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CREATURE  作者: 三月やよい
17/31

16.花魁

ながーい黒髪に黒地の振り袖を羽織っただけの女性キャラを動かしてみたかったのです(照

「ってかリキュスカちゃんって美人でもつまんねー」

いつも通り街頭に立ち、誰に言うでもなくつぶやく。

いつもの日課・・・・学生でありながら勉学に勤しむのではなく

昼間の繁華街に立ち客になりそうな若い女・・・

もしくは有閑マダムをキャッチするのがナガルの日常だ。

そして・・・『狩り』と呼んでいる行為。

年若く真面目そうで造形の美しい少年少女を言葉巧みに誘いグループに売り飛ばす。

グループが出した条件は二つ。

一つは見た目が美しいこと。もう一つは処女もしくは童貞であること。

この条件をクリアした獲物が手に入り次第、指定されたフリーアドレスに

メールを送る。

その件名は「ペット」メール内容も少年をさらえば子犬一匹保護、

少女を拐かした場合は子猫一匹保護とかくように指示されている。

事実上はどんなにセキュリティーを強化しても誰でも観閲し放題のe-mailで

犯罪の報告をするのは危険過ぎるということか・・・・

詳しいことは解らなくてもそういった秘密めいたやりとりをナガルは

「なんだかスパイっぽくてクール」くらいの気持ちでしか認識していなかった。

そういって買い取られていく一人あたりの値段は

ホストとしては売れているナガルのサラリー3ヶ月分にもなった。

もともとナガルにとって女は客になるかヤれるかだけだったのだが

『狩り』をしないか?と夢魔族の族長にリクルートされてからは

繁華街に立つ理由がもう一つ増えたのだ。

いつも通り客になりそうなキャバクラ嬢、ナンパに着いてきそうな

尻軽女子高生・・・・そして清純な風合いの少女・・・・

グループが望む少女・・・少年でもいいのだがナガルは基本的に女が好きだ・・・

は普段声をかけてきた女達とちがいナガルのような風貌の男が声をかけてくると、

大抵無視するか走って逃げて行く。

しかしそれはもしもナガルが普通の人間ならば、だ。

ナガルは夢魔族の血を引いている。

相手を警戒させない「匂い」を持っている。

おそらく夢魔として人間を食餌する際、有利に働く特徴だろう。

そして、ホストとして顔はいいとしてもカリスマ性、知性そして

話術がなくても店でNo.1〜2を争っていられるのは夢魔としての

魔力を使っているからである。

客に幾度と無くナガルの夢を見せる・・・内容はなんでもいい。

悪夢じゃなければ。

繰り返しナガルの夢を見せられた女はこれを「恋」と錯覚する。

ただそれだけでいいのだ。

半端者ではあるが夢を司るcreatureの端くれとして

夢を操るなんてお手のものだ。

夢魔として魔界で権力を得るには到底足りない力も

人間界で端金を稼ぐのに困らない程度には役に立つのだ。

しかしナガルは「自分は夢魔としても一流」と自負している。

大海をしらない蛙はどこの世界にもいるものだ。

俺はこのビジネス・・・といってもグループの末端の使い捨て人員なのだが

そんな事はナガルには解らない・・・で億万長者になる、

そんな夢物語をかんがえている。

いつも通りに女たちを物色しながら視線を泳がせ・・・

ふと何かに誘われるように振り向くとそこには一人の少女がいた。

年は十二〜十八ならば何歳にでも見える。

つやつやとした黒い髪をツインテールに結い上げており

白い肌は透けるように白く、黒い髪と瞳は漆黒と呼べるほどに黒い。

黒いセーラー服に白いリボンに黒いハイソックス・・・・その少女の周りだけ

まるでモノトーンのフィルターをかけたように色味がない。

顔立ちは整っており美少女の条件はすべて満たしているハズなのだが

その表情のなさが災いしてか可愛いと思うより不思議な印象しか受けない。

見たことがない制服だ・・・もしかしたら中学生か地方の高校生かもしれない。

「あのさ・・ホストクラブって興味ない?」

ナガルは気が付くとその少女の側に行きキャッチ行為をしていた

(やべっ制服着てるのキャッチしたら店の決まりやぶってんじゃん)

高校生に限らず未成年を客とすると条例違反となるので

店では固く禁じている行為だった。

辺りを見回しホスト仲間がいないことを確認した。

もしも誰かに見られていたら「ナンパしていた」とでも言えばいいか。

声をかけた少女は無言のまま真っ直ぐにナガルを見つめ、

すぐにその大きな瞳を自分の制服に向ける。

「そっか・・・高校生だもんね・・・お姉さんかお母さん紹介してよ」

じっとナガルを見つめそのまま静かに首を振った。

「そっか・・・名前教えてもらってもいい?」

「花魁・・・」

「おいらん?って花魁?」

少女は相変わらず無表情のままくるりと踵を返し足音無く歩き始める。

「待ってよぉ」

無遠慮に花魁の細い腕を取った。

その身体は驚くほどに熱を持っていなかった。

「・・・」

無言で見つめられると蛇に睨まれたカエルのように動けなくなり

その手の力が抜ける。

「あ・・・・・」

何故だろう。心底恐ろしいかった。

あんな華奢な少女が?

その「恐れ」こそナガルがまがりなりにも持っている夢魔としての本能。

(なんだよこの女・・・)

悠然と歩いて視界から消えていく花魁を呆然を眺めただただ恐ろしさをかみしめた。


ミルク・・バラ・・・ジャスミン・・と大理石の湯船からは

甘やかな香りが立ち上っている。

ちゃぷん・・・・湯船の中のミルクと同化してしまうような

ミルク色のしなやかな肢体が湯気の中に浮かんだ。

「リリス様。花魁様がお見えです」

バス・メイドがバスローブを手に跪きうやうやしく言った。

「わかったわ・・」

鈴を転がす様な愛らしさと上質のブランデーのような妖艶さを併せ持った声色が

湯気の中を優しく泳ぐ。

プレイメイトも裸足で逃げ出しそうな抜群のプロポーション、

ミルク色の肌を柔らかく彩るはちみつ色の長い髪・・・

大きなアメジスト色の瞳が聡明そうにきらめきその顔立ちは

神の領域に達した職人が丹念に仕上げた美神の彫刻のようだ。

バスローブを素肌に纏い

「髪を結うのは後でいいわ。

 花魁を待たせるわけにはいかないから・・・

 ナイトドレスを持ってきて」

メイドに指示すると、その答えを予測していたような早さで

衣装担当のメイドが数点のドレスを差し出す。

その中からワインレッドのローブを選び着替えを手伝わせる。

「ごめんなさい。お待たせしちゃって」

広く豪華な応接室の真っ白いソファは花魁の黒と白の美貌の舞台として申し分ない。

「あら・・・弱い子犬と戯れてきたの?

 でもお食事はしなかったのね」

花魁の周りにかすかに残る弱い魔物特有の臭気を嗅ぎ取りリリスは微笑む。

「不味そうなノラには手だしたくない・・・・」

花魁は表情を全く変えずにぽそりと抑揚無くつぶやく。

「花魁はグルメですものね・・・で、どう?」

「小物・・・・」

あら・・とリリスはちょっと意外そうな表情をしながらも

「じゃあ花魁の夢で直接見せていただくわ」

白魚のような指を花魁の頬に当て、額同士を触れさせると二人は

催眠術にでもかかったかの様にその場に崩れおちた。


漆黒の闇は花魁の瞳の色に似ている。

ふわり・・・その闇に浮かぶ美女が二人、眼下に広がる花魁の「夢」で

先ほどのナガルとのやりとりを見ている。

「小さい姿も可愛いけれど、やっぱり花魁はこの姿の方が馴染むわ」

長い足を組み替えながらリリスは艶やかな笑みを花魁に向ける。

「でも人間界でオトナの格好していると目立つし疲れるのよね・・」

花魁・・・・さっきまでいた少女がこの短い時間で美しく成長していた。

大振りな蝶を描いた黒い振り袖をローブのように羽織り、

その合わせ目から覗く白い胸元は申し分なく成熟しており、

先ほどは少女としか呼べなかったが今は本来の姿・・・

美しい夢魔族長に戻っていた。

深紅に彩られた爪は気怠そうに闇色の髪を弄ぶ。

東洋と西洋の美女競演・・・非常に贅沢な図柄であろう。

「実行犯はこの子犬かしら?」

「おそらくね・・・・でも小物よ。

 魔力もほとんどなくておそらく寿命も人間と変わらないわ・・」

「こんなのが夢魔族にいるのが腹立たしいって感じね」

くすくす、と小さな笑いを含ませながらリリスが茶化す。

「腹立たしいわね。夢魔族の汚点だわ・・」

静かな怒りを含ませた声でつぶやく。

「それを言うならば悪魔族も同じですわ・・・・

 滝山グループに繋がっている者が最低二人は報告されてますもの・・」

自嘲気味な笑顔にも気品がある。

「小物になればなるほどに人間と同じくお金で動かされてしまいますものね」

さらりと花魁の闇色の髪が指から舞い落ちる。

「私たちcreatureにとってそもそも人間の経済通貨なんて全く持って

 意味をなさないモノなはずなのに・・・・」

「リリス、これはもしかしたら新たな価値観なのかもしれない。

 今後こういったケースが増えていくかもしれないわ。

 魔界に住むには弱すぎる底辺のcreatureたちはどんどん人間界に移住して

 その世界に順応していき人間じみた考えを持ち始めてくるわ。

 そうなった時・・・従来の異種族間協定だけでは裁けなくなってくる・・」

「そうね・・私たちも人間界は観光程度でしか見たことないですし」

眼下では小さな花魁がナガルの無遠慮な手をさらりと落としその姿を舞台から消している。

「人間界に詳しい・・あの二人に助力を求めるしかないのかしら?」

もう数百年も異種族間協定会議に参加していない「不良族長」たちの顔を

思い浮かべる。

「・・・ったくあんの馬鹿男どもがっ」

リリスのその薔薇色の美しい口唇から全く持って不釣り合いな

罵りの文句が吐かれる。

「全くね・・・」

そんな姿を見慣れているのか花魁はさして気にも留めずに頬杖をつく。

不良族長・・・かぁ・・・

花魁の頭に京介の穏やかな笑みが思い出される。

京介に初めて逢ったのはまだ花魁が小さな頃、どこかのパーティーでだった。

きらびやかな紳士淑女たちの会話・・・ところどころであがる嬌声・・・

でも幼かったので大人達の会話に飽きてしまった花魁はふらふらと

どこかの部屋のドアを開けてしまった。

運悪くそこでは悪魔族の伯爵とその情婦がコトの最中だった。

「なんだ、お嬢ちゃん混ぜて欲しいのかな?」

「おやめなさいな、ほら怖がってるわよ」

ベッドの上で睦み合っている男女は笑いながら花魁に

品定めするような視線を向けた。

まだ小さかった花魁はただただ怖くて今にも泣きそうになりながらも

その場を動けなくなってしまった。

「ほぉら、みーつけた」

そんな花魁を優しく抱きかかえ

「すみません、このコと隠れん坊してたんですよ。御邪魔しましたー」

さっさと部屋をでていった。

突然のことで呆然としている花魁に京介は

「大丈夫だった?怖かったかな?」

と優しい笑顔で花魁を降ろしてくれた。

「パーティーでは不用意に部屋開けるとあんなことになってるからダメだよ」

ほっと気が抜けて涙を流しはじめた花魁に

「びっくりしちゃったよね、よしよし。

 あっちでアイス食べようか?」

親切にも面倒を見てくれそのまま親の所まで連れて行ってくれたらしい。

『らしい』というのは安心しきってしまった花魁は

途中から京介に抱っこされたまま寝てしまったのだ。

後で親から京介のことを聞いてあの親切な紳士が吸血鬼族長だと知った。

その後美しく成長した花魁は胸の内を明かすことなく京介のことを気にかけている。

何もしないけれど・・・・。

異種族間の恋愛・婚姻は禁止されてはいないが影響が大きすぎるとの理由から

族長どうしは固くその関係を禁止している。

どんなに望んでも京介との関係に未来はないのだ。

お互い相手の気を引き食餌とする種族同士・・・二人は似すぎている。

花魁はそのことを十分に理解していた。

ただ京介が元気ならそれでいいわ。

あの不良族長が・・・・花魁はリリスとは違う闇を見つめていた。


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