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明日も、ふたり -終わった世界で今日もごはんを食べている-  作者: 暁輝


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【07】キノコ煮込み


 ◇


 悪夢に魘され跳び起きた。肩で息をし、喉が渇いた。

 汗がびっしょりと体に纏わりついているような不快感。

 顔と、口の中に違和感があった。医療用のフェイスマスクが付いている。

 そして青っぽいプラスチックの管が舌の上にあったのだ。


 暴れるように剥ぎ取って、力任せに手を伸ばした。

 ドーム状のカプセルの中に私は居て、どんどんと叩くとカプセルは外れた。

 転げるように外に出た。


 呼吸を整えて、カプセルの中を見ると……黄色い、半透明な水が溜まっていた。

 そこに私は浸かっていたんだ。

 どうして浸かっていたのか、記憶を手繰れば──赤い記憶に辿り着く。


 あれは悪夢じゃなくて、現実の記憶。


 そして。カプセルは並んでいた。十や二十じゃなく並んでいた。

 私は何の気なしに隣のカプセルの中を見て──心臓の下から湧き上がった吐き気を抑えられなくなった。


 吐きながら、私は九相図を思い出していた。

 人の死体が朽ちていく変遷を描いた九枚の絵だ。

 血塗相か、膿爛相か──死体の腐敗。溶解した脂肪。

 血液が体外に滲み出した状態。その夥しい光景が広がっていた。


 世界が赤くなっていったあの時。

 私が真っ赤になる直前。


 ──あの人が、私をカプセルに入れてくれた。


 きっとこのカプセルは、赤くなる世界から逃れる為に誰かが作った物なんだろう。

 なのに、何でみんな死んでしまっているんだろうか。

 私みたいに生きている人が居ないか、私は探した。


 希望を、そのカプセル一つ一つに求めていた。


 だから、見ていった。

 人体に気泡が出来てぐちゃぐちゃになった人間も、骨だけになった遺体も。悪臭が無いことが救いだった。

 それでも、次のカプセルには希望があるんじゃないか。

 そう願いながら、赤黄色に染まった肉の液体のカプセルを。

 誰かいてくれと祈りながら、恐怖に絶望した顔の枯れ果てた遺体を。


 半日が過ぎ、私の作業は徒労に終わった。


 ──かに、思えた。

 私は、見つけた。

 そこに横たわる少女を。

 最初は目を疑った。まだ……生きている。


 まだ生きている人がいた。

 安堵と同時に巻き起こるのは、この子を起こしていいのだろうか、ということだった。

 しかし、そんな考えは吹き飛ばされた。次の瞬間には突如としてカプセルが開いたのだ。


 そして、彼女はゆっくりと目を覚ます。


「……お腹」

「え?」


「お腹、空いた、でありますね」

 それが、彼女の初めての言葉だった。


 ◇



「……凄い、な。シェフちゃん……立派、だ」

「はい。ふふ、よく触って……っ、でありま、すっ」

「ああ……こんなに、立派な」

「あっ……強く触ると」

「痛むか?」

「いえ、その……──もっと、揉んで、ください」

「こう、か」

「はいっ……いい、ですっ。凄く。その──」


「……なんかさ」

「はい?」



「いかがわしいことしてる気分になる」



「な! ち、違うでありますっ! ちょっと厚手のキノコを手に入れただけです! 

キノコは揉むと香りが最大に引き出せるんであります! 

ただ強く揉むと形が崩れてしまうので優しく揉んでほしいとッ!」


 うんうん。シェフちゃんの顔は真っ赤になってる時は特に愛らしいな。

 はい。いかがわしいことを考えたキノコはしっかりとモシン様で撃ち抜くので前に出るように。……私だ。


「……しかし、野生のキノコを食べても大丈夫なのか?

素人意見だが、キノコは毒の有無の判別が難しいと聞いたことがあるのだが?」


「はい。難しいでありますよ。何なら毎日のようにキノコの種類は増えているのであります。

もしかすると私のサバイバル知識が全く通用しない可能性も無くはないであります」


 シェフちゃんの知識が通用しないだと。そしたら生きていけないぞ。


「止めとくでありますか? 心配であれば」

「いや。信じる」

「ふふ。でしたら最高に美味しいキノコを──」


「? シェフちゃん、どうした?」

「いえ。大丈夫であります。肩がちょっと痛かっただけでありますよ」

 大丈夫か? 最近、カピバラも解体したし疲れがたまってるのかもしれないな。

 シェフちゃんは、弱々しく立ち上がった。少しふらふらしているように見える。


「? 大丈夫? 熱とか」

 問うが、シェフちゃんはにっこりと微笑んだ。


「後はこのヒラタケを煮込みます。煮込む方が……その」

 質問が聞こえていないんだろうか? 大丈夫か?


「シェフちゃん。座ってていいよ。私がやる」

 様子が変だ。なんか目が虚ろな感じがする。

「え、ふふ。いいんですか。じゃあ、お言葉に甘えて……隊長、……殿」


「シェフちゃんっ!」


 倒れそうになったシェフちゃんを抱き抱えた。

 やっぱりだ。体が熱い。額に触れて分かる。

 ──熱が、ある。


 

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