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さよなら日常、こんにちわ非日常①

「ふぁぁああ~~~」


『ジリジリジーーーー』


部屋の主の起床後に仕事を始める目覚まし時計。


「うっせ」


寝惚けた頭で目覚ましを止めに掛かる。


目覚めは最悪だった。


元よりこの部屋の主たる少年――上代(かみよ) 将紀(まさき)――は寝覚めが最高に悪い。


いかに天気が良好であろうとそれは覆らないこと。


「かったるい」


頭をポリポリと掻きながら将紀はベッドから降りる。


今日は1週間の始まりたる月曜日。


少年は手早く学校指定の制服――学ラン――に着替えを済ませると自分の部屋を出て、家族の集まる階下のリビングへと足を進ませる。


「おはよう。お兄ちゃぁ~ん」


真っ先に少年を出迎えたのは彼の妹『上代かみよ はるか』である。


肩まで掛かるショートの茶髪で、髪の毛が一本触角のように目立つ。


そして彼女もまた学生なのでセーラー服を着ている。


そう、セーラー服を着ているはずなのだが……


「悠よ、兄として確認しておきたい。それはセーラー服だよな?」


「うん。そうだよ~」


なんとも間延びした返答。


将紀はペースを崩されそうになるも、そこは何年も同じ屋根の下で暮らした間柄。


気をしっかり保つ。


「ならば問いたい。なんでセーラー服の背中に羽が取り付けられているんだ?」


妹の困った点。


妹のファッションセンスの奇抜さだ。

別に誰がどのような服を着ていようが一向に構わない。


だが、ここに至っては気にできないレベルをもはや超えている。


まず、セーラー服なのは当たり前だ。


しかし問題はその背中の部位。


天使よろしく可愛らしい羽が備え付けられている……という訳では決してない。


学校の制服を改造しているという点だけを見れば普通は許されざる行為だが、その前にそれ以外にもツッコミ所が満載すぎる。


彼女のセーラー服に備え付けられている羽、それは所謂悪魔をイメージしたものであった。


「どう?」


「言える事はただ1つだけだ。外しなさい」


「え~っ!? せっかく作ったのに~」


とブーたれる悠。


更に足下に置いていたのだろう悪魔が持っていそうなイメージの大きめのフォーク。


むしろ、悠の身の丈を超えてしまっている。


「んなもん作ってんな!!」


将紀の怒声が響く。


結局は悠を説得するのに30分近く労したのであった。







「は、速いよ~。お兄ちゃぁ~ん!!」


「お前があんな余計な物付けるからこんだけ遅くなったんだろうが!!」


妹の手を引っ張って全力疾走する。


別に愛の逃避行という訳ではない。


さっきの会話から察っせるように、彼等は遅刻しそうになっているのだ。


現在時刻8時20分。


朝のHR開始8時30分。


ここから学校まで走って10分弱。


正直ギリギリだ。


「お兄ちゃん、後ろ!!」


「後ろ?」


この忙しい時になんだよ――と嘆息しながらも後ろを見る。


いかにも金持ちが乗っていると主張しているリムジンがあった。


それはこの道路には些か不自然過ぎる。


周りを通るのはトラックや軽自動車などの一般車なので、とても浮いている。


そのリムジンは将紀と悠と併走する。


中は見えないように窓は黒くなっている。


「精が出ますね将紀」


そのセリフと共に窓が下がっていく。


顔を出したのは長い金髪の女性。


同級生の『上之宮アリサ』だ。


「アリサも朝から随分とすげぇな」


「まあね」


上之宮家は世界でも屈指の財閥だ。


それは一般の私物から政府機関まで、ありとあらゆる所に精通している。


このアリサはその実の娘。


ゆくゆくは会社を継ぐらしい。


それには世間を知らねばならないと親から言われて、将紀の通う高校に来た。


「おはようございます。アリサ先輩」


「おはよう悠」


仲睦まじく、挨拶を交わす。


「ところで間に合うのかしら?」


ニコニコとアリサは意地悪く笑う。


現在8時25分。


タイムリミットはあと5分。


「何が言いたいんだよ?」


「簡単よ。乗って行きなさい」


「はい?」


何を言い出すか分からなかったが、突然リムジンの屋根が開いた。


そこから巨大なマジックハンドが出てきて、将紀と悠の体を掴む。


「「えっ!?」」


兄妹は未だに現状が理解できない。


「「えぇぇぇえええっ!?」」


理解した時にはそのままリムジンに乗せられていた。








「思うんだが、無駄に金を使っているんじゃないか?」


リムジン内部。


お互い向き合う形の座席に座るのは将紀、アリサ。


悠はと言うと内側からは見える仕様になっている窓で外の光景を眺めていた。


「そこは気にしない方が良いですわよ」


先程の物理法則を無視した巨大マジックハンドの件も含めて言いたい事があり過ぎてツッコミすら入れる気にもならない。


深く追求するのは止めておく。


「お嬢様、学校に着きましたぞ」


「ありがとう高橋さん」


リムジンの扉が開く。


運転手――高橋さん――が運転席から開けてくれたのだと分かった。


「ありがとうございました」


「ありがとう~」


将紀と悠も礼を述べてからリムジンを降りる。


目前には正門に『聖宝高校』と書かれたプレートがある。


その向こうに大きな建物がある。


ここが彼らの通う学校。


将紀とアリサは2年、悠は1年である。


「ありがとうなアリサ」


送ってくれた件の少女にも礼をしなくては示しがつかない。


「別に良いですわ。

 それよりも早く教室へ行きましょう」


「だな」


現在8時27分。


HR開始まであと3分なのだった。







朝のHRにギリギリ間に合った将紀。


今は教室で愚だっていた。


「今日はギリギリだったな」


「ん?」


将紀に声を掛けるのは彼の友人。


「おう、アオガミ」


「アオガミ言うな!!」


「だって髪が青いし」


「なんてベタなあだ名の付け方なんでしょうか」


「気にするな」


アオガミの肩を叩いて流す。


「あのな、俺の名前くらいちゃんと呼べよ」


「お前の名前なんだっけ?」


「おい!! 良いか、俺の名前はな……」


「おい、アオガミ。手を貸せや」


「えっ!?」


ガシッと肩を掴まれたのはアオガミ。


「あっ、ちょっとぉぉぉ~。ってか、名前で呼んでってばぁぁぁ~っ!!」


そのまま引き摺られていく。


結局彼が名前を呼ばれることはなかった。



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