最終話 彩火の影
季節が一つ過ぎた頃。
ヒオリは一人、炉の前に立っていた。
サクマはまだ傷を癒していたが、笑顔で子どもたちの剣の稽古を見守っている。
村には再び、静かな日々が戻ってきていた。
そんな静かな日々の中、ヒオリの中で何かが変わっていた。“彩核”と呼ばれた茜色の石を、慎重に、しかし確信をもって再び加工しようとしていた。
火花が散る。茜色の石がわずかに脈動し、静かな熱を放つ。
ヒオリは新たな刀を打つ。かつてとは違う形。誰かを守るための力となるように。
炉の奥にあったかすかな光が、ゆらりと揺れて影を落とす。それはまるで声なき声が何かを訴えているようだった――
ある村の片隅、誰もいない路地に藤色の煙が漂っていた。
藤色の煙の先に男はぽつんと佇んでいた。
思い返すのはある村での茜色の記憶。
男は静かに微笑んだ。袖の奥から取り出した帳面には、緻密に記された“彩核”の観察記録が並ぶ。
「藤色、瑠璃色、茜色、これで、三つ目か……」
この“彩核”は世界をどう変えるのか。はたまた壊すのか……。
これは“意志”を帯びた結晶。人の心に火を灯し、戦を呼び、国を変える。
男の目に宿る光は、狂気とも知性ともつかぬ揺らぎをはらんでいた。
「さて、次はどんな“彩核”が物語を紡いでくれるのか……楽しみだ」
彼の声は煙に溶け、風に流れる。
この世界は、まだ始まりにすぎない。
彩核の物語は、静かに、確かに、広がってゆく――
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
“彩り”と“火”をめぐる物語を、少しでも楽しんでいただけていたなら幸いです。
この物語の余韻が、あなたの胸に小さな火を灯せますように。
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次回もまた、物語の片隅でお会いできることを願って。
――平 修