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CREATURE  作者: 三月やよい
23/31

22.衝突

戦ってます。

戦闘って難しいです。

ボスの命令は迅速に行われた。

「俺は人狼族族長・レオン。

 そしてこちらが悪魔族長殿だ」

プラチナブロンドに薄い瞳の色が冷酷そうな印象を与える

自称・人狼族族長サマは誇らしげに自己紹介する。

現れた男たちは2人・・・二人とも以前ジムが持ってきた写真の人物だ。

滝山の電話内容では3人だったはず・・・残り一人は隠し玉なのか?

ぐにゅぅ・・・・・

悪魔族長殿と紹介された男がすっと右手を挙げたと同時に

周囲の空間が歪む感触がする。

どうやら悪魔族長殿が何やらもごもごと唱えオークション会場内の

この周辺の空間を切り取り戦闘用の結界を作ったらしい。

(へぇ。騒ぎを起こす気はないってことね)

この結界があえば客たちはこちらが何をしていても気付かずに

くつろいでいられるであろう。

「ハーイ、人狼族長様。

 お手合わせ願えるかな?」

人狼族族長様へ向けるジムの声にはかなりの怒りが含まれていた。

しかしそれに気付いたのは京介だけだろう。

レオンはこちらを一別し、東洋人と西洋人の優男たちを鼻で笑うかのごとく

「怪我したいのか?それともマゾか?」

タキシードの上からでも厚い胸板が伺える。

「生憎、俺はどちらかというとサディストなんだ。

 まぁ女性を傷付けるような行為をするってよりも

 ベッドの上で女性の羞恥心を煽るのが好きなんだがな」

どうでもイイ事を抜かしながらジムは指を鳴らしながら

レオンとの間合いを測っている。

お互いに相手の力量を推測しあっているのか・・・と思った瞬間、

二人は激しい拳のぶつかり合いを繰り広げた。

魔力をほとんど使うことがない力での押し合い・・・

ジムは人狼族脳みそ筋肉説を否定していたが

種族的にはどうも肉弾戦を好む傾向があることを京介は知っている。

さて、あっちは似たもの同士頑張ってもらいますか。

じゃあ俺はこいつか・・・

と上質のスーツを隙無く着込んだ壮年の紳士に向き合う。

相変わらず男は余裕の笑みを浮かべていた。

西洋人とも東洋人とも見える魅力的なロマンスグレー・・・

何かがおかしい。

確かに悪魔族なはずだがその波動が全く感じられない。

その実力は俺以上ってコトか?

京介は目を凝らすように男周辺の空気を読もうとした。

「君が私の相手か・・・それもよかろう」

渋みと深みが調和したバリトンは古いスパイ映画の主人公役でも

演じさせたらぴったりくるような声だ。

「オジサマにはこんなところよりも

 ビジネス街で日本経済に貢献していて欲しいね」

「ここでも一応は経済に貢献しているんだよ。

 滝山グループの新規事業は実に斬新でね、

 新たな世界を資源とする予定なんだよ」

「その新規事業には少年少女の生け贄は必須?」

「必須であってもなくても・・・

 私には全く持って関係ないからかまわんよ」

その物言いに胸が悪くなるような感情を催す。

こいつに何を言っても無駄みたいだから

申し訳ないけれど消えてもらうか・・

もともと人狼族に限らずCreatureは拳や力でモノを語る種族だしね。

いささか狡いが先制攻撃を仕掛ける。

インペリア直伝の足払い・・・

そしてその体勢から反動を利用して腹部への蹴り・・・

彼女にされた事をそのまま試してみると確かに

足払いが直撃した手応え(足応え?)はあったが

腹部への蹴りは空振りに終わり・・・

「ぐっ」

反対に胸部へ鈍い痛みが走る。

侮れない・・・気配が全くない・・・・・。

肋骨が折れているかもしれない。

いやな音が身体に響き灼熱で焼かれるような痛みが腹部に向かっていく。

京介の足払いを受け姿勢を崩した体勢から

京介に向け毒を含んだ炎を向けたのだろう。

恐ろしいことに、この紳士は結界を張るのにも

印を結び集中させた魔力を放出するのにもまったく「魔力」の増減が読めない。

動きも最小限度の動きしかしないので次の動作が読みにくい。

ふわりと浮かび接近してくると思いきや

その体勢のまま炎を指から生み出し京介に仕掛けてきた。

「お前・・・」

炎の応酬をかわしながら紳士に近付き京介も掌から炎をだし

焼き殺そうと試みる。

ぶわぁぁ・・・

確実にその青い炎は男を包み全てを焼き尽くす・・・はずだった。

「畜生っ」

炎をもろに受けても服の一片とも焦げることなく、

余裕の笑顔を浮かべている。

「この程度かね?」

紳士は息ひとつ乱さずに静かに聞いた。

「・・・まだまだ」

「何も面倒なことせずに従えばいいものを・・・

 そんな難儀な仕事でもないしねぇ」

「女の子誘拐する趣味はないんでね」

「はっはっはっ・・君が社員になったら誘拐なんて端末な事はさせんよ。

 このビジネスの中核になってもらうつもりだよ」

「・・・冗談じゃねぇよ」

両手を前にかざし意識を集中し・・・

今度は先ほどとは異なり大量の冷気を吹き付ける。

「年寄りは冷えが大敵?」

しかし白く煙る冷気の中からは

「少々冷房が効きすぎているようだね?

 最近は省エネブームじゃないのかね?」

全くダメージらしきものを受けた様子なく紳士は

自分の首に手を当て軽くもんだ。

悔しいがその姿はかなり洗練されておりスクリーンの中にいても

その姿は十分に映えるだろう。

(・・・っくしょー・・・何ものだ・・・こいつ・・)

吸血鬼ではない・・・人狼でもない・・・

恐らくは悪魔族であろうが・・・

(気配が読めない・・まるで作りものみたいだ・・・)

作り物・・・?

・・・・人形?人形!

そう気付くと符合がいった。

傀儡。

人の形をした生きた人形・・・

生かされている人形と呼んだ方が正しいかもしれないが。

ここまで見事な傀儡を作れるのは今生きている中では

現・悪魔族族長リリスか前代族長にてリリスの父・サタンくらいだろう・・・。

ゾンビなどに代表されるアンデット(死人返り)は

悪魔族の能力だ。

キメラは身体の一部などを他種族へ移植し生き返らせたり

他の種族へ作り替えたりするのに対し、

アンデット(死人返り)は死体もしくは元々生命の無い人形に

生命を吹き込む技術になる。

通常レベルの悪魔族がアンデット(死人返り)や

傀儡を作ってもその動きはぎこちなく脳部分は既に死滅しているか

元々脳に準ずる器官がないので知性はまったくない。

しかし目の前にいる傀儡は喋るコトも出来れば

戦い方を考えることも可能とみられることから

明らかに知的レベルが一定以上である。

これ程の傀儡を作成できるのは王族レベル・・・・

サタンかリリスしかいないだろう。

どう考えても現悪魔族長が戯れで傀儡を作り

人間に与えるなんてないだろう。

ってことは・・・・あんのクソ親父っ

サタンの人をおちょくるのが大好きな食えない性格を思い出し

悪態を付く。

どうもおかしいと思ったらヤツが後ろにいたのか・・・・。

「ぐっ」

完全に集中するではなく考えながら男の攻撃をよけようとしたのは甘かった。

男が指先から出した鋭い氷の柱を避けきれず京介の脇腹にざっくりと刺さる。

しかし傀儡と解ればそれなりの戦い方がある。

勝算が見えた!

「んじゃ申し訳ないけれど・・」

右手をかざそうとすると肋骨に鋭い痛みが走るが

治癒術をかけている余裕はない。

意識を集中して手に集まったエネルギーをそのまま炎に変え、

男の頭部目掛けて投げつける。

先ほどの身体全体を包むような広範囲の炎とは違い一点集中攻撃・・・

傀儡を作る時に必要な「核」が必ず頭部にあるはずなのでそこを狙った。

傷一つ付けることができなかった先ほどの攻撃とは異なり

今度の炎は確かに男の頭全体を包み焦げ臭い臭いと共に首から上が焦げ、

もげ落ち・・・・

そこにはただの木塊となった紳士のなれの果てがあった。

はぁ・・・はぁ・・・

肩で息をしないと肺まで空気が届かない様に感じられた。

痛みを感じるのは右胸部と左腹部、そして背中には

火傷のような痛みがあった。

治癒術を使うべきか?

いいや、今魔力を減らすのはヤバいかもしれないし

すぐに美樹さんを探したい。

しかし・・・っていうかヤバい。

吐き気するわ寒気するわふらふらするわと貧血の症状がでている・・・。

そりゃそうだよな。

キメラ作ってリキュスカから受けた怪我治して、

またここで魔力使えばそりゃ限界近くなりるっちゅーねん。

畜生・・適当に血補わないとホントやばいかな?

でも・・・・

「適当で血吸えるほど俺も無節操じゃないんだよね」

倒れる時はせめてお姫様助けてから、ね。

京介が男が塵になったのを確認し終えた頃には

ジムは折角のタキシードところどころに汚れや破れを作りながらも

自称・人狼族族長をノックアウトしていた。

ジムはレオンから奪い取った鍵を渡し

「ミス・ヤマトナデシコはお前に任せるよ。

 この会場の魔界側が商品管理室になっているらしい。

 俺はオークション会場行って売られた被害者達を保護してくる。

 滝山を追うのは後だ」

と踵を返していった。

京介は口の中の血を吐き出し鍵をジャケットのポケットに入れ

ジムとは反対方向へ歩みを進めた。


あとはラスボス!

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