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明日も、ふたり -終わった世界で今日もごはんを食べている-  作者: 暁輝


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【03】蛙の素揚げ


 ◇

 

 耳に、残る。酷く残る。

 ねばりつくような声。赤い体液。無機質なブザー。喉を割いて割れた声。

 泣き叫ぶ乳児の声。切り裂くようなサイレン。


 吐き気が止まない。


 足の裏もガラスで切った。


 耳が熱い。

 鏡を見たい気持ちと、見たくない気持ちがわっと押し寄せていた。

 心音が耳に張り付いたようだ。聞いたことのない動悸が鼓膜の中で響いていた。


 揺れた。また揺れた。

 地響きなのか何かがズレてる音なのか、建物が軋む音なのか。

 もう何も分からない。私も座っているのか落ちているのか、分からない。


 赤い。


 赤い狂乱。

 赤い阿鼻。

 赤い……絶望。


 身体から溢れる赤に、逃げなきゃいけないと思っても、力が抜けるようだった。

 何とか手摺りにしがみ付いたら、足が竦んでいた。

 動けなかった。震えている内に、地面が斜めになっていく。


 もう一度、揺れた。下から突き上げるような揺れだ。

 焦点が合わない。

 燃える赤に誰かが焼かれて、飛び散った地面の赤に吐き気がした。


 死ぬんだ。

 私も。


 そう思った時。


 誰の声だろう。分からないけど。


 誰かが、私の手を──。


 ◇


 ──握っている。


 小さな手。私よりも一回り小さい。


 この小さな手で鳥の羽を毟ったり料理したりするのだから、凄い手だと改めて実感する。

 丸っこい爪、もちもちとした肌。


「あの、隊長殿。……そんなに手をまじまじと見られるのは、その、少し恥ずかしいであります」


「……シェフちゃんの手、可愛いと思ってな」

「や、やめてくださいでありますっ。ほら、早く起きるでありますよ!」

 耳まで赤くしたシェフちゃんが私の手を振りほどいて起き上がった。


「もう朝なのか。まだ眠っていたいが」

「駄目であります。規則正しい生活しないと体を壊してしまうでありますよ」

 シェフちゃんとかけまして、冬の日差しとときます。

 その心は。どちらも朝、厳しいでしょう。

 ……一つ欠伸をしてから私は伸びをして起き上がる。


「久々にテント張ったから、もうちょっと寝たいなあ」

 いつもは我らが移動手段の四輪駆動くんの中で寝ている。

 かの車である。太陽光四輪駆動くん。

 彼は悪路でも快適だが眠るのにはそこまで適していないのだ。後、雨の日はとんと動かなくなる。


「だーめ、であります」

「ふぁーい」

「それに料理の支度がもう出来ているであります故」

「ああ、そうなんだ」

 よく見ればシェフちゃんはいつもの水色のエプロンだ。

 ……そうか、料理が出来たから起こしに来てくれたのか。


「シェフちゃん」

「はい?」

「……私は寝てる時、何か言っていたかな?」

「? いいえ。何も言ってなかったでありますよ?」

 間は無かった。完璧な笑顔で返された。


「そう、か」

「それよりも、朝ご飯、早くしないと冷めてしまうでありますよ!」

「おお。それは一大事だ。シェフちゃんの朝ご飯はどれも美味しいからな」


 シェフちゃんの作るご飯は全て美味しいのだ。

 朝昼晩間食込みで、マジで全て。


 あのウシガエルでさえ、美味しく作ってくれたのだ。


 実は──シェフちゃんには話していないが、私は蛙が苦手なのだ。

 味ではなく、見た目が、である。


 独特なフォルムに、何とも言えない顔立ちが、どうにもこうにも……辛いのだ。


 出会った当初にシェフちゃんが作ってくれた『蛙の素揚げ』。

 味は……確かに、美味しかった。

 鶏肉に近い味。固め触感。味付けは塩と野生のハーブで程よく爽やかだった。

 

 しかし、見た目が問題だった。

 素揚げなのだ。素揚げ……だから、その。……蛙そのもの。じゃないか。


 ……勿論、食事を苦手だからと残すことはしない。

 あの時は無心になってガッツいて食べたものだ。

 人生で一番早く食事を済ませたのはあの日だろう。あの瞬間だけなら大食い選手権にも出られただろう。ああ懐かしき12チャンネル。


「隊長がお好きな物にしておきましたであります!」

「なんと。楽しみだ」

「はい! 以前、あれほどガッツいて食べて下さったのが嬉しく覚えておりまして!

今日は朝から大量に捕まえることが出来ましたのであります!

ささ! 同じ物を山盛りでご用意したであります! お召し上がりくださいませ!」



 ばばーん。


 ……それね。勿論、大好物だよ。


 蛙の素揚げ。うん。






次回、12月22日 7時頃に投稿致します。

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