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CREATURE  作者: 三月やよい
9/31

8.生まれない自覚

美樹にとって怒濤の一日が終了しました。


「ただいまぁ」

玄関を開けて帰宅を知らせる。

「おかえりなさい。ごはんどうする?」

と奥から母・奈々子の声がした。

ご飯・・食べてはいないがあまり食欲がなかったので

「うん。済ませてきちゃった」

と嘘を言った。

食事・・のことも何か言っていたなぁと京介の言葉を思い出す。

覚えていないわけではないがまるで何か物語を聞かされたような後味しか

まだ感じない。

不思議な男の人だった。

目が覚めたら血まみれで目の前に京介がいた。

気を失う前に何かあったような気がするがよく思い出せない。

講堂の横を歩いていて・・・大きな動物に咬まれて・・・・それから・・・

気が付いたら目の前に京介がいた。

そして「岡見京介、この大学の理工学部生物工学科の4年生」と

自己紹介されそして「吸血鬼だ」とも教えられ・・・

どこまでが本当なのだろう?

私は本当に死んでいるのだろうか?

彼の家で洗ったワンピースにはかなりの量の血液が付いていた。

あの量を自分ひとりで流したのならきっとこんなぴんぴんしていないだろう。

・・・しかも外傷が全く無い。

腕・・・腕はセイレーンのだと言っていた。

セイレーンって確かどこかの国の化け物よね?昔本で読んだ気がする・・・。

その腕が私について私は死んで・・・セイレーンも死んでる?

あの虎みたいな動物に何か叫んでいた綺麗な女の人がセイレーン?

考えれば考えるほど物語じみていて手の込んだいたずらのようだ。

「何玄関でしているの?」

姉・真樹に不審そうな声ではっと我に返る。

玄関でミュールを脱ぐつもりのままぼんやり考え事していたらしい。

「忘れ物でもしたの?」

小首をかしげるような仕草で真樹は尋ねる。

よく一緒に買い物したり洋服、アクセサリーを貸し借りしたり、

何でも相談できる大好きな姉だが・・今日のことは話せない・・。

「ううん。疲れていてぼーとしてた」

と苦し紛れに言ってみる。

「昼間は暑いから、あんまり無理しちゃだめよ」

冷蔵庫にミントティー冷えているから、と言い真樹は自室に戻っていった。

夢・・だったかもしれないし・・よくわからないや。

明日、また考えよう。

そう思い直し家に上がりミントティーをグラスに注ぐ。

「珍しく遅かったわね。京子ちゃんたちと一緒だったの?」

既に真樹から遅くなっていることを知らせてあったので母は何も不信がってはいない。

「え、うん。」

嘘をつくのがちょっと後ろめたく思い語尾が濁る。

「顔洗ってくるね。」

何となくこの場に居すらくなって

冷たいミントティーを飲み終えて洗面所に向かう。

いつも通りオイルクレンジングを手に取り指先でくるくると

円を描きながらマッサージする。

目を閉じると一日の疲れがどっとでてくる。

一日でいろいろな事があった。

岡見京介・・・ともう一度京介を思い浮かべる。

優しい青年、それが第一印象だった。

言動もそうだが、優しい瞳をしている。

てきぱきとはしているがトゲを感じさせない。

ぬるま湯でオイルを流し洗顔フォームを泡立て、残ったオイルを泡で

包むように洗い落とす。

「ふー・・・」

柔軟仕上げ剤の香りのするタオルで水気をふき取り鏡を見た。

「あれ?」

見慣れた自分の顔なのに何かが違う・・・大きく違うのではなく丁度、

「昨日今日とちがうかも」って程度の軽い違和感ではあるが・・・

「あー」

一人で納得して声をあげてしまう。感じた違和感の原因、それは眉だった。

整えるために少し切っていた眉が伸び放題になっていた。

髪が一生分伸びたのと同じ理由だろう。

さすがに髪と違って眉は伸びることが出来る長さが決まっているので

数メートルにはなっておらずちょっと伸びているくらいだった。

「や〜、面倒なのに・・」

と言いながら眉バサミで少しカットする。

面倒とは言ったがもともとが自然なアーチ型なのでそう手は加えない。

「これでよし」

と鏡でチェックしてみてまだ残る違和感を感じながら化粧水を

手にとりパッテイングする。

「肌・・・」

違和感の原因は肌だった。

もともとそんな日に焼けている方ではないが鏡に映る美樹の肌は

真っ白といえるほど白くキメが整っている。

(赤ちゃんの肌みたい)

右頬にあって気になっていた3個のそばかすも消えている。

完璧に手入れの行き届いた肌になっていた。

「これも死んだから?」

死んだらゾンビみたいになると思ったのに肌が綺麗になるなんて変なの・・・

ほのかに柑橘系な化粧水の香りを嗅ぐと段々と眠気が体の奥から染み出てくる。

湯船にゆっくりと浸かりたかったが今日は早めにベットに入りたい。

ホント一日にいろいろありすぎた。

「明日岡見さんにいろいろ聞こう・・」

歯を磨き部屋に行く。

オレンジを基調とした温かみのある部屋。

小物一つをとっても女の子らしくて可愛いが少し幼い部屋ともいえる。

服を脱ぎ明日クリーニングにだそうと椅子にかける。

クリーム色のパジャマに袖を通し聞く事を頭に中で整理しながら

ベットに入っているうちにいつの間にか深い眠りに落ちていった・・・。


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