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ちいさな僕のお姫様  作者: にしのかなで
三章
14/30

蕾が開くその前に3(改)

成年の儀から暫く経ち初春が訪れて来た。

卒業資格は得たものの、結局ルディは卒業せず学生のまま過ごしている。一度魔法省に呼び出され身の振り方を問われたが毎日魔具の研究に追われ正直あまりよく覚えていない。

確かなのは卒業するとその先は国家魔法魔術技師を取り大抵が魔法省の管轄する施設に就職するか、大貴族などに雇われ屋敷預りの身分になるか、その他庶民の出の者は市井で人の役に立つ魔法を使った仕事をしたりとにかく待っているのは就職だ。それはまずい。ルディにはまだやらなきゃいけない事があっていずれは国の為に働くとしてもまだ正式な卒業年齢まで2年もある。


ーこの2年は僕にとってとても貴重な時間なんです!ー


と、いう風な内容を偉いお役人の方々の前で力説してしまったような気がする・・・。覚えているのは魔法技師長の養父が両手で頭を抱えていた姿だ。兎にも角にも彼は学生の身分を守り抜き、尚且つ卒業までは離れで研究に没頭する権利を得た。

離れの庭には養父からの資金で研究施設らしきものが作られ、これまた魔法省から古くなったからと研究書まで寄贈され学校からは新しく入れ替えたからとフラスコだの大鍋だの様々な種類の道具が送られてきた。本当はみんなルディが離れに篭る事に安堵している。これが、魔法省の研究施設で何かやらかしたらとビクビクしてるのだ。

何だか複雑だがルディの能力は国をあげて高い期待を持たれているが、それを操る彼自身は国家魔法A級危険人物扱いだ。ところで、研究棟を建てるときに公爵夫妻にもちろん相談をしたのだが庭をお二人が覗きに来た時にかなり荒れている事について庭師を置くかどうかと議論を始めた。そういえばこの庭はキチンと管理されていたなと思い出す。どうやら、セシリアを住まわせてから離れの管理が厳重になりうっかり庭園と呼ばれるに相応しかったほどのこちらの管理を忘れていたらしい。成る程、以前セシリアと訪れた東屋の柱には蔦が絡まり草が生い茂っている。普段フェンリルが洗濯を干したりしているあたりまではルディ以外の三人が手入れしてくれているのだろう。


「困ったわね、セシルがいるから迂闊に人を入れられないし。かといって、建物を建てるなら大工が何日か入るわけだし。」


「その間、セシルは隠れていてもらうか・・・」


「あら。年頃の子を何日も部屋に閉じ込めるんですの?ルディの研究棟なら造りは頑丈でないと、それなら何日かかるかわかりませんわよ。」


そんな議論でお忙しい宰相閣下の貴重な休日と奥様とのひと時を割いてしまうのは申し訳がない。


「あのぉ。」


振り向いた夫妻にとってそれはやはり引きつった表情をさせるに値する提案だったと思う。でも、これしかないと思うから思い切って言わせてもらった。


「僕が建てます。もちろん魔法で。」


あの時の二人の青ざめた顔は忘れられない、思い出すと泣きたくなってくる。

側にいつも控えているオブリーまで空気が一瞬凍り付いた。その後すぐさま公爵夫妻を本邸までオブリーが送り届けフェンリルは貴重品やお皿など割れないよう片付け始めた。各々の正直な行動に軽く目眩がした。


溜息をつきながら自室に上がり自分で描いた設計図とチョークを持って降りる。

何事かと目を丸くして固まっているセシルを手招きしてちようど帰ってきたオブリーと片付けに没頭しているフェンリルに声を掛ける。


「えーと、オブリーさんフェンリルさん。僕は今からちょっとやった事のない魔法を使います。でも、これは前以て研究をしてますし小さな実験なら何度か・・・ちゃんと成功していますので多分大丈夫です。ほら、この前セシルに人形の家をプレゼントしたでしょう?あれも魔法で作りました。」


二人が出窓に置かれたそれを見る。


「で、お願いがあるんですけど。魔法と言っても何も無い所からモノを作り出す事なんてできません。今回は特に造るモノが大きいので材料を調達して欲しいんです。この敷地は結界があるので普通の人は入れないので公爵夫妻にお願いして本邸の邪魔にならない所まで運んで置かせてもらえればそこから僕が移動魔法でこの敷地に運びます。お二人は材料を調達するのと申し訳ないですが公爵夫妻にこの事を説明し許可を頂いてもらえますか?お許しが出たらあとは本邸でお待ちください。あと、お二人に動いていただいている間セシリアをお借りします。」


「ガウス様・・・それはもしかして・・・」


「はい、かなりの力を使う魔法技術ですのでどうしても僕にはセシリアが必要なんです。」


フェンリルは今にも倒れそうだった。


「と、いうわけなんだけどいいかな?セシリア。」


大人たちが青ざめるような話を聞きながら僕とフェンリル達をキョロキョロと首を降りながら見ていたセシルはにっこり笑って言った。


「私でお役に立つのなら何なりとお使いくださいませ、ご主人さま。ルディ様は、私の魔法使いさんです。何の心配もありません。」


初めてわざわざ「ご主人様」と言った。

大人たちが未熟な魔法使いのやろうてしている事に青ざめるような場面で。

そして、その言葉は言霊となりオブリー達を冷静にさせた。

二人の使用人が準備に取りかかってから僕はセシルになるだけ白い服装に着替えてくるよう伝え、自分も正式な魔法技術師の服装に着替えた。

本当はルディも不安だった、下手したら離れを壊すかもしれない。実際今までこの場所以外では作り出すより壊す事が多かった。


ーご主人様ー


初めてセシリアにそう呼ばれて驚いた。それから彼女は


「私の魔法使いさんです」


とも言った、言い切った。淀みない微笑と真っ直ぐな瞳で僕を一点の曇りも無く信頼している。セシリアの言葉でルディ自身までが落ち着いた。あれで8歳なんだから、彼の方がしっかりしないといけないのにまるで彼女に守られているようだ。


自室を出る前に両手で頬を叩く。

しっかりしろニーム・ロドリゲス。今まで学んだ事をしっかりと手順を踏んでやればできる。この先、セシルにあんな事は言わせない。あの子は自分が護るんだ。


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