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CREATURE  作者: 三月やよい
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1.京介

やっと主人公登場です。


「しまった、ペン切れた」

岡見 京介は白衣の胸ポケットにもう書けなくなった黒いボールペンを入れ

自分の実験台の上に目をやった。

開かれたノートの横にあるペンケースの中を探してもシャープペンが

一本とかなり小さくなった消しゴム、そして長年使っていて目盛りが

薄くなってしまった定規しか見つからない。

(色素試薬作ったら買いに行くか・・)

と時計に目をやりながら思う。

学生生協は5時まで、今から色素試薬を作ってメスシリンダーを洗って

10分だとして、20分あれば十分にボールペン一本くらい買いにいけるだろう。

タンパク質の溶液濃度を測定するのに使う色素試薬を50mlつくり

メスシリンダーに洗浄用エタノールを少したらす。

試薬に含まれるタンパク質と結合する色素は手に着くとなかなか

落ちないので着かないように注意深くメスシリンダーの壁面にメタノールを這わせる。

廃液入れのポリバケツに青く染まったエタノールを捨て洗剤で洗い

水道水ですすいだ後、蒸留水で4回すすぐ。

メスシリンダーを乾燥棚に置いたときでちょうど4時40分になっていた。

「ちょっと生協行ってきます」

と隣りの実験台を使っている博士課程の先輩・塩原清人に声をかける。

今年25歳になる塩原は身長が165と小さく顔も童顔なので

毎年、新入生と間違われてサークル勧誘を受けるらしい。

学部生だった頃は嫌でしょうがなかったらしいが、

修士・博士となるにつれ話のネタと割り切り毎年

「間違われちゃったよ〜」と嬉しそうに話していた。

「ほーい。・・あ、牛乳買ってきて」

と塩原はカバンから財布を出して200円を京介に渡した。

この先輩はいつも牛乳か豆乳を飲んでいる。

子供の頃から牛乳を毎日飲んでいたのに165センチってことは

どうやら牛乳を飲むと背が伸びるとは一概には言えないようだ。

「はい。他には何かありますか?」

200円を受け取り聞くと

「・・・じゃ、可愛い女の子かな」

真顔で冗談を言う。

塩原の場合冗談ではないかもしれないが・・・

塩原は忙しい博士課程にいながらどう時間を作っているのか、

途切れず常に彼女がいる。

しかもかなりの面食いらしく大抵「小柄・色白・可愛い」の3つを

兼ね備えているレベル高い彼女を捕まえてくる。

本人は悪くはないが決して「イケメン」というかんじではないが

マメなのと熱心に口説くのが成功の秘訣らしい。

でもそんな可愛い彼女がいても「岡見〜合コンしようよ〜」と声かけてくる。

単なる女好きなんだろうか・・。

一昔前と比べると増えたのだろうが、理学部・工学部はどうしても

男子学生が多くなってしまう。

しかし京介が在籍している理工学部生物工学科は多少とも「生物」と

銘打っているので3割が女子学生だ。

そのため、大学の理工学部棟も男の園ってほどむさくるしくはない。

いくらむさくるしくなくても実験用の白衣を脱いで校舎から出て

新緑まぶしいキャンパス内の桜並木を歩くとかなりの開放感を味わえる。

学食の横を通り生協を目指す。

授業を終え駅に向かう人の流れと逆行してあるくとふと妙な気配を感じた。

「妙」としか言えない気配。

首筋がちりちりするような感覚。

「嘘だろ・・ここ学校だよ・・」

口の中で誰にも聞こえないくらい小さな声で不満をもらした。

この気配を最後に感じたのは多分5年前に深夜の繁華街で・・・。

(あの時よりも・・・強いかな?・・

 いや、近くにいてこの程度なら・・)

気配を読みながら京介は生協に向かう足をとめ、人通りの少ない

講堂の横に足を向けた。

鯉がいる池を横切る頃にはさっきの気配は一段と強くなっている。

(そうそう、こっちにきてくれよ・・)

人を巻き込むと面倒な事になる。

この時間で人通りがないところは・・・

「講堂の駐車場かな」


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