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小さなバケモノ、ふにゃふにゃしてます。  作者: 赤羽月乃
二章 小さなバケモノ、メイドになる
11/16

10 小さなバケモノ、メイドになります②


 記録保管室の扉が、軋む音と共に開いた。


 中には埃を被った棚がいくつも並び、聖燈せいとうの暖色が沈黙する室内を照らしている。

 騎士団が主に関わった事件の記録の数々、機密指定の代物。全てが静かにその存在を放っていた。


「こんなに……ですか」

「当然だ。———村の壊滅の件も、大きな事件の一つになっているが、特に最近起こってる事件も混ざっている」

「……最近起こっている事件?」


 シャルロッタの疑問の声に、ロシュは一つの本を手に取る。

 分厚い本を捲ると、ここ直近で起こった事柄が記録されていた。


「あぁ。……本来なら、騎士団以外に知らせるのは御法度なんだが———まぁ、殿下のメイド長なら仕方ないな。他言無用で頼むぞ」


 ロシュは資料のページに指を滑らせ、古びた紙が微かに軋んだ音を立てた。


「———村の壊滅事件ならここだな」


 ※※※


 【簡易現場報告書】

 神歴1605年 記録者:フリュエル騎士団 第四小隊所属 レイン=ハルト


 ◼️報告対象:帝国南部カナル地方。無名の小村


 ◼️概要

 騎士団、村からの連絡途絶とぜつを受け現地へ。到着時、村はすでに壊滅状態。


 ◼️現場報告

 ・家屋かおく多数崩落、外傷・血痕・遺体、ざっと80名。

 ・村の中央部分に強力な魔力痕と焦げ跡。


 ◼️生存者

 魔法が発動した付近に一人の少女を発見。

 彼女の手元には魔導書、ひどく怯えた表情、肌に傷痕と火傷痕を発見。

 彼女から滲み出る魔力の波と、外見が星魂族ヴェスティアの特徴に似ていたため、保護及び本部へ報告。


 ◼️備考

 少女は空中に向かって謝罪。対象は見えず。


 ◼️結論(仮)

 ・村壊滅は少女によるものか。

 ・敵影なし


 ※※※


 ページの文字列に目を通したのち、シャルロッタの指が止まる。

 視点も同じく、ゆっくりと一点を見つめた。

 

(……まだ詳しいことが知れていない。でも、少女は空中に向かって謝罪———もしや、幽霊に対して? それに、怯えた表情で魔導書を構えてた? ……断定はできませんが、この村壊滅事件。どうやら———あの子の心を揺さぶる何かが起きたことによって、感情が暴走したものだと、考える方が自然そうですね)


 ユールの姿を思い浮かべながら、シャルロッタは深く、どこか寂しげに息を吐いた。

 そして、目線をロシュの方へ向けた。


「ロシュ団長。———おそらくですが、あの子猫をバケモノと呼ぶには該当しないかと」


 彼女の一声に、ロシュの眉が反応した。

 彼は静かに目線を伏せ、口を開く。


「それは俺も思う。あの子猫、敵意がない。むしろ、俺たち大人を怯えている野良猫だ。……あ、いや、今は殿下のペットだったな」

 

 彼のその言葉に、シャルロッタは口角をわずかに上げた。


「ペット扱いはひどいのでは?」

「……あれはもはや猫の生まれ変わりだろ」

「否定はしませんけどね」


 そう言って、彼女の頬はわずかに上がった。それを見つめる彼の瞳は微量ながらに目が細まった。

 そして、この静寂を包み込む資料室の中では、ユールを思う陽だまりが増えていくような温もりがあった。


 ロシュの言葉が終わったところで、資料の中に、シャルロッタの目線が止まる。


「……そういえば、先ほど『最近起こってる事件』と仰っていましたよね」

「———あぁ、それか。『幽霊事件』と言われているやつばかりだな」

「……幽霊事件?」


 シャルロッタの瞳が細まる。

 ロシュは本を閉じ、それをそのまま本棚に直した。


「ところで、ずっとここで油売ってていいのか? さっさと戻らないと、昼休憩終わるぞ」

「……そうですね。分かりました、ありがとうございます」


 見本ある礼を披露し、シャルロッタは規則正しい足音を廊下に響かせた。

 彼女を見送ったあと、ロシュは部屋の扉をゆっくり閉め、廊下の先を見つめる。


「———大変だな、あのメイド長も」



 ※※※



 夜20時。

 曇天の雲が夜空の海を覆い、なんだか空気はどんよりとしていた。

 シャルロッタは、ノックを数回鳴らす。


「殿下。ロゼリア・ティアをお持ちいたしました」


 執務室の扉を開ける。

 視線に飛び込んできたのは、何かの真似か、毛布に包くるまったユールがリフィナの頭上で丸くなっている。

 

「あら、ありがとう。シャル」


 なんの違和感もないのか、それともただの親バカなのかなんて事のない普通の顔をしているリフィナ。

 羽ペンを滑らせる音と、壁掛け時計の秒針が静寂を支配している。


「……殿下、こちらに失礼します。粉砂糖はご入用ですか?」

「んー、そうね。いるわ、ありがとう」


 ティーカップを置いた音に反応した毛玉が、ゴソゴソ動く。眠たげな目線がシャルロッタを見つめた。


「ふにゃ……ちゃるろった、ユールミルク飲みたい……」

「すぐに用意いたします。それと、ユール様。そちらは寝床ではないので、降りてください」


 飼い主が子猫を抱きかかえるように、脇に手を滑らせ、ゆっくりと下ろした。


「ふにゃ……おねむ……」

「あら、じゃあユールをベットまで連れて行かないとね」


 リフィナが椅子から立ちあがろうとした時、シャルロッタがユールを正面から抱きかかえた。まるで赤ちゃんみたいだった。


「私が運びます。———殿下、後で大切なお話があります。ユール様の件です」


 リフィナの目がぴくりと動く。


「分かったわ。後でお話ししましょう」


 

 ※※※



 リフィナの寝室。

 真っ暗な部屋の中を灯ともす、廊下の聖燈せいとうが優しい温もりを連れてきた。

 シャルロッタは腕の中で眠ってる子猫を、優しくベットの上に寝かせる。


「この子、めちゃくちゃ軽いですね。よく食べるのに、一体どこで燃焼を……?」


 白い毛布を丁寧にかけ、シャルロッタは寝息を立てているユールを見つめる。

 シャルロッタの指先が、ユールの髪に優しく触れた。銀糸に指先が通り、まるで糸みたいに繊細だった。


「……この子の暴走したきっかけを知るためにも、この子を見ておかないと。———本人に聞くのは、あまりにも酷だと思いますし」


 ユールの小さな手のひらが、シャルロッタの人差し指をギュッと掴む。

 まるで赤ちゃんが、母を求めて手を握るように。シャルロッタの目が大きく見開かれる。


「———なんか、守らないといけない気がしてきた」


 強く握っている小さな手を優しく離させて、ゆっくり立ち上がる。


「……殿下に報告しないと。国民の誤解を解くためにも———ユールのしたことが、許されるものとは思いませんが、それでも……この子は悪い子ではないということを」

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