20.宣戦布告
大学のメールセキュリティって結構甘いですよねぇ
週の最中、中だるみの水曜の朝は研究室へ向かう足取りがやや重い。
しかも今夜はジムと連れだってオークションへ行かなくてはならない。
その昔、人間界に来たばかりの頃は京介もオークションで数々の
美しい芸術作品を競り落とし、コレクションしていた。
それらの美術品の数々はさすがに大学生の一人暮らしの部屋には
似つかわしくないのである物は魔界の屋敷に、
ある物は美術館に寄贈してあった。
午後には学校を抜けて魔界に行き取り敢えずは
タキシードを取ってこなくては・・・
と一日のスケジュールを考えながらいつも通りパソコンを立ち上げると同時に
塩原が隣に腰かけてくる。
「岡見・・この前一緒に歩いていたのって経済学部の竹来さんだよね?」
「知り合いなんですか!?」
立ち上げる機械音と重なった質問に驚き、塩原をまじまじと見る。
「いんや、竹来さんの友達の彼氏って弓道部じゃない?
弓道部の飲みに来てたって塚田がいっていたよ」
弓道部に所属している同級生の名が話しにあがった
「超可愛いコでしょ?
彼氏いないし、飲みでも男が何人も群がったけれども
結局誰も携帯番号聞けなかったみたいだよ。
岡見すごいな。」
「すごいなって程でも・・・・」
「え?彼女じゃないの?」
「友達ですよ。バイト先一緒だったんで」
へぇ・・・と塩原は何かを考え
「今度、飲みしようって伝えておいて」
それだけ言い残し何やら嬉しそうに実験台に向かっていく。
美樹はどうやら他学部にまでも目立つ存在だったらしい・・・・
まぁ可愛いしね・・にしても全くあの先輩は・・・
苦笑しながらパソコンに向かおうとすると今度はその行動を携帯電話が邪魔してくる。
「あ・・・昇迦じゃん。めずらしい・・・」
あ・・・やべー・・・明日の授業、今日に振り替えたんだっけ!
夜はオークションだから日付ずらしてもらわなきゃ・・・
はい、岡見です。
形式に則った受け答えをしながらいいわけを考えていると
電話の向こうで昇迦が息を切らしているのが解る。
「どうした?落ち着け。何があったんだ?」
ちょっとした用事での休講って内容ではなさそうだ。
「先生・・・一島さんが・・・桜ちゃんが・・・」
慌てているような憔悴しているような声色。
電話越しなので正確な表情は解らないがタダ事じゃないことは十分に伝わる。
「行方不明なんだ・・・」
嗚咽が続く。
お嬢様学校に通う少女・・・堅い家柄・・・真面目・・・美少女・・・
「まさか!!」
「先生・・・俺・・・」
「落ち着け、昇迦。この事は警察に届けたのか?」
「桜ちゃんに限って家出なんてことはないだろうけれど・・
まだ一日しかたってないからたぶんまだ言ってないと思う。
今、桜ちゃんの友達に親が聞き回ってるって・・・」
「他にいなくなった友達は?」
「いないみたい・・・・
月曜夜の塾に来なくて友達が家に電話したみたい・・・で・・・
・・・先生・・・ごめん、突然・・・でも・・・・俺・・・」
言葉にならない。
日常の中に突然、恐ろしい可能性を秘めている非日常が舞い込むと
人間はどうしてもそれにうまく対処なんて出来ないものだ。
「お前にも心辺りな・・・・」
ツー、ツー・・・・・・・
どうしていいのか解らなくなって頼れるとこもなく
京介に電話してきたのだろうが、その電話は一方的に切られてしまう。
昇迦の友達が・・・しかも真面目な美少女?もしかして日本でも・・?
You got a mail!
いつのまにか立ち上がっていたパソコンの画面上に見慣れた表示がされ、
初めて見るアドレスだったがいつもの習慣でメールを開く。
しかしその簡潔な文面を見ると京介は悪態を付きたい気持ちに陥る。
「・・・・状況は最悪だ・・・」
岡見京介様
可愛い恋人が商品にどれくらいの値が付くか
見てみたいかしら?
興味があったら滝山グループの門戸をたたいてみて
アドレスはTakiyama@・・・・
ドメイン名からして誰でも取得できるフリーアドレスらしい。
しかもご丁寧に「滝山」を名乗っていた。
宣戦布告か・・・。
俺もなめられたモンだ。
ミス・セイレーンの敵はもらうってワケね。
オークションを内偵するまでもなく、はっきりと確信する。
「敵は滝山だ」
いよいよ乗り込みます!!




