25.封魔札
京介の以前のお話は
Egoistic RealityとMemory of the treeに出ています。お時間あったら是非読んでみて下さいっ
「滝山はまだ見付からないの?」
「ああ、オークション会場にはいなかった・・・
おそらくこの屋敷だと思うのだが・・・」
「うーん、んじゃ、定石通り・・・最上階か地下室かな?」
「あのな、ゲームじゃないんだから」
「あれ?やっぱりダメ?」
軽口を叩きながら人の気配を探りつつ廊下を歩く。
美樹をジムの配下に頼むか悩んだがここは自分で責任を持ちたいと思い
抱きかかえたまま連れて行くことにした。
「しかし・・・見事にみんな寝こけているな・・・
一体どうして・・?」
「俺もわからないんだよねぇ
入った時にはもうみんな夢の中だったからなぁ」
ぴたり、二人の歩みがある部屋の前で止まる。
ドアの装飾が他よりも凝ったレリーフになっていることから
どうやらこの部屋はホストルームのようだ。
「ここか・・・?」
ジムは声を殺し京介に目配せする。
この部屋から・・・確かに気配がする・・・・
しかしこれは人間の気配では決してない。
Creature?
まだ他に?
「取り敢えず開けてみますか」
「異議なし、だな」
そっとドアノブに手を掛け開けると同時、二人とも壁に身を隠す。
・・・・・が、中の気配は何も動くことなく辺りには静寂だけがある。
二人とも目で合図し同時に部屋に踏み込むと
「やはり恋人を助けるためになら動きますのね。
良かったわ・・・タカクが無事で・・・」
滝山がいると踏んだホストルームには予想を反して
グレースーツの短めのタイトスカートからは見事な脚線美を覗かせる
キャリアガール風の若い女性が居た。
「君は・・・?」
「お会いするのは初めてですわね。
見覚えありませんの?
って言っても姉とは少ししか似ていませんしね・・」
姉?・・・銀髪・・・もしかしてインペリアの妹か!?
行儀が良いとは言えないが丸テーブルに足を組んで座る姿は
惚れ惚れするほどに美しく・・・・
顔立ちは似ているがインペリアの毒のある美しさを深紅のバラとするのならば
リキュスカはもっと瑞々しい・・・
どちらかと言えば大輪の白百合を思わせる美貌だった。
京介とジムは互いを窺いみる。
「もしかして・・・・お姉様の敵ってヤツ?」
「そうしたいのは山々ですけれど敵わないのは分かり切っていますわ
それに・・・姉は完全には死んでいませんし・・・
タカクの中で生きているのでしたらそれはそれで構わないわ」
お手上げのポーズをしながら大袈裟に肩をすくめながらも
京介の腕の中で無邪気に眠る美樹に笑顔を向ける。
「私は貴方とも貴方のお友達のミスター・ジムとも
戦うつもりはありませんからそんなに好戦的にならないで下さい」
「・・・・滝山の狙いは魔界の資源・・・
君は?お金?名誉?」
「ふふ・・・私も魔界育ちなのでお金に価値を見いだせませんわ。
私は何を欲したでもない・・わたしは・・・・」
はらりと細身のジャケットを脱ぎ捨てその美しい指で
シャツのボタンを外し・・・
「私が組織で働いているのはこれが理由ですわ・・」
ベッドルームでの美人のストリップはかなり扇状的で
半裸に思わず見とれてしいそうだったが
雪のように白いと形容するのがぴったりの背中を向けると・・・
そこには痛々しくミミズ腫れを起こして肌に張り付く封魔札があった。
「なっ・・・・」
「これは・・・」
京介もジムもその禍々しい図に言葉を失ってしまう。
「・・・悪魔族の封魔札か・・・・」
やっと口を開いたジムも凄惨さに二の句が継げない。
「誰が・・・まさか滝山が・・・?」
「そのまさかですわ。
私はこのために彼に逆らうことが出来ませんの」
しゅる・・・シルクと思しき滑らかな光沢のある布地が
おぞましい刻印を隠す。
「人間に・・封魔札が使えるのか?」
「さぁ・・・私には詳しい事は言えませんが・・・
ただはっきりしていることはこの札のせいで
わたくしは滝山には逆らうことが出来ないということよ。
そして貴方にもね・・ミスター・オカミ」
真っ直ぐな緑の双眸が複雑な表情で京介を見据える。
「えっと・・・ミス・・」
「リキュスカよ」
「あぁ、ミス・リキュスカ・・・
君自身が封魔されていたとしても護身獣が
君の敵を倒してくれるんじゃないの?」
インペリアはリンカーンのことを「セイレーン族の守護獣」と
言っていた。
ならばリキュスカにも守護が付いているということではないのか?
「ふふ・・リンカーンが守護するのはクイーンただ一人ですわ」
ということは・・
「セイレーン王族が・・」
「ええ。
恥ずかしいことにセイレーン王族直系の2人とも滝山グループの
手駒に甘んじておりましたの・・・」
テーブルに座り直しリキュスカは自嘲気味に視線を伏せる。
「ミス・リキュスカ。
その札を取ることが出来ると言ったら・・・・
君は滝山には従わないのかな?」
少し考え込んでいたジムは質問し続ける。
「もし・・・・もしも、君を縛り付けているものがその札のみなら、
この場で外しても構わない・・・
100%確証は出来ないが・・・恐らく出来ると思う」
「貴方に?
・・・・そうね。貴方なら可能かもしれないわね・・。
もちろん、私と滝山を繋いでいるのはこの札のみ・・・・」
滝山の独白を思い出す。
恵まれた環境で生きてきたはずなのに何故か寂しい生を生きている
あの男の少し寂しげな表情。
しかし滝山が行っていることこれから行おうとしている事には
全く賛同出来ない。
彼を慕う心ももうないだろう。
(じゃあせめて私の手で殺すわ・・・)
「お二人に頼める義理はないと解っているの。
でもお願いします。この檻から出してください」
日本式に深々と頭を下げリキュスカは言う。
貴方に頼める義理はない・・・かぁ、
インペリアも同じような事を言っていたなぁ。
京介はインペリアの面影をリキュスカに見たような気がする。
「よしてくれ。ミス・リキュスカ。
美人の手助けだったら頼まれなくても喜んで引き受けるさ。」
「え?ジムがやるの?」
「当たり前だろ。京介がそれ以上力使ったら倒れるだろ?
どうせろくすっぽ血吸ってないんだろうし」
「えーと、何ヶ月か前に血吸ったよぉ?」
「アレだろ、報告書読んだよ。ハンパ者の吸血鬼の血吸ったってヤツ。
でもそんなんは吸い取った血以上に魔力を使って相手の血を浄化したから
結局はプラスマイナスでマイナスだろ?
無理はすんなって」
え・・・と、確かにね。
あれ?俺ってホント吸血鬼だったっけ?
京介は何だか頭を悩ましてしまう。
「そんなワケだから、俺がやるよ」
ジムはリキュスカに向き合い
「じゃあ・・・そこに座ってこっちに背を向けて・・・
いや、服はそのままでいいから・・・・」
と指示し掌に魔力を込める。
ぼわっ
周囲の温度が1〜2℃上昇したかのような錯覚に陥る。
暖かみのあるオレンジの光がジムを中心に溢れだし部屋を満たす。
「・・・・あっ・・・」
札が風化するのを感じると
リキュスカの口から小さな驚きの声が漏れると同時に
今度はリキュスカを中心とした銀色の光が周囲を照らしだした。
「これが・・・」
今まで封じられていたセイレーンの魔力。
今度は周囲の温度が急に下がったように感じる。
あふれ出る魔力が冷たい光となってリキュスカの周りにたなびく。
「ありがとうございます」
リキュスカは凛とした表情でジムにそして京介に頭を下げ丁寧にお礼を述べる。
「これでもう君を縛るものはないよ。
じゃあ、ちょっと手間だけれども滝山を捜すの手伝ってくれるから?」
ジムは優しくリキュスカを促し部屋を出る。
京介は思った。
(もしかして・・・・
このお嬢さんの魔力を戻すのは滝山の処遇を決めてからの方が
良かったんじゃないか?)
と・・・。
リキュスカさんもっと色っぽいキャラにしたかったなぁとちょっと後悔です(汗




