【05】トランプとウノ
パキッと焚火が割れて燃える。
拾ったタイヤのホイールに腰掛けたシェフちゃんが驚いて目を丸くした。
「崩れていない建物があったのでありますか?」
「ああ。しかも病院だった」
あの曲がり角の先。
廃墟の中で見つけたのは崩れていない病院だった。
周りは全て廃墟なのに、倒れていない。
異質な病院。
「凄いであります! シェルター以来かもしれないでありますね!」
「ああ。やっぱり私たちの持ってる地図上だとそんな病院が無いから」
「きっと私たちが眠ってる間に建てられた物でありますね!」
「だね」
「ということは──私たち以外にも?」
シェフちゃんの言葉に、私は目線を焚火に向けたままにした。
病院を、私は外から確認した。
中に入ってはいないが、見当は付いた。
「……残念ながら、中には誰も居ないと思う」
「というと?」
「病院と思われるその建物は……猫に占拠されていた」
「猫、でありますか!」
「ああ。シェフちゃんは猫が好きだったか?」
「はい! 可愛くて大好きであります! 実は今日も昼過ぎに見かけて撫でていたであります!」
シェフちゃんと猫。うむ、トマトとチーズみたいにぴったり合うな。
いやそうじゃなく。
「そうか。……残念だが、あれは可愛いの範疇じゃなさそうだったが」
「? どういうことでありますか?」
「……人間に飼われてた猫だったと思うんだけどな。ただ、ちょっと狂暴そうだった」
「狂暴そう?」
そう。狂暴そうだ。
というのも……普通の猫もいた。病院の中の猫たちは小さく愛らしいサイズだ。
しかし──重要なのはその建物の中に居た猫ではない。
病院の外に居た猫。つまり、私を見ていた猫。
その一頭だけが異質だった。
何年、いや何百年か、それ以上か。
ともかく時間を経て野生化した猫。その過程でどんな種と交わったか、あるいは元の遺伝子を取り戻したか。
「……レトリバーくらいのサイズの猫がいてな」
もしかすると更に複数頭居るのかもしれない。が、あの場には一頭だけだった。
レトリバーくらいのサイズの猫。まるで豹のようだった。
きっと、あの病院の中の猫を守ってる猫だ。
それは私の直感だからシェフちゃんに言わない。
「おお。……もふり甲斐がありそうであります」
シェフちゃんはまだ見ぬ巨大猫に夢を膨らませて、手をもふもふさせている。
だが、実際のそれは見せない方が良いと思っている。
これも、伝える気はないが。
あの猫は、巨大なだけじゃない。白毛に黒い縞のような模様。薄い緑色の目。
その口元には、血が、こびりついていた。
あれは野生の肉食獣だ。
病院の前で私を真っ直ぐに見ていたのは威嚇だろう。
ただ──縄張りに踏み込まなかったから、威嚇だけで何もしなかった、といったところだろうか。
言い換えれば……あの猫は、手を出さなければ襲ってくることはないとも思えた。
「念の為、明日には拠点を移そう」
「了解であります」
「それと今日は一応、私が朝まで見張りをするから」
「なら一緒に見張りをするでありますよ! トランプを拾ったでありますので一緒に遊びましょう!」
「……それでは見張りの意味が無いのだが」
ふふ、とシェフちゃんが笑った。
「分かってますであります。ただ」
「ただ?」
「ふふ。ちょっとだけではありますが、そういうお泊り会みたいなことやってみたかったので。残念であります」
「……徹夜で遊んだりはしたこと無いの?」
「ええ。残念ながら。実は病弱だったので」
「病弱だったのか」
そのサバイバル知識で。と言うのは偏見が過ぎるか。
「意外そうという顔でありますね」
「そういう顔だな」
「ふふ。幼少期だけですがね。ただ高校ではあまり友人は出来ず、大学になってもそういう気の合う友人は居なかったもので」
いつも快活に喋るシェフちゃんだが、今回だけは少し喋り辛そうだった。
「……分かった。次の拠点を見つけたら一緒にトランプしよう」
「え、いいのでありますか!」
「ただし条件がある」
「な、なんでありましょう」
「トランプの後にウノもやること。私はウノが大好きなんだ」
ぱぁっと──まるで登りたての太陽のようにシェフちゃんの顔が明るくなった。
「はい! 是非ともやりましょう!」
「ウノも頑張って残ってる奴探さないとな」
「探すであります! ふふ。隊長殿」
「ん?」
「大好きでありますよ!」
なんかもう恋人みたいに可愛いなこの子。
と──流石にシェフちゃんもはしゃぎ過ぎたことに気付いたのか、耳を真っ赤にした。
シェフちゃんを救うかのように、太陽光四輪駆動くんの方からぷしゅーっと音がする。
あれは鍋の音だ。「こほん」と彼女は咳払いした。
「さ、さ、さてと! 鍋が沸騰しました! ので!」
「ああ。ありがとう」
「では今日の献立を発表するでありますよ~!」
湯気に混じっているこの香りは、……なんだろう。ハーブかな。
うん、ハーブだ。凄くハーブな香りがする!
「いつも通り鍋であります!」
「わーいわーい!」
◇
次回、12月24日 7時頃に投稿致します。




