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灰と汚濁と異世界と  作者: 帯川 葬


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6/11

奇襲

 

 瞼が重い。頭も痛い。床、冷てぇ。てか、なんで床で寝てんだっけ。


「ん……?ああ、そっか」


 身体を起こした俺は、辺りを見て、思い出した。


 中世風の内装。丸机がいくつも倒れ、食器が散乱し、床に眠る綺麗好きな冒険者(ラインリッヒ)たち。


 そうだ。俺、異世界に来たんだった。


「あうう。バッド今何時ぃ……?」

「知らねぇよ自分で調べやがれ……。頭いてぇ」


 隣から男女の声。カテラとバッドだ。どうやら、こいつらも今起きたところらしい。


「ジンもおはよ~……。ん?あちゃ~。みんな潰れちゃってる……」


 起き上がったカテラが、潰れて床に寝そべる仲間たちを見て、苦笑する。

 同じく体を起こしたバッドは、その光景に、頭を抱えた。


「記憶が殆どねぇ」

「俺もだ」


 思えば、宴会が始まって30分ほどの記憶しかない。異世界の酒は度数が半端じゃないな。


 ふと、窓の外に目をやる。ここに来た時の、白く美しい街並みは、すっかり闇に包まれていた。


「こいつらここで一夜過ごす気かよ」


 隣で、大いびきをかいて眠るオゴーに、俺は呆れて小さくため息をついた。


「いつもこんなんだ。ほっとけ」

「そうそう!それよりさ二人とも!!気分転換に散歩!しない???」

「散歩ぉ?」



 ────カテラの提案により、俺たちは夜の帳が下りたフーリの街に繰り出した。


 白い月明かりと、魔石が光る街灯が暗い夜道を照らしている。


 時刻は23時頃。人通りはほとんどない。昼の時とは全く違う、静かで涼しい風の吹く街に、俺は再度、異世界に来たことを実感した。


 ふと、空を見上げた。


 雲一つない。煌めく星だけがいくつも浮かぶ夜空だ。


「日本とはちげぇな」


 思わず口からこぼれる。

 それを聞き逃さなかったカテラは、うさ耳をぴょこぴょこと跳ねさせながら口を開いた。


「ニホン?それってジンのいた世界の名前?」

「いや、国の名前だ。海に浮かんだ島国で、人がたくさんいる」

「へー!!じゃあじゃあ!!ジンはそこでなにをしてたの!!??」


 そう、無邪気に目を輝かせたカテラに、俺の心臓がズキンと痛む。


 なにをしていた……か。思い浮かぶのは怠惰な自分ばかり。たいした努力もせず、長いものに巻かれ続け、流され続け、挙句の果てに21歳になってフリーター生活。そんなこと、こいつらに言えるわけがない。


「普通の……学生だよ」


 俺は身分を偽った。


 ほんの数年前までそうだったんだ……。多分、バレない……。


 嘘による罪悪感か、過去の自分への後ろめたさか、俺はなんとも情けない気分に苛まれた。


 全て自分が悪い。分かってる。でも、違う世界でくらい、なりたい自分でいさせてくれ。


「学生か~、ぜ~んぜん見えない!!ジンてばちょっとおバカそうだもん!!」


 心臓がドクンッと鳴る。バレてない……。大丈夫だ。冷静に、平然と返事をしよう。


「そ、そうか?まあ俺の知性は、お前らじゃ計り知れねーかもな」

「な~んか生意気!!」

「俺からしてみりゃカテラと同じように見えるけどな!ギャハハ!!」

「バッド!何が言いたいの!!」

「どっちもバカってことだよ」

「なっ!失礼しちゃうよまったく!!私だって色んな事考えてるのに!!まったくまったく」


 話題がカテラに逸れたことで俺は一息つく。


 その時だった。前方。建物に挟まれたその道に、五つの影が佇んでいた。

 闇色のローブを纏う五人。いや、真ん中の奴だけは紫紺色だ。顔は、フードに落ちる影で伺うことはできない。


 その異様な姿の集団に気付いた二人は、すぐに戦闘態勢を取る。


「やりなさい────」


 紫紺色の男がそう一言。刹那────、他四人がローブを翻し、音もなく、眼前に迫った。


「なっ!!」


 驚愕する俺の声をかき消したのは、ガギィンと鉄の打ち合う音。


 見ると、カテラが、四人の構えていた短剣をはじき返していた。

 それに合わせるように、今度はバッドが水の螺旋を四人めがけて放った。


「────っ!!」


 バッドの放った高圧の水流を間一髪で回避した四人は、たまらず後ろへ跳躍。後方で待機する紫紺のローブのもとへと着地した。


 唐突に襲われた。まだ、理解が追いつかない脳みそで唯一分かったのはそれだけだ。


「だれだ、てめぇら」

「酔い覚まし中に闇討ちなんて性格悪~」


 見事な連携を見せた二人は、正体不明の五人を睨む。

 すると、五人のうちの一人。紫紺のローブを纏う男が、その問いを待っていたかのように両手を広げた。


「我々は終焉教。魔女の呪いを世界へ伝播させ、魔女復活を目指す、崇高な目的を持つ集団です」

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