えくださいと言われました。」
「・・・あの、セシルの様子は?」
「ええ、とても悲しんでいますが気丈に振舞っていました。ですが、今後ミルフォイの名が名乗れないと言う事を聞くとがっくりとして。他の子は新しい孤児院や養い親の名を頂けますがセシリアはどうなるのでしょう・・・。司祭様はその事については心配いらないと仰っていましたが・・・。それよりも、不思議ですわね。私達が何処へ何をしに出掛けたのか知らないあの子が丁度、司祭様がお亡くなりになられた時間にそれを感じたなんて。」
「あの時、何だか様子がおかしかったんです。それでとにかく早く離れに入ろうとして・・・告別式は明後日ですよね。」
「はい。」
「今夜は確かに満月でしたし、あの時間帯は何か起きても不思議ではない魔の力が増す時間帯でした。でも、あの髪色が変化したのは魔の力というよりなにかそれまであの子を覆っていたものが解き放たれたように感じたんです。セシルの変化と司祭様の死は何か関係があるのかな・・・」
「「・・・」」
居間の窓からは真っ暗な夜空にぽっかりと満月が輝いていた。