第六話 灯る覚悟の火
ヒオリの工房には、淡く茜色に揺れる光が灯っていた。
炉の前に座すヒオリの表情は、静かに遠くを見ている。目の前にあるのは、かつて彼女が鍛えた刀。サクマの血に染まり、戦いのなかで役目を果たしたそれが、今、静かに横たわっている。
村を襲った賊の痕跡はまだ残っていた。倒された賊たちの遺体は、既に村の外に運ばれているが、焦げた木の香りと血の匂いが風に混じっていた。
ヒオリは指先で、刃の表面をなぞる。
「……また、守ったんだね」
鍛冶場の扉が軋んで開く。そこに現れたのは、薬師の男だった。彼は無言のままヒオリの傍に近づき、炉の中の茜色の石を見下ろす。
「また、打つのか」
「……分からない。でも、打ちたいと思ってる」
ヒオリの言葉に、薬師は頷くように目を細めた。
「君が打たなくても、誰かが打つ。ならば、その誰かが悪意を持ってそれを振るう前に……君がその火を制するべきだ」
ヒオリは薬師の目を真っ直ぐに見て言った。
「……その火で、また誰かが傷つくかもしれない」
薬師もまた、ヒオリの視線に応えるように真っ直ぐ見返して言った。
「そうかもしれない。ただ……それは守る火だ」
ヒオリは薬師の強い視線に一瞬、言葉を失った。
薬師の瞳の奥には、どこか遠い過去を思わせる哀しみが込められていた。
「この石は……私が“彩核”と名付けた。名を持たぬものに意味を与える、それが言葉の役目だろう」
ヒオリは、小さく笑った。
「彩核……綺麗な名前だね」
「君の打つそれが、次も誰かを守るものになるように、私はそう願っているよ」
薬師はそう言い残し、静かに鍛冶場を後にした。
ヒオリは一人残った鍛冶場で、再び炉に火をくべる。静かに、茜色の光が辺りを照らす。
「……もう一度。今度はもっと守れるように」
【次話予告】
最終話 「彩火の影」――彩りの火に揺られた影は何を思うのか。
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平 修