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CREATURE  作者: 三月やよい
19/31

18.誘拐

見知らぬ方に声掛けられたら用心しましょう!

「見つけたわ・・・・ミス・タカク。

 あの少女なんですけれど」

友達らしき同年代の女とウインドーショッピングしている姿を

リキュスカは遠くから指し示す。

「へえ・・・オヤジ好みじゃね?いいんじゃね?」

若い女性好みの外装をしたセレクトショップのショーウインドーの前で

何やら指さしながら談笑している美樹はどこにでもいる女子大生のように見える。

「貴方がそう言うならば信じましょう。狩れる?」

リキュスカの目からはいささか少女じみているようにも見えるが、

ナガルの方が商品をみる目は確かだ。

「ま、まーかーせーてーよぉ」

変なイントネーションでナガルはかけていたサングラスをジャケットの

胸ポケットに入れ友達が店内に入ったのを見計らって美樹に近寄っていく。

「あれー、タカクさんじゃん。

 久しぶりー」

なれなれしく美樹に話しかける。

見知らぬ男に声を掛けられた警戒の色は隠せないが名前を知っているということは知り合いなのだろうと邪険に出来ない内心が手に取るようにわかる。

美樹は失礼にならない程度の警戒心でちらりと先に店に入っていった友人の方に目を向ける。

「あれー?忘れちゃったの?ひどいなぁ。俺はスグわかったのに?

 綺麗になっちゃってさぁ・・・高校の同級生なんて忘れちゃった?」

さりげなく近寄りながら建物の間に追い込んでいく。

「え?高校って・・?私女子校・・・」

言い終わらないウチに美樹はかくんとその場に崩れてしまった。

低級ではあるが一応は夢魔一族。

少女一人を昏睡させるくらいの芸当は持ち合わせている。

いえーい。

遠くからブイサインを送ってきたナガルをリキュスカは珍しくほめてやりたくなった。

「さて、じゃあ次は私の出番ね」

サングラスを外し、美樹の友人が入っていったセレクトショップに入った。

ナガルは貧血を起こした恋人を介抱するかのごとく無事に車まで美樹を運んだようだ。

「あれ・・・美樹?」

友人は出口付近にさっきまでいた連れを探していた。

「こんにちは」

リキュスカはにっこりとその少女に話しかけそのまま

(連れ?貴女は今日、一人でお買い物していたじゃない?)

古代セイレーン言語の囁きはこの娘には聞こえないだろう。

しかし脳にその振動は伝わり記憶を司る部位に刺激を与え、

新しい・・まやかしの記憶を植え付ける。

「?」

言霊を使うと背中の封魔札がちくちくと肌を刺激したが、

例え封魔札によりほとんどの魔力を抑えられていても

人間一人に暗示をかけるくらいなら造作ない。

美樹の友人・京子は本来ならば夏物を二人で吟味した後、

両親不在の夜を女の子二人でお喋りし明かすはずだったが、

そのまま一日何の疑問も持たずウインドーショッピングを続け

一人の家へ戻って行った・・・・・。


この少女の中にインペリアの血が流れている。

どんな経緯があってそうなったかはわからないが確かだろう。

ということは姉・・・いや、妹になるのだろうか?

セイレーン族は女性だけの一族だ。

里に迷い込んできた男を誘惑し交配しその男を養分として喰い殺す。

子供をなすための男は人型ならばどの種族でもよい。

生まれてくる子供は父親の遺伝子を受け継ぐ事はなく、

その点では単性生殖とも言える。

セイレーン種は希少種なので子供はとても大事に育てられる。

リキュスカもインペリアも王族の娘だということもあり

それは大事に育てられた。

母が一族の歴史を、叔母や乳母たちが踊りや歌を教えてくれた。

美しかった母は一族としてはひどく短命な一生を終えてしまった。

母が喰い殺した男の妻に殺されて・・・。

セイレーン族はもともと数少ない種族だった。

異種族間協定が結ばれた後、自由に人間を食することが出来なくはなったが

それでも郷里では静かで美しい生活を送っていた。

セイレーンの民族衣装を纏い古代言語で民謡を歌う女王インペリアはこの世のものとは思えない程に美しかった。

しかし2年前、4人のセイレーンが協定違反し人間と悪魔族の男を

喰い殺してしまい、その罪が問われ死罪となり、

里全体に悲しみと混乱がまだ残る内に今度は5人のセイレーンが

行方不明となってしまった。

犯人は以前捕まってはいないがおそらく滝山グループの

息がかかった魔族により捕らえられ封魔された後どこかに

売り飛ばされたのだろう。

彼女らは運が良ければどこかの王族の寵姫として生きているかもしれない。

もしくは容姿が全く衰えない美しい最高級娼婦として・・・・

悪魔族長を名乗る男が里に正式訪問したのは丁度、

セイレーン族長だったインペリアがこのまま鎖国状態を続けるよりは

外交を強化した方が得策ではないかと悩み始めたのと同時期だった。

そして女王姉妹であるインペリアとリキュスカは留学と称して

里から離れ、滝山グループの保護のもと人間界での生活が始まった。

初めて紹介を受けた時、インペリアは滝山にほのかな憧れの情を抱いた。

今になってみれば吐き気を催しそうだが・・。

グループ内で英語、日本語、中国語、スペイン語の語学、

その大まかな文化、そして経済にIT技術・・・・

二人は驚くべきスピードでそれらを吸収していった。

インペリアは格闘技術を仕込まれボディーガード兼秘書として

社会にでるようになったがリキュスカは封魔札により力を封じられた。

「君は切り札だよ。姉君も馬鹿じゃないからいくら巨大な力を持っていても

 君のために裏切り行為なんてしないだろうしね」

かつては王子様に見えた男は静かに言った。

その言葉には蔑みもなければ恐怖も同情もなかった。

全く感情の読めない男・・・

滝山は人間ながら何か底知れないものがあった。

寂しい想いと苦々しい想いが入り混じった回想をするリキュスカを乗せ、

ナガルが運転する高級セダンは静かな振動音をたてながら

オフィス街を走っている。

取り敢えず後部座席で寝かされている少女を「商品」として

保護するのが最善の策だろうか・・・

「タカク・・・でしたっけ・・・」

オカミとのe-mailでは竹来さんと呼ばれていた。

ファミリーネームかファーストネームかは解らないが

この少女の名前だろう。

恋人が・・・・タカクが滝山グループの手中にあると知ったら

オカミはきっと助けにくるだろう。

そして恐らく交換条件に乗るよりもグループを潰す事を選ぶだろう・・・。

オカミのプロファイルはまだ完璧とはいかないが、

それなりに実力があり他の小者たちとは違い、

金も名誉も興味のないらしい。

一匹狼は自分の意にそぐわない組織にたいして懐柔するよりも

壊滅することを選ぶと思われる。

「そして彼の力ならばそれも可能・・・」

人質であった姉が亡くなった今、リキュスカは滝山に忠誠なんて

誓っていなかった。封魔札のせいでたいした魔力を発揮することは

出来なくても逆らえばすぐに商品としてオークションにかけ、

どこぞかの好事家に買い取られると言われたが

姉がそうなるのではなく自分が売られるのならば、覚悟はできた。

組織に囲われ売られていった商品たちは慰み者にされるか

観賞用として扱われるか・・

どちらにせよその末路は喜ばしいものではないだろうが

ここで飼い殺されているのも大差はないように思えた。

しかし・・・・

リキュスカにはどうしても腑に落ちない事があった。

戦闘能力は低いがインペリアもリキュスカもセイレーン王族の血を引く身。

その魔力を封じられる封魔具を作ることが出来る悪魔族は限られている。

そんな大物が何故人間の言いなりになっているのかが解せない。

「ま、グループ内に大物がいてもいいわ・・・

 大物は大物同士つぶし合ってもらうますわ。

 そして相討ちのなってもいいから最後にオカミを殺す・・・?」

一応インペリアの敵も取りたいですし・・・

折角出来たばかりの可愛い妹なのに囮に使わせてもらうわよ・・タカク・・・。

貴女には罪はないけれど・・・

そしてオカミにも。

オカミは身を守っただけ。

その相手がたまたま姉だっただけ。

恨みが全くないとは言えないが自分でも驚く程に淡々としていた。

(不思議ね・・・こんなに感情がないなんて・・・)

いいの。ここから逃げられるのならば。

逃げて行く場もないけれど・・・。


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