08 小さなバケモノ、ふにゃってます④
セレスティア宮廷、東の回廊は陽の光が窓から差し込まれ、影が伸びる。
そんな中をリフィナと毛布の毛玉が歩いていた。
「……おかーしゃん、次どこいくの……?」
「ユールさん、未だに布切れ一枚じゃないですか。それでは当然寒いですので、衣装を取りに行こうかと。あ、もちろんオーダーメイドにするつもりですよ」
リフィナの言葉にユールの星の目がきらりと輝いた。
「おようふく! ……オーダーメイド?」
「はい。ずっと毛布は歩きにくいですからね」
リフィナはユールの手を軽く取る。
ユールは一瞬ビクッと震えた。だが、すぐさま頬が蕩け、ぎゅっとリフィナの手を握る。
「ふにゃ、おててつなぐ!」
ユールは意気揚々とした顔で、足取りが軽やかになっていった。
リフィナの方に視線を向けて、ユールは希望を漏らす。
「ユール、かわいいのがいい……!」
「もちろん、可愛いのを用意致しますよ」
衣装室に着いた。
白と金の優美な部屋に、ずらりと並べられた衣装たち。
その中心で、ふにゃ玉がキョロキョロと見渡す。
「ここ、すごい……!」
毛布を引きずったまま、ユールはよちよちと前へ。
そこには、リボン・レース・ふわもこ……夢の世界が広がっていた。
「ユールさん、こっちですよ」
リフィナの言葉にユールはぴんっ、と反応した。
衣装室に隅。そこに、一際目立つ金糸の暖簾が下がっていた。
「ここは私の専属デザイナーのアトリエになります」
リフィナがその先を指差すと、ユールはちょこんと首を傾げる。
「おようふく、つくるとこ……?」
「そうです。ユールさんのためだけに作る、世界に一つの服ですよ」
布団みたいな毛布を引きずりながらユールはぽてぽてと進む。
そして、部屋に入ると———
「わぁ……おようふくの山……!」
そこは、まるで魔法の工房。
壁には布のロールがずらり。
リボン、ボタン、レースにビーズ、刺繍糸が虹のように整列。
中央には作業台。そして……その向こうにいたのは———
「うおおおおおおおおお!!殿下ッ!!!」
爆発したかのような声とともに飛び出してきたのは、
銀髪逆立つ、眼鏡をかけたメガテンションアラサーお姉さんだった。
「ミレイユ=クラフトワーク! 皇女専属仕立て師、ここに参上ッ!!」
「いつものテンションね。はい、落ち着いてください」
「で!? で!? その子が!? 話題のふにゃバケモノ!? 新たなマネキン!? ふにゃふにゃマネキン!?!?」
「ユールです……ふにゃじゃないもん……」
即座に毛布にくるまるユール。
だが、ミレイユは爆速でその前にしゃがみこみ、まじまじと観察を始めた。
「ほほう……なるほど……ちっちゃい……毛布似合いすぎ……星の目ぇ……こりゃ……」
「こりゃ……?」
「天才デザイナーの血が騒ぐ!!!!!」
次の瞬間、ミレイユはロールの山から布を10枚抱えて戻ってきた。
「いいかいおチビちゃん!! 今から君にピッタリな服を考える!! テーマは『ふにゃでも姫でもない何か』だ!!」
「なにそれぇぇ!?」
そこからミレイユの早口モードが始まった。
「まず生地は最高級もこもこフリース! でも通気性大事! 裏地は極薄シルク! でも可愛くなきゃ意味がない! 星柄入れます! 耳つけます! リボンも! でもやりすぎ注意!」
ユールは圧倒されながら、ポツリと呟く。
「ユール、猫耳ほちい……あと、尻尾もほちい……」
不安げに揺れる星の瞳。細かく震えるまつげ。毛布にすぐにでも逃げれるようにぎゅっと抱きしめている。
ミレイユは、その子猫と目があった。彼女の肩はわなわなと震えている。その瞬間———爆発した。
「最高かああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
背中から虹色のオーラが噴き出した。
壁の生地がバサァと風にたなびき、棚のリボンが全色ダンスを始めた。
目がキラッキラになったミレイユは、ユールの周りを3周しながら叫ぶ。
「それ最高!! 猫耳? 尻尾? あざとい!! あざといけど、可愛いさマックス!!」
爆発した彼女の顔色は、なぜかスンッ、とした。
「皇女殿下。私、思うんです。ローブのフードの裏側に、肉球をつけるのは天才的かと。そして! ポケットの部分をうおもっちの形にするのはどうかと!!」
あまりの熱量に、リフィナは反射的に半歩だけ後ろへ。
その動きをミレイユはまるで追い風のように飲み込み、さらに迫る。
まるで勢いだけで身長差をねじ曲げるかのようだった。
「そ、そうね。すごくかわいらしいと思うわ……」
「でぇすよねぇ!? よし、その方向で作りたいと思います! 半日で仕上げて見せます!!」
ユールはリフィナの桃色のドレスを掴む。
「……おかーしゃん、あの人、へんじんしゃん?」
「……否定はしないけど、言葉遣いには気をつけましょうね」
リフィナは小さく息をつき、唇の端をわずかに持ち上げた。
その表情は、どうにも呆れを隠せない——でも、どこか優しさの滲んだ苦笑いだった。
※※※
そして、半日後———。
セレスティア宮廷、東棟のバルコニー付きの応接室。
マジックアワーが差し込み、窓には紺色と茜色の狭間の間を、数羽の鳥の群れが飛んでいた。
「お待たせしましたっ!」
元気いっぱいの声と共に、部屋の扉がパァンと勢いよく開く。
その瞬間———そこにいた全員の視線が、一点に吸い寄せられる。
ふわり。
純白の汚れ無きローブがふわりと動き、フードの上には柔らかい猫耳がついていた。よく見ると、フードの内側に金箔の肉球が存在感を放っている。
胸元の留め具には桃色のリボンがその姿を強調し、その中心には大きな星が堂々と構えている。
裾は波のようなレースがひらりひらりと揺れている。
ポケットにはうおもっちの形に成されていた。
そして、なおかつ後ろ。
ふんわりと柔らかく、そしてもこもことした白い尻尾が可愛らしさを増していた。
「ふにゃあああああ!」
勢いのまま飛び出した姿は、まるで感動した子供のよう。出来上がった衣装を自身の体に当てながら、ユールはリフィナにドヤ顔を披露した。
「……」
リフィナは声を発さなかった。だが———瞳の奥は燃えたぎる炎。
(か、か、かわわわわわわ……!!!)
リフィナが何も言わないため、ユールは首を傾げる。
「ふにゃ……おかーしゃん、ユール、にあわにゃい?」
その問いに電撃が走るような感覚を覚える。
リフィナはミレイユの方へ目線を向け、静かにサムズアップ。
「ミレイユ。あなた、昇格しない?」
「え?」
「私の娘がこんなにも可愛らしいのにさらに天使になってしまったからそのお礼よ」
息継ぎを忘れるほどの早口に、ミレイユは一瞬目を見開いた。だが、すぐさまニヤリと口角を上げる。
「っしゃあ」
ガッツポーズをキメたミレイユは、すぐさまアトリエ方面に向けて踵を返す。
「次は春コレです! 夏用も考えます! いやオールシーズンで七変化ユールコレクションいきましょう!!!」
その声が遠ざかる中、ユールはリフィナのスカートの裾をちょんと掴んだ。
「おかーしゃん、ユール……可愛い?」
リフィナの眉がぴくっと動く。
「———可愛いなんてもんじゃありませんわ!!! むしろ法律違反ですわ、その可愛さ!! 多分私がこの子を産みました。じゃないと説明がつきません。ええ、ええ。私がこの子の母親です。はい。———異論は認めません!!!」
ユールはビクッと肩を震わせ、半歩下がる。
「ふにゃ……おかーしゃん、こわれちゃった……」
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うおもっちはたい焼きをイメージしたものです。たい焼きはふにゃの世界にはないので、読者の皆さんが想像しやすいように補足を書きました( ̄^ ̄)ゞ




