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CREATURE  作者: 三月やよい
14/31

13.疑惑

バーバンクール飲んでみたいですねぇ

首都高速を抜け横浜線に乗った。

流れる夜景たちはほんの百年前には想像だにしなかった風景だった。

Creatureは暗闇によって視界が悪くなることはない。

人間よりも視細胞の桿体も錐体もその量が格段に多いのだ。

よって暗闇を照らす「灯り」という発明を必要としなかった。

また、免疫能力も自己回復能力も人間のそれとは較べられない程

発達しているので「医学」を研究する者もほとんどいない。

常に人間の文明を発達させる起動力となっている戦争もcreatureにとっては

純粋に魔力・腕力を使ったシンプルなものなのでそれ故に

科学が発達することもなかった。

必要は発明の母とはよく言ったものだ。

人間はその脆弱な身体を補う為に医学・科学が発達してきた。

一人では弱く食物を得るのも困難なので徒党を組み文化文明を築いていった。

種族としてどちらが優れているかはわからない。

しかし自然淘汰の意味では地球は人間のモノとなり

creatureたちは魔界に追いやられていった。

それが答えなのだろう。

美樹とお茶をした後に家まで送りそのまま、また高速に乗った。

ジムの宿泊ホテルは、夜景を楽しむのには十分だが都内から車で行くにはいささか不便な横浜湾岸にあった。

「なんでまたこんな辺鄙な場所を選んだんだ?」

「俺が選んだわけじゃないよ。

 顧問している会社の系列だから仕方なく・・・ね」

窓からは横浜のきらびやかな夜景と黒い海の姿が一望できる。

「・・・人間はすごいな・・・」

高速道路で想ったことを改めて口にする。

「そうだな、こっちの便利な生活に慣れると魔界に戻るのが億劫になる」

ネクタイを取ったジムが昼間よりも幾分疲れを伺わせる表情で返す。

「しかし豪勢な部屋だなぁ・・・さすが敏腕弁護士様」

「日本の大地主様が何言ってるんだよ」

「昔住んでいて使わない土地を貸しているだけさ・・・」

「日本各地に土地持ってるんだろ?」

「まあね、昔は一カ所に長くは居られなかったし。

 今も一カ所にいるのはせいぜい10年くらいだがな」

「まだ大学渡り歩いているのか・・・京介は勤勉だよなぁ

 俺はスクールを早く出たくて仕方なかったよ」

「実験楽しいしね」

変わらないな、京介は、と肩をすくめてルームバーのキャビネットを開け

「バーバンクールあるけれど飲むか?」

中を物色し京介の好きなラム酒をだしてくれる。

「ルームバーまであるとは嫌みだなぁ・・じゃあ、いただこうかな」

「生憎良いライムは手に入らなかったんだが」

「良い酒はそのままで十分だよ」

「じゃあ俺はブランデーにしようかな」

ホテルのルームバーにしては酒の種類もグラスの種類も悪くはない。

ジムはバースペースでオールドファッションド・グラスに

ロックアイスとラム酒を自分用にブランデーグラスを用意してくれる。

「飲酒運転は日本でも罪になるんじゃないのか?」

勧めておいて茶々を入れてきた。

「身体の解毒機能にがんばってもらうさ」

「事故って裁判になってもお前の弁護はしてやらんからな」

そして思いついたように冗談めかして

「ベッドルーム二つあるから泊まっていくか?」

カチンとグラスを合わせる澄んだ音の後でジムが続ける。

「男と夜景の見えるスイートルームに泊まる趣味はないなぁ」

苦笑いしながら軽口をたたきかえす。

「ははは、俺もだよ。じゃあミキとなら歓迎かな?」

「まあね、彼女がOKしてくれたらね」

素直に言う。

そんな京介をジムが意外そうに

「へえ、珍しく否定しないんだな」

「まあね」

グラスをくゆらせながら京介を観察しているようだ。

「それにしても・・・彼女・・・何のキメラなんだ?」

「さすがにキメラだってことは解っても何かはわからないか・・

 セイレーンだよ」

「へぇ・・・ずいぶんとレアな材料をゲットしたんだな。

 話しはきいたことあったが初めて実物みたよ。

・・・にしてもどうしてまた?」

ジムに話して不都合になることはないだろう。

京介はかいつまみながらリキュスカの強襲、乱心したリンカーン

そして不注意により美樹が殺されたことを話した。

「それで・・・キメラならば眷属として管理さえすれば

 妻として娶らなくてもいいからな・・」

その言葉の裏に京介の過去の女性たちを思う節があるか否かはわからない。

しかしジムは遠くを見るような瞳を黒い海に向ける。

「お姫様が目覚めたらそこには選択権が全くなく旦那が決まってました、

 なんていやだろ」

「死んじゃっているよりはいいんじゃない?」

「究極の選択だなぁ・・・・まあ、あと一番の理由は

 彼女を・・普通の女の子を・・・

 俺みたいに人間を食す生き物にしたくなかったんだ」

美樹の愛らしい唇が人間の首筋に食らい付くところなんて考えられなかった。

本来ならば普通の女子大生としてこの後、就職活動に悩み

OLにでもなって適齢期になったらどこかの男性と甘い結婚をし、

数年したら郊外の家で可愛い子供におやつを作る優しい母に・・・

と普通の人生を歩めるはずだった。

それを偶然通ってしまった時に偶然、結界も張らずにcreature同士の

戦いをしてしまった・・・。

「京介・・・顔色悪いぞ・・・」

「血色の良い吸血鬼なんて茶番だろ?」

「全く・・・相変わらず血をあんまり吸ってないんだな・・・

 それなのにあんな極上のキメラなんて作ったらそのうち倒れるぞ」

キメラ作成にはかなりの魔力を必要とする。

その量は吸血鬼族長と格される膨大な魔力を持つ京介の身をもってしてもなお

負担となる程だった。

「一人から死なない程度もらえばすむ事だろ?」

「もらう相手が出来たらね」

ラムの甘い香気を吸い込みながらジムから目をそらす。

「あのこは・・・美樹はどうなんだ?」

「殺しちゃったうえに食餌にするなんて胸が痛むよ」

「恋人になるまで手出さないってことかぁ・・・

 全く、お前そゆところは変わったな」

まぁ、悪くはない変わり方だがな。

ジムは小さな笑みを浮かべながらブランデーをすする。

「で、ジム。わざわざ昔話するためだけに呼んだんじゃないんだろ?」

「・・・まぁね。それだけだったら良かったんだが・・」

ジムは大仰に肩をすくめアタッシュケースからノート型パソコンを取り出し起動させる。

キーボードの上をすべらかに動く長い指は典型的なホワイトワーカーの指だ。

何かを打ち込んだ後、ジムはモニタを京介に向け切り出した。

「全米各地でここ1ヶ月間、3人の行方不明者がでた。

 まぁ、それだけじゃあ悲しい事にアメリカで特別な事件って訳じゃない」

モニタにはプロムの写真だろうか?着飾ったハニーブロンドの若い女性が

ぎこちない笑みを向けている姿、ヨットの上で撮ったと思われる少年の

あどけない笑顔そしてブルネットの髪を結い上げて緊張気味に

カメラに向かっている少女が映し出される。

「これがその被害者たち?」

「そうだ・・・みんな財界・政治界有力者たちの子供だ。

 よって当初、この事件は身代金目的の誘拐だと考えられていた」

しかし・・言葉を切り、ジムはもう一枚の画像ファイルを開いた。

「彼女はジェシカ・ボンド。ある財閥令嬢だ・・いや、だった」

「だった?」

画面にはストロベリーブロンドに深い青の瞳が神秘的な美少女が

魅力的な笑みを浮かべている。

「彼女はフレミング男爵の屋敷で発見された。

 頭部のみ・・・」

凄惨な話題にこの美少女はふさわしくないと思う。

彼女は魔界で悪魔族の有名な放蕩男爵になぐさみものにされた後

喰い殺されたのだろうか?

しかしなぜ?

「彼女はフレミング男爵と契約したのか?」

「いや、調べでは彼女がオカルトに興味を持っていたとの証拠はでてない」

「ジム、何で捜査状況まで詳しいんだ?コレは人間の事件なのか?

 それともcreatureの事件なのか?」

京介は核心をついた。

ただの営利誘拐ではなく魔族絡みなのか?

なぜ財閥令嬢が魔界の男爵の家で惨殺されていたのか?

こめかみを揉みながら考えを巡らせる。

「ズバリ言ってこの事件には人間も魔族も両方絡んでいると思う。

 フレミング男爵を告発した男は吸血鬼族の自治体会長マクレガー

 伯爵だ。彼はフレミング男爵のパーティーで見慣れない人間がい

 るのを知り独自に調べていた・・・

 そして発見した時にはもうジェシカは・・」

マクレガー男爵の正義感溢れる顔を思い出した。

京介は一族に転身させるでなく人間の妻を娶り、

子をもうけたあのマクレガー男爵が結構好きだ。

前代の吸血鬼族長は転身無しでの他種族との婚姻を決して認めなかったが

京介の代ではそれを認めた。

一族の純血なんてものにそれほど価値があるとも思えなかった。

しかしおそらく前代は一族の純血うんぬんよりも混血によってより強力な種が

生まれることを危惧したのだろう。

確かにマクレガー伯爵の子息は知力・体力ともに素晴らしくその魔力も

計り知れない「何か」があったがそれをおそれて何になる?

吸血鬼族長という地位に何の執着もない京介はもしも

マクレガー伯爵Jr.純一が京介に謀反を起こしたら喜んでその席を明け渡すだろう。

もっとも、今のところ親友の一人と言っても過言ではない純一が京介と

仲違いする理由は見あたらないのだが・・・

「マクレガー伯爵の調べによると人間と生命のやりとりを承諾する  

 契約書は発見されなかったということだ。

 そしてフレミング男爵は『この女は買ったんだから俺がどうしようと罪にならない』と

 主張しているらしい」

「買った?人間および奴隷売買は異種族間協定によって禁止されているだろ」

「ああ、異種族間協定では・・な。でもあの協定に批准していない種族からの

 購入にかんしての言及はない」

「批准していない種族・・・まさか・・・・」

からん、グラスの中で氷が溶ける音が異様に大きく響く。

「人間がジェシカを売ったのか?」


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