エピローグ:美樹と京介
やっと終わりです。
戻ってきました。
ここならばいいかな?
そう選んでつないだ場所は奇しくも美樹をキメラへと「手術」した場所だった。
抱きかかえたままで起こすのは誤解されるかな?
そう考え京介は夜気の中、そっとお姫様を柔らかな芝生の上に横たえた。
もう一度彼女を観察した。
本人が言うとおりどこにも外傷はなさそうだった。
「細いけれど起伏が全くナイってわけじゃありませんよ。
綺麗な身体ですわ」
なんて余計なこれまた情報までくれた・・・。
「無理矢理起こすのも可哀想だよなぁ」
幸せそうな寝顔を見ると、もう季節柄さほど寒くもないし
このまま寝かせておいてもいいかなって気になり、
そのまま上体だけ起こし自分にもたれかけさせた。
(だって芝生とはいえ地面に寝かせるのはナンでしょ?)
静かだなぁ・・・・。
平日とは言え昼間でも寂しい場所なので夕方は人通りも全くなく
大学敷地内であることを忘れそうだった。
そよそよと風が美樹の柔らかい髪をたなびかせシャンプーの香りを運んできた。
(ナンか俺、竹来さんの寝顔見る機会がやたら多いなぁ・・・)
付き合っているワケでもない女性の無防備な状態を多く見るのも
なんか変な感じだなぁと肩にかかる美樹の重みと暖かさを感じた。
美樹さんがこの後しなちゃいけない事は・・
友達に電話して状況を把握して・・適度な時間に帰って・・・
まぁ大丈夫か。
警察沙汰にさえなってなければ俺が記憶操作してなんとかするかぁ・・
「連れて逃げちゃうかな」
それもロマンティック?いやいや。
彼女の同意がなければ犯罪だって。
そんなあほな考えをたしなめるかのように聞き慣れない携帯の着メロがなり始めた。
「あ・・・」
寝ぼけながらも携帯に反応できるのは流石としか言えなかった。
「おはよう、竹来さん。
携帯でなくて大丈夫?」
「おはよう・・ございます・・メールなので大丈夫です・・」
「そっか、よかった」
「ありがとうございます」
そう言い終わらないウチに
「あっ・・すみませんっ私・・・いつの間に・・・」
はっと頭を上げ、肩で寝ていた事に気付き顔を赤らめた。
「いいんだよ。疲れてたんだね。
お疲れさま・・・そしてごめんね、色々巻き込んじゃって
もう人間界だよ・・・ここは学校」
この場所が始まりだったし・・・。
「ありがとうございます・・。いえ・・すみません。私の不注意で・・・
そしてありがとうございました」
瑞々しい笑顔をみると助けてよかったと心から思えた。
「いいのいいの。無事に帰ってこれてよかった・・・
向こうはどうだった?」
「なんか魔界ってこっちと空気が違いますね・・うまく言えませんけれど」
「そうだね、ちゃんと結界張ってない場所を不用意に歩くと
人間の身体には毒だから気を付けないとね」
「それってキメラになっても変わらないんですか?」
どうだろう・・・?さっきは立派にセイレーン化していたしねぇ
「んー・・・どうだろ?試すのは結構リスク大きいからやめようね」
「はぁい」
素直な生徒のような返事をした美樹にセイレーン化して
京介を押し倒した(抱き倒した?)事は黙っておこうかなと思った。
ちょっと惜しい気もしたけれどね。
「ごめんね。今回は・・・・
今度からちゃんと守るから」
「いいえ。とんでもないです。
ありがとうございます
でも・・怖いのは・・・ここでも違う世界でも・・・
私がもしも自分を見失って無差別に人を傷付けそうになったら・・」
「大丈夫だよ。
そんなことはきっとないよ。
もしも・・・」
京介は真っ直ぐに美樹に向き合う。
風が美樹の長い髪を乱す。
「もしも?」
髪を手で押さえながら澄んだ瞳を京介に向け聞き返す。
「その時は俺が責任もって殺してあげるよ」
アカシアの香りを風がどこからともなく運んできた。
「大丈夫。
責任持って竹来さんには人を傷つけさせないから」
殺してあげるよ。
優しい声だがそこに強い意志も感じられた。
決してロマンティックとは言えない台詞だが、
何故か美樹にはその言葉がまるでプロポーズのようにも聞こえ
少し赤面してしまう。
「はい、その時はお願いします」
何か変な答えね、そう思いながらも笑顔を京介に向けた。
長々とお付き合いありがとうございました!
このお話は時系列的には
Egoistic Realityの数ヵ月後でMemory of the Treeの前です。Memory・・・には美樹らしきコを少しだけ登場させています。
もしもお時間あったらそちらも是非読んで下さい!
本当にありがとうございました。
感想いただけるとすごく嬉しいです。




