一掃
周りを囲むモンスターは、こちらを囲い込むように、ジリジリと距離を縮めてきている。
「あちゃ〜。ちょっと話し込み過ぎちゃったかな。え〜っと君、名前は?」
立ち上がれないでいる俺を見下ろして、少女は問う。
「仁……」
「ジンね。私はカテラ!!よろしくね!!」
「よ、よろしく。」
先ほども見た眩しい笑顔に、俺は顔が熱くなるのを感じた。熱か?
俺の、歯切れの悪い返事にカテラは「うん!」と頷く。
「よし!!じゃあジン!!私が合図したらしっかり”足に”掴まってね!それ以外のところはダメだからね、洗濯大変だから!!」
「俺、汚くないもん!!!」
お嬢さん俺の扱いが雑では!?
しかし、そんな俺の心の訴えを知る由もない彼女は、ライトグリーンの瞳でモンスターを見据える。
「くるぞ!!」
チンピラの声を皮切りに、モンスターが一気に押し寄せた。
「バッド!」
カテラの合図と同時、チンピラが弓を引くような動作を取る。すると、その腕の型に合わせて、水の弓、それと、一本の水の矢が形成された。
「言われなくても分かってんだよ!!穿つ水弓ぁ!!」
チンピラが引いていた腕を開放。解き放たれた水の矢。音速なんて生ぬるい。光速の射出を実現した一本の水の矢は、空中で扇状に数十本にも分裂し、前方のモンスターをいとも簡単に貫いた。
「魔法……」
その現実離れした光景に無意識にも言葉がこぼれた。
「カテラぁ!!サボってんじゃねえぞ!!」
「ありがとー!バッド!!後ろは任せて!!」
水の弓を下ろし雑に吠えたチンピラに、カテラはぴょんぴょん跳ねて手を振る。その度に揺れるうさ耳。
後で触っていいか聞いてみよ……。
モコモコの毛が備わったうさ耳に対して、そんなことを考えていると、チンピラの魔法に慄いていた、後ろを囲むモンスターたちが動き出した。先ほどの水の矢を警戒したのか一塊になって向かってきている。
「ジン!掴まって!!」
「え!おう!」
カテラの合図。俺は足首を咄嗟に掴む。そしてカテラの顔を見やると、おかしなことに彼女はモンスターの方ではなく、上空を見上げていた。
「加護開放『比類なき膂力』」
そう静かに呟き、少女は膝を曲げる。直後、大地が落ちた。いや、違う……!俺の体が空に上がったんだ!!
一瞬の浮遊感の後、今度は少女の大剣を先頭に、地面に向けて急降下。さっきほど味わったものとは、別次元の速度と恐怖が俺を襲った。
「おりゃああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「おああああああああああああああああああ!!助けてえええええええええええええええ!!!」
俺の絶叫をお供に、その隕石は、群れたモンスターのど真ん中に落下した。響く爆音。粉塵のように巻き上げられた灰で視界が悪い。
「ふう。スッキリ〜!」
「気が気じゃなかったぞこっちは!」
爽快な顔で体を伸ばす少女とは対照的に、地面にうつ伏せで埋もれていた俺は、弾かれたように顔を上げた。
「まったく、ジンは臆病さんだな~」
「お前がガサツすぎんだよ」
カテラに悪態をついて辺りを見回す。今の一撃によって、すり鉢状にくぼんだ大地には、ぺしゃんこに潰されたモンスターたちと、菱形の青く発光する宝石が、いくつも転がっていた。
「あの光ってるのは?」
「あれは魔石。魔物からドロップする石で魔道具の動力源だったり、武器の素材だったりに使われてて売ると高いの。汚染区にいる幻血種の魔石は特に」
そう言ってカテラは近くの魔石を拾い上げる。
「私たちの仕事はね、日に日に大地を蝕んでいく魔女の呪いを食い止めて、その呪われてしまった土地……汚染区を開放、浄化する仕事なんだ。まあ、未だに解決の糸口すらつかめてないんだけどね~……」
あははと自嘲気味に笑った彼女は、どこか遠くを見るような強烈に意志のこもった目で魔石を握りしめた。
「魔女の呪い……。この灰まみれの場所をもとに戻すって……」
本当にできるのか。喉まで出かかったその疑問を俺は飲み込んだ。
しかし、それを察したのか、カテラは再度、苦笑する。
「やらなきゃいけないんだよ。みんなのために、ね」
綺麗だ。あまりに綺麗すぎる理想だ。一体どれだけの試練が、その先に待ち受けているのだろう。想像すらできない彼女の覚悟に俺は息を呑んだ。
「さっ、魔石回収して帰ろ!!」
そう言って彼女はせっせと魔石を集め始めた。だが、俺は少しの間、その場から動けないでいた。




