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ちいさな僕のお姫様  作者: にしのかなで
三章
16/30

蕾が開くその前に5

セシリアは自室に運び込まれ、ルディの養母とフェンリルに介抱される事になった。時折降りてくるフェンリルが、不安気な顔をして意識の回復を待つルディに様子をその都度教えてくれる。


「とにかく心配はないと言う事ですわ。それよりも、公爵夫妻に事の次第をガウス様から説明に行かれないと。大まかなことはオーブリーさんから説明をしているとは思いますが・・・」


養母に頼まれたであろう荷物を棚に置き廊下に座り込んでいる僕と同じ目線になるようしゃがみ僕の両肩に手を乗せた。


「しっかりしてください。貴方は若くてもこの離れの主ですよ。私たちのご主人様です。」


俯いていた顔を上げると、いつものような優しい微笑みをしていた。そうだ、自分の失態ばかり悔やんでいても仕方がない。この離れの主としてのできることをしなければ。ヨロヨロと立ち上がると本邸へと向かった。

アーウィン執事に公爵夫妻への面会を申し込むとすぐに客間へと通してくれた。


「シュヴァリエ公爵夫妻に今回の騒動のお詫びをまず申し上げます。研究棟はご夫妻のお許しを頂いてご説明した通りに建築に成功いたしました・・・。しかし、その際私の魔力の安定を図るため協力を頼んだ侍女見習いのセシリア・ミルフォイに精神・体力共に負担を与え現在、私の養母であるツェツィーリア・ガウス魔術師が介抱を行っております。伝え聞いた容体は呼吸も安定し、発熱も無くまだ目覚めてはいませんがあとは体力の回復を待ち精神面への影響を観察する必要があるということです。ですので、しばらくガウス魔術技師長共々離れに宿泊することを許可願います。今回は結果としては成功ですが、未熟者の私が大きな魔法を敷地内で使うということで公爵ご夫妻はじめ本邸の使用人の方々にまで不安な思いをさせてしまった事を深く反省しております。どのような処罰も受ける覚悟ですので処遇が決まりましたらお知らせください。」


客間には養父もいた。三人の権威ある大人たちが僕を見つめている。最初に口を開いたのは夫人だった。


「シュヴァリエ公爵家屋敷預かりであるロドリゲス・ガウス魔法技術見習い師であり、離れの主である貴方にお聞きします。セシリアは健康面では心配は無いのですね?」


「はい。しかし、精神への影響はまだはっきりとはしません。」


「わかりました。公爵様?貴方からはなにかありますか?」


「いや。私はこの館の主人ではあるが管理は君に任せてある、ロドリゲス・ガウスの処遇も君に任せよう。ただ、今回の研究棟建築は私達が許可を出した。幸いセシリア嬢の他には被害が全くでていない。その点は私はルディ、君を評価するよ。」


「魔法技術長様、貴方からは上司としてまた養父として何かありますか?」


「養父としては公爵の愚息への評価に感謝いたします。上司としてはやはりセシリア嬢への影響を考えますと暫く離れでの謹慎と魔力の安定を図るためより一層の努力をしてもらわねば・・・。」


「わかりました。ロドリゲス・ガウス、貴方にはこれからひと月の謹慎を申しつけます。その間、研究棟内に魔法を使わず一人で荷物を運び込みなさい。それから、セシリアが目覚めるまで傍を離れてはなりません。最後に、研究はしてもよろしいですがそれを実証するための魔法をこの敷地内で使う事を三ヶ月の間禁じます。よろしいですか?」


「はい、承知いたしました。」


「では、セシリアの元へ。ガウス夫人がどんなに反対しても傍を離れないように。後ほどこちらからお見舞いと共にガウス夫人には説明にまいりますから。あ、それからオブリーとフェンリルも流石に疲れているでしょう。宿泊は本邸の客間を使っていただきますから、その事をオブリーに伝えてください。」


「わかりました、ご配慮感謝いたします。では、失礼いたします。」


その頃、セシリアは意識を取り戻していた。


「あれ?」


見慣れた天井、自分の部屋だとはすぐにわかった。ただ、なぜここにいるのか?研究棟は成功だとルディ様が言っていた、それから・・・


「おや?意識が戻ったね。」


声の方をみると黒髪を結い上げた知らない女性が腰掛けて覗きこんでいる。


「あのぉ・・・どなたですか?私はどうしたのでしょう?」


ふふっと目を細めて笑いザッと説明をしてくれた。


「私はツェツィーリア・ガウス夫人、ルディの養母だよ。国家魔法癒術技師で普段は薬草の研究なんかしている。お嬢さん、あなたの自己紹介をしてもらえる?」


「セシリア・ミルフォイ、8歳です。まだこの離れの侍女見習いですがニーム・ロドリゲス・ガウス様の専属侍女になります。」


「今日起きた事を話せる?」


「離れの敷地内にルディ様の研究棟を建てるお手伝いをいたしました。魔法は成功してお庭には研究棟が建っています。」


「ふーん、お手伝いってどんなこと?」


「私は魔力持ちでは無いのですが何かの力があるそうで、ルディ様にだけその力は分けて差し上げることが出来ます。今日は大きな魔法を使うとおっしゃったので私も力を目一杯引き出せるようにと、それから混じり気のある服装だと魔法にズレができる事があるのでできれば白一色の服に着替えるよう言われました。それで、ルディ様が資材をお庭に魔法で移動させたあと、あの・・前にも使った事のある魔具を二人とも身につけて二人で力の流れを確かめ合いました。それからお庭に出てルディ様が呪文を唱えている間私は少しでもお役に立てればと自分の力をルディ様に流れるように・・・」


「どうした?」


目の前の少女が起き上がり、某然とした顔で呟く。


「わ、わた、し・・・」


翠の瞳からは大粒の涙が次々とこぼれ落ちる。


「奥様、私失敗しました!良かれと思って使った力のせいであの後倒れたのですね⁈だから癒術技師の奥様がわざわざここまで・・・どうしよう・・・あんなに取り乱したルディ様見たことないっ、私のために泣いて心配してらした・・・っ。私、私お詫びをしなければっっ‼」


そう言うと布団を剥ぎ部屋を出ようとする。


「お待ちよ、セシリア。」


「ダメです!私のご主人様にあんな心配をかけて、お詫びに行かせてくださいっ」


「だーめだってば、ルディならもう時期くるよ。それにあんたは力の使いすぎでフラフラじゃないか。」


確かにそうだ、口は達者に動くけど身体は今ひとついう事をきかない。


「さぁ、ベッドに戻って。そう、いい子だ。泣かなくてもいいよ、あの子にはいいクスリになったさ。」


ツェツィーリアが宥めているとノックがされた。


「養母さん、入ってもよろしいでしょうか?」


「ほらね。あぁいいよ、お入り。」


「看病ありがとうございます、どうですかその後。」


「見ての通りだよ。」


ベッドに近づいたルディと泣き腫らした瞳が合わさった。


「セシリア・・・どうしたの、大丈夫⁈」


「はいはい、説明するよ。体力はまだ弱ってるけど精神ともにしっかりしていて問題なし!美味しいモノを食べたらすぐ回復するさ。あと、その瞳は私のせいじゃないよ。あんたのせいっ。折角成功した魔法の後で倒れて心配かけたのが申し訳ないってさ。」


「そんな・・・あれは僕が無理させたんだよ。だから泣かなくていいから、ね?」


「でも、ルディ様があんなに、あんなに泣いておられましたぁ〜」


そう言うとまた盛大に泣き始める。


「え、ええぇっ///ちょっ、それ誰から」


声にならないのか手を差し出す。


「あああぁ〜っっ‼ちょっ、なにまたこれから伝わったの⁈」


取り乱した自分を思い返すと、とても恥ずかしい。しかも、セシリアに伝わってたなんて///真っ赤な顔をして耳に手をやる。ある、当たり前だが外す余裕も付けていた事実も忘れていた・・・今度は青い顔をして耳飾りを外す。


「あの、セシル?悪いんだけど・・その・・・指輪外してくれる?」


も、色々と恥ずかしくて養母の前で女の子から指輪を外すなんてできないよ///

赤くなって指輪を直視できずにいると横からヒョイと養母さんがセシリアの手を取り念入りに指輪を検証する。


「ふーん、どれどれ。ま〜どんだけ手が混んでるの。あ、ちょっとそれ貸して耳飾り。ん〜、こっちはやけにシンプルイズベスト。だけど、へぇ〜。こりゃ筒抜けだわね。どんだけこの子が大事にされてるかわかったよ。うん、じゃあ私本邸の御夫妻にお話をしてくるわ。」


ヒラリと手を降り席を外そうと立ち上がる。な、なに言ってくれちゃってんの?どーいう意味だよ⁉︎と、内心穏やかでないルディに対し、


「そりゃ、そういう意味さ。」


心ん中読むなーっっっ‼


「じゃ、後は若いお二人で。あっはっはっは。」


出て行ったドアに思わず靴を脱いで投げつける。


ガチャッ


げ‼


「まだ子供なんだから変な事すんじゃないよ。」


だーかーらー、そういうんじゃないからっっ。


「⁈」


セシルが泣き止んだ瞳をパチクリさせ、訳がわからないと小首を傾げている。


「あ、フェンリルさんに食事頼んでくるからね。食べれそうかな?」


「はい、お願いします。」


ドアを開けて階段を力無く降りて行き食事を頼むルディの様子に訝しげな顔をした使用人2人は、それでもセシリアが心身共に異常なく意識が戻った事に安堵した表情を見せた。


「お二人とも今日は本当にすみませんでした。僕の養父母は本邸の客間に泊めて頂けるそうですので、セシルの食事の用意が出来たら後は休んでください。僕はもう少しセシリアの側に付いています。」


「いえでも、ガウス様が一番お疲れでは・・・?」


「僕のしでかした事です、子どもとはいえ女の子の部屋に長居するのはあまり褒められた事ではないですけど。お願いします、そうさせてください。」


そう言って二人に深々と頭を下げた。


「ガウス様!どうぞ頭をお上げください。セシリアさんが何事もなかったのは喜ばしい事です。私共もホッとしました。ただ、貴方様の事も心配しております。今宵はお言葉に甘えて先に休ませていただきますが、ガウス様もご無理なさらぬように。」


「はい、ありがとうございます。」


「丁度、食事の支度も出来ましたわ。今、スープを注ぎますね。それから、本当は寝る前にはいけませんけど・・・」


食器棚から缶を取り出し小皿に焼き菓子を幾つかのせる。


「とても疲れたでしょうからね、特別ですよと仰ってください。ガウス様にはココアをいれておきますね。」


「ありがとうございます、セシルも喜ぶでしょう。じゃあ、これは僕が運びますからお二人ともゆっくり休んでください。」


「お休みなさいませ、ガウス様。」


「オブリーさん、ちゃんと休んでくださいね。私はセシルの顔を見てから休ませていただきます、お休みなさいませ。」


フェンリルがセシルの部屋のドアを開けてくれた。先に中に入りベッドサイドのテーブルにトレイを置く。フェンリルは涙目になりながらセシルを抱きしめていた。二人きりになり、セシルはお腹が空いていたのだろうペロリと平らげるとワクワクした顔で


「あの、ルディ様?その小皿は・・・」


思わず笑ってしまう。


「どうぞ。フェンリルさんが今日だけ特別だってさ。」


「うわぁ〜!本当にいいんですか?ホントに⁈では、いただきまーす。ん〜甘〜い、おいしい〜。ルディ様もお疲れでしょう?一緒にいただきましょう。」


「じゃあ、いただこうかな。うん、美味しいねこれ。」


「でしょう?私が二番目に好きなお菓子ですぅ。ホントは一番だったのですが、オーランド殿下に戴いた焼き菓子には流石に負けてしまいます。」


よかった、本当によかった。

こうして目の前で笑っているセシルが見られる事がどんなに大事な事か。

本当によかった。

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