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灰と汚濁と異世界と  作者: 帯川 葬


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11/11

まずは魔力から

「ここがジンの部屋だよ!!」


 終焉教に襲われた夜の翌朝。俺はカテラとココロッココにホームの中を案内してもらっていた。


「おお!日本とは違って味があるな!!」


 案内されたそこは、六畳ほどのシックな部屋で、いかにも中世といった作りをしている。


「でも本当にいいのか?俺、綺麗好きな冒険者(ラインリッヒ)じゃねぇのに部屋なんかもらっちゃって」

「いいのいいの!困ってる人はほっとけないしそれに、ジンは綺麗好きな冒険者(ラインリッヒ)じゃなくても、もう私たちの仲間だから!!」


 快活に笑って嬉しいことを言ってくれるカテラに、俺の胸が熱くなる。


「カテラ……。ハグしていいか??」

「はえ!?どうしたの!?」

「感極まって抱き着きたい気分なんだ」

「あうう……。ええと、じゃあその……。いい、よ??」


 赤面した顔で恥ずかしそうにチラリとこちらを見るカテラ。それは今までになくしおらしく可愛らしい。そして、なんともまぁいじりがいのある顔だ。


「じゃ、遠慮なく」


そう言って俺はカテラの腰……ではなく頬に手を伸ばし、そのまま指で挟んだ。


頬をつままれたカテラはきょとんと眼を丸くした後、俺のしたり顔を見て顔をさらに赤くした。


「────ッ!!本当に怒るよ!!」


 復讐成功。俺の価値がないとか散々馬鹿にしやがったお返しだ。


「くだらないやり取りですまったく。というか実際問題、ホームは広いですからジンさんの部屋くらいどうってことはないですよ」


 横からひょこっと顔を出してココロッココが言う。


「そうなのか?外から見た感じは、そこまで広い建物じゃなかった気がしたんだが」


 廊下から見る窓の外は、広い庭と向かいに同じ廊下が映っている。まるで城の中なんじゃないかと錯覚するほどの、純白の景色に俺は首を傾げた。


「フーリ様の権能ですよ。私たちが入った受付の横のドア。あれは亜空間に繋がってるんです。」


 俺はここに来る前のことを思い出す。

 確かに受付横の変に豪奢なドアを通ったが……。亜空間とは。


「じゃあここはその空間の中ってことか」

「そういうことです」

「ホームはフーリ様の権能で成り立ってるんだよ!この先に色んな施設があるの!すごくない!?すごいよね!!それ以外にもね祝福の間だったり地下だったり────!」


 先程の出来事が、まるでなかったかのようにカテラは顔を近づけぐいぐいと迫ってくる。


「わかった!わかったから離れろ!」

「むぅ、まだ全部話してないのに……!」

「あとで聞いてやるから、な?」

「ほんとっ!?約束だからね!!」

「はいはい」


 妹の相手をしてる気分だ。まあアイツが思春期に入って、速攻嫌われたわけだが……。


「そろそろ時間じゃないんですか?」


 ココロッココが壁にかけられた古時計を見てつぶやく。時刻は11時を回っていた。


「そうだった!!急がないと!!ほらジン行くよ!!」

「あ?行くって!?」


 カテラに強引に手を引かれながら俺は聞く。するとカテラは高揚を隠しきれない様子で答えた。


「決まってるでしょ!魔術の訓練だよ!!」


 ◇


 フーリホーム内、その地下施設────。


 石階段を下り、洞窟をそのまま活用したような空間に降りた俺はたまらずカテラに問う。


「魔術の練習って、なんで突然?」


 魔術。そのワードには非常にそそられるが、なんの説明もなく連れてこられて頭がまだ追いついていないのも事実。


「最初に言ったでしょ?魔術の練習に付き合ってもらうって」

「あ……」


(雑用でもなんでもするからさ!)

(そう?じゃあ、明日からジンには魔術の練習!付き合ってもらおうかな~!!)


 それはフーリに来る前の、カテラの背の上で話した内容だ。色んなことがありすぎて忘れていた。


「で、ここがその練習場所!フーリ様の結界が張られてて、絶対に壊れることはないよ!!」


 涼しい風が奥から吹くその広い空間を俺は見渡す。明かりは岩肌に取り付けられたランプだけ。薄暗いその洞窟の奥に小さい人影がこちらに近寄ってくるのが見えた。


「アンさん!!」


 カテラがその小さい人影に駆け寄る。

 俺も小走りでそれに続くと、見えたのは小さい、とても小さい。背丈1メートルほどの眼帯をつけた老人だった。


「こちら、アンポロス・エレーニア先生!私とバッドの師匠だよ!!」


 紹介された老人は俺をゆっくりと見上げてポツリと一言つぶやいた。


「混ざっとるな」

「混ざってる?」


 要領を得ない言葉におうむ返しになる。


「……ま、ええわ。お前さんの名前は?」

「え?ああ、ジンだ。一応異世界人」

「ほなジン。始めよか」


 ふいっと俺から視線を外したアンポロスは一歩下がってその杖でカテラを指した。


「カテラ復習じゃ。魔力の四大属性を答えよ」

「え!?」


 突然の質問が飛んできたカテラは動揺を見せるがすぐにコホンと咳払いして答える。


「火・水・土・風です」

「うむ」


 カテラの答えに頷いたアンポロスは俺の方を見て続ける


「今カテラが答えたように、人が使える魔力には四つの属性がある。そんでその属性を理解すれば……ほれ。」

「うわっ!!」


 杖を地面にひと突き。直後アンポロスの周囲の雰囲気が闇に落ち、その影から何体もの巨大な骸骨が這い出てきた。


 それを背にしてまたアンポロスが一言。


「魔術などお手のものというわけじゃ」


 アンポロスの赤い瞳がギラリと光った。魔を纏う歴戦の猛者の姿に、俺の体が戦慄を続ける。


「すげぇ……!」


 震える身体。落ち着くことのない鳥肌。噛み締めていないとすぐに踊り出してしまう顎。目の前に広がる光景全てが俺を掻き立てる。


常夜の骸兵(エビル・スケルタス)……。アンさんてば十芒星級魔術をこんな簡単に……」


 同じく横で震えながら、目の前の魔術にカテラは感嘆の声を漏らす。


「だがまぁ、魔法が使えんと話にならんから魔術はお預けじゃ」


 すると突然老人から覇気が抜け落ちて、先ほどまでのただのおじいちゃんの姿に戻った。周囲にいたはずの骸骨も闇も全て消えている。


「よし!じゃあまずは魔法だな!!」

「いんや。お前さんはまず魔力を自覚するとこからじゃ」


 アンポロスが杖をついて俺の元へ歩み寄る。そして───


「これが一番手っ取り早い」

「グボァッ!!」


 俺の腹目がけて高密度の大気の塊を放ってきやがった。しかも超至近距離でだ。

 

 跳ね飛ばされた俺は地面を転がる。


「おーおー。ひ弱なガキはよく飛ぶのう。ヒャヒャヒャッ!」

「───っにすんだ!!ジイさん!!」


 アンポロスはコロコロと歯が足りない口を大きく開けて笑う。そしてひとしきり笑った後、俺を見据えてアンポロスは告げた。


「そう怒るな。自分の腹に伝わる感覚に集中してみろ」


 腹……?そういえば……なんだか暖かいような……。


 自分の腹にジワジワと滞留する、痛みとも違う不思議な温度に俺は首を傾げた。


「温かいじゃろ。それは魔力の残滓(ざんし)。ワシがわざと残した魔力の欠片じゃよ。今日はそこから魔力を感知出来るようになるまで魔法をお前さんに打ち込む」

「え?」

「頑張れ〜ジン!」


 俺の間の抜けた声。それとカテラの声援が洞窟に響いたその瞬間から俺を的にした魔法の無限投球が始まった。

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