【01】隊長殿とシェフちゃん
呼吸を捨てる。
吐き切って止める。瞬目も忘れる。
草のように、そこにあるだけの存在になる。
そうしていると、自分を自分の上から俯瞰して見ているような、そんな気分になっていく。
円形の視界を覗き込む自分と、飛び立つ前の標的。
後は、この指に力を入れる。
それだけ。
身体を走る衝撃と、雷のような銃声。
よし。当たった。
今度は前に獲ったトンビとは違う鳥だ。
……撃つ前に、もっと考えておくべきだったけど。
この鳥、大丈夫か。
嫌にカラフルだ。頬が赤いし首は青い。胴が毒々しい緑なのに、羽はちゃんとした白っぽい色……。
異世界から迷い込んできた鳥みたいだ。本当に日本の鳥かな……。
また食べれない鳥だったらシェフちゃんに怒られてしまうかな。
とはいえ、獲った訳だし、シェフちゃんに見て貰おう。
駄目なら駄目で釣餌にでもしてしまえばいいし。
寝そべった体勢から私は立ち上がる。
うん。少しやり辛かった。やっぱり座って撃つ方が私に合ってそうだ。
次からは前みたく座って撃とう。
1891年式3リーニャ小銃を肩に掛ける。
ジーンズに付いたちょっとした土を払いながら、空を見上げた。
今日も空は青白く透き通っている。
冬は始まったばかりだ。
だが風はもう冷たく思える。
それにしても。
──私は、私が撃ったカラフルな鳥を見て頬を掻く。
やっぱり変な鳥だなぁ……。
◇ ◇
【 明日も、ふたり 】
-終わった世界で今日もご飯を食べている-
◇ ◇
「隊長殿! これはキジでありますよ!」
ボンネットにビニールを引いて、そこにデンと置かれているのは、かのカラフル鳥。
頬は赤く首は青く、胴は緑で、羽は白。そんな不思議な鳥。
「キジ」
なるほど。キミの名はキジだったのか。
何世代か前の一万円札の裏側に書いてあった鳥だ。
名前を知ってこそいるが、本物を見たのは初めてかもしれない。
「そうであります! キジ目キジ科キジ属のキジであります! よく仕留められたのであります!」
先程から鼻息荒い少女、もとい、シェフちゃんは今日は更に元気だ。
いつもテンションが高いが、今日は更にアクセル全開のご様相。
両手も楽しそうにぶんぶん振り回している。
「そんなに良い獲物なのか?」
「もちろん! 最高の獲物でありますよ!
一流のホテルのメインディッシュにも採用される程に美味でありますゆえ!」
そうなのか。
この喜びよう……出会った当初の猪以来な気がする。それ程までに良い獲物だったのか。
ふと私が困惑しているのを見て取ってくれたのかシェフちゃんは「興奮し過ぎました、鮮度優先でありますね」と微笑んでからゴム手袋を取り出した。
そして──。
「いざ」
大胆、豪快。なんと表現すべきか。
失礼千万で表現するなら、もう髪の残機が少ない男性の毛を鷲掴むような。
そして躊躇いなく引き千切る……ぅ。
「……は、羽をそんな毟り方するのか」
「? 毟らなければ食べられないでありますよ?」
「それは……そうだが」
「あ、後、隊長殿! 念の為、さっき張ったテントの中にアルコールがあるであります!」
「う、ん?」
「アルコール除菌をしてきた方が良いであります。
野鳥は知らない病気がくっ付いているかもしれないでありますから」
そうなのか。
そういえば昔、鳩を追いかけた時、やたら親に注意された記憶もあるな。
そうか、知らない病気が付いているかもしれないのか。
「はい」
「その間に毟っておくでありますよ」
「……でも流石に手伝うよ」
「いえ、隊長殿は──狩ってきてくださったので、大丈夫であります! それに」
きらきらとした笑顔でシェフちゃんはキジのお尻の長い羽に手をかける。
ゆっくり抜いているからこそ、それが痛そうだ。もう見てられない。
「隊長殿! 隊長殿は狩り、私は料理!
お互いの得意分野を活かして生きようと取り決めたじゃないでありますか!」
「それも、そうだけど」
「ともあれ、少し休んでていいでありますよ! ふふふ~。
私が美味しい料理を作っておきますゆえ」
「そっか。楽しみにさせてもらうね」
「ええ、隊長殿。ふふ~、料理が出来るまで覗いてはいけませんよ」
「シェフちゃんの恩返しかな?」
しかし、そう、だね。うん。
「我ながら弱い神経で申し訳ない。悪いけど休ませて貰うとします……」
「隊長殿、無理しなくていいでありますよ!
無理せずお互い、ゆっくりしたペース。それが──私たちらしいでありますから」
「そう、だね。そうするよ」
目を合わせて笑い合う。
それが、私たちの、私たちらしさだ。
「あ、それはそれとして、アルコール除菌は忘れずに。
面倒でも、そのまま寝るのは絶対NGであります」
「……はい」
◇
次回、16時過ぎに投稿致します。




