蕾が開くその前に(改)
成年の儀は何とか無事に終えた。本邸に着くと目が覚めてまず執事に報告をする。公爵夫妻は三男のお披露目にまだ王宮に残っている事、アナスタシアは王宮泊りになる事を伝えそれから足早に離れに向かう。馬車の中ではグッスリと眠ったから、セシルの体力も心配だ。離れに戻るとフェンリルとオブリーが迎えてくれた。セシルはどうやら自室で眠っているらしい。ちょうどルディが王宮を出る頃にそれまで居間で過ごしていたが、糸が切れたようにソファに突っ伏して眠り始めたそうだ。やはり、早めに帰ってよかったとホッとする。フェンリルに頼んで一緒にセシルの部屋に入ってもらう、寝息を立てて眠るセシルの髪を撫で心の中で「有難う。」と言ってからそっと指輪を外す。それから自分の耳飾りも外して今日が無事終わった事に感謝する。フェンリルとそっと部屋を出て扉をゆっくり閉めると途端に疲れが出てきた。湯浴みの用意をしてくれているというので今日一日の疲れを取る。
明日からまた、魔具の研究と実証を重ねてセシルが社交デビューできる迄にはこの離れから自由に外へと出られるようにしてあげたいな、などと考えながら夜着に着替えるとベッドに飛び込んだ。まさか耳飾りでアナスタシアにあんな風に勘繰られるとは思わなかったから次からはなるべく目立たないモノにしよう。今頃、王女殿下達と笑いの種にしている事だろう。そうつらつら考えているうちに僕は意識を手放した。翌朝、朝食に降りて行くと食堂ではセシルがもう働いていた。
「おはよう、セシリア。昨晩はありがとう、お陰で無事帰れたよ。疲れてないかい?」
「おはようございます、ルディ様。疲れるよりも楽しかったです、ふふ。」
「え?」
「おはようございます、ガウス様。一体どんな仕掛けだったのです?セシルが指輪を通して夜会の様子が伝わってくると言っていました。ご無事に帰り支度に入られたと聞いて安心しましたけど・・・」
少し戸惑い気味のフェンリルが質問してきた。やはり、試作品。思わぬ力を発揮したらしい。
「アナスタシア様はとても素敵な方ですね。足を踏みつけられたのにはびっくりしましたけど。」
「え⁈あれ、君にも感じたの?」
しまったといった顔で俯き加減で頷いた。
「あ・・の、お話までは聞こえなかったのですがルディ様のお近くにいらっしゃった方はなんとなくイメージが伝わって来ました。アナスタシア様とお話中慌てられてるところとか、ダンスは私も踊っているようで楽しかったです!」
うーん、こっちは緊張と詰問責めで自分にしか注意がいかなかったけど指輪からはこちらの様子までセシリアに伝わってたのか。しかも、あのヒール攻撃まで・・・やはり、改良せねば。つらつら考えていると呑気な声がした。
「おっはよー。ルディ、お前帰るの早すぎっ!話もできなかったじゃないか、姉上が何か言ったんだろう。」
「おはよ、ってか朝食前なんだけど。」
「先程、こちらで召し上がられると先触れがございましたから大丈夫ですよ。」
「え〜、こんなうるさいのと朝から一緒⁈」
「何だと、お前。俺はな、今朝はセシリアにお土産を届けに来たんだぞ。おはよう、セシル。今日も可愛い妹よ、お兄ちゃんが夜会のお土産を持って来たよ。」
「おはようございます、ウィレム様。何ですか?お土産?」
小首をかしげて子どもらしく瞳はキラキラしている。
「えっとな、これはオーランド様から焼き菓子。それからこっちはミンナ姫からの贈り物で、あとこれはうちの姉上から。」
「わあぁ、いいんですか?私なんかがいただいて⁈」
「うん、遠慮なくどうぞってお三方から預かってきた。何でも、えーと陰の功労者だから労いだってさ。」
セシルはまずフェンリルを見た。
「よかったわね、セシル。遠慮なく頂いていいのよ、お姫様二人からプレゼントをいただけるなんて都中探してもそうそういないわよ。でも、後で私にも見せてね。」
「はい!では、ありがたく頂戴いたします。ありがとうございますウィレム様。お二人に私からのお礼を伝えていただけますか?」
「勿論さ。よかったな、セシル。」
大事そうに抱えた贈り物を後で皆に見せるつもりだろう居間のテーブルに置きに行った。僕の隣に当然の顔をして座ったウィレムが僕の足を思い切り蹴飛ばしてきた。
「いっ・・・た。なにすんのさっ」
「それはこっちのセリフだ。お前、昨日はセシルに無理させたんじゃないか⁉姉上から聞いたぞ耳飾りに指輪の件。何だお前ら、婚約でもしてんのかっ」
今朝は坊っちゃまの機嫌が悪いらしい。
「シア様に聞いたんなら、わかってるだろ?あぁでもしないと安心して外にも出られないんだよ。まったく、姉弟揃って足癖が悪い。」
「姉上なんかしたのか?」
僕は昨晩の話をして聞かせた。しかし、自称セシリアの兄代わりは、姉姫より機嫌が悪かった。それはお前が悪いだの、考えが足りん、魔具について精進しろなど言われ放題だ。そのうち、朝食が並べられると機嫌良くやっぱりフェンリルの作るものは美味しいとか、毎日ここで食べるかいや、住むかなど勝手な事をいい放題で朝食は賑やかに終わった。