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ちいさな僕のお姫様  作者: にしのかなで
三章
15/30

蕾が開くその前に4

「ガウス様、資材の準備が出来ました。」


「はい、大きい音がすると思います。あと、念のため本邸の方は全て室内に入るようお願いします。」


いつに無い僕の緊迫した気配に誰もが不安そうにしている。本邸の玄関を出ると門の内側に前以て描いてあった魔法陣の中に資材が積まれていた。杖を出し陣に乱れがないか確かめる。誰かが踏んづけて引きずったりしていたらやり直しだ。意識を集中させる、よし乱れは無い。ローブを頭から被り口元を隠す。杖を操り移動魔法を詠唱する。ボンッと大きな音が一つして目の前から資材が消えた。そのまま本邸を突っ切り離れに走る。自信はある、だけどもし・・・


「セシリアッッ‼大丈夫⁉」


駆け込んだ先には白いワンピースを着たセシリアがいた。


「すごいですぅ〜、ホントに資材が来ましたよ〜、不思議〜。」


呑気に笑ってるセシリアがすごい余裕で羨ましい。セシリアの言う通り、あらかじめ用意しておいたこちらの魔法陣に資材は収まっている。養父が見たらこれだけで奇跡だと泣き出しそうだ。


「じゃあ、準備はいい?」


「はい!バッチリです。」


セシリアにはあらかじめ設計図を記憶してもらった。それから更に出来上がりのイメージを例の指輪と耳飾りを使いあの日と同じように額を合わせて流し込む。今回は大仕事だから時間をかけてそれこそ呼吸まで重ね合わさるように同調する。

「ルディ様、大丈夫です。」


静かにセシリアが囁いた。


「行こう。」


手を繋いで庭に出る。

あまりに大きな建造物で魔法陣も何も無い。ただ、建設予定地に僕の描いた設計図が魔法石に囲まれ置いてあるだけ。

先ほどの移動魔法と同じ様に正式な魔法術に乗っ取り詠唱する。杖は使わない、セシリアから力が流れてくるのがわかるから。詠唱を唱え終えるとまたさっきよりも大きな音がして資材が一度に動き始める、二人は黙ってそれを見ていた。言葉を発する事が禁じられているかの様に。結局、三度地鳴りを響かせ「それ」は予定地に建造された。

最後に杖を操り不備がないか確かめる、嘘みたい。完璧だ・・・。


「出来たよセシル!君のお陰だ・・、セシル?セシリア⁉」


ルディの出来たと言う言葉にふわりと笑って


「おめでとうございます」


と小さく聞こえたあとガックリと膝をつき倒れこんだ。


「セシルッ‼セシーッッ‼ 誰か、フェンリール!オブリーッ早く来てっ」


ルディの悲鳴の様な声は本邸まで届きすぐに駆けつけた二人に繋いだ手が引き離される。


「駄目だ、駄目だよ!離さないで離さないで‼」


この時彼はとんでもない過ちを犯したとしか考えられなかった。そして、青い顔のセシリアの手を離したらもうあの子の笑顔が見られなくなりそうで魔力より命の綱が切れそうで怖くて怖くて泣きながら叫んだ。


「落ち着けルディ!落ち着いて、私を見ろ!あの子じゃない、私だっ!」


「・・・養・・父さ、ん・・?」


「そうだ、お前の養父だ。わかるな?よし、息を整えて、そう大きく吸って・・吐いて・・・。落ち着けるか?大丈夫だな?」


「ど・・して、ここに?」


「公爵邸から強い力を感じた。それから、魔法は上手くいくとも。しかし、セシリア嬢に何か起きるかもしれないからどうしても行くとアレが言い張ってな。」


クイと親指で示した場所には懐かしい女性がいた。


「養母さん・・・」


「アレに任せておけば大丈夫だ。さ、立て。酷い顔をしているぞ。」


ガクガクと膝が笑うのを養父にすがりようやく立ち上がり、恐る恐る大人たちの輪の中にいるはずの僕の小さな姫君を探す。青かった顔色は白くなっていた。


「養母さん、養母さん!助かる?助かるよね?助かるって言って‼」


いつもより子どもらしい話し方に皆が顔を上げる。


「やかましいっっ‼」


ペシンッ!音と共に額に・・・激痛が・・・


「いっ・・・」


「ほぉ、痛みがわかるか。ならお前は大丈夫だな。」


紅い唇をニッと上げて養母が言う。


「僕はどうでもいいんだよ、セシルは?どうなの、大丈夫だよねっ⁉」


「この、馬鹿息子っ!全くちっとも変わってないじゃないか。いいかい、女の子には優しい扱いをする様言っただろう。大体治療中だ、邪魔なんだよあっち行ってなさい。」


頭から怒鳴られている姿がいたたまれなかったのかオブリーにその場からそっと引き離される。庭では養父がヒーヒーと笑い転げその姿にムッとしながらも、あぁ、国一番の治癒術師が来たんだ・・・心配ないセシリアは目を覚ますと確信した。それにしてもこの笑い方はイラッとくる。この真剣な場で笑うか普通?

ルディの視線に気づいたのか、何とか笑いを収め研究棟を見学したいと言う。

外から中から一通り見て回ると僕のいい加減くしゃくしゃな頭を撫で回し満面の笑みで僕を見下ろす。


「よくやった。セシリア嬢は仕方ないとして、人的物的被害が一つも無い。上出来だ、息子よ。」


すごく嬉しそうだ。本当に喜んでいる。何度破壊を繰り返し、この人を泣かせてきただろう。僕のためにこんなに喜んでくれる。


「ありがとう、養父さん。」


そう言うと二カッと笑ってまたくしゃくしゃにされ抱きしめられた。


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