同意のある性行為をした男と再会①
コオリは、山崎にレイプされたと警察に申告をしたから司法がレイプを認めた。
アカリは、山崎にレイプされたとSNSで自殺配信をしたから世間がレイプを認めた。
じゃあ何もしてない私はどうなるんだろう。山崎と同意のある性行為をしたことになるのか。まぁ…事実そうだ。私はあの日、警察の前で同意はあったと認めたんだから。
「自分がレイプされたと思えばそれはレイプだ」というツイートを以前見かけて鼻で笑った。『お気持ち表明で草』というリプを返そうと思ったほどに。自分以外の誰かがレイプしたと認めてくれなきゃレイプにはならないんだよ。
「入りますよ」とアカリの彼氏、奥村イチヨウはそう言って山崎がいる会議室の部屋のドアをノックした。
このまま失神して倒れることが出来ればどんなに幸せか。このまま舌を噛み切って死ぬことが出来ればどんなに幸せか。私は倒れることも死なこともできなくて元気そうに生きている。
「はーいどうぞぉ」と会議室D-4と書かれたドアの先から声が返ってきた。
「星浦さん行きますよ」と奥村イチヨウは私の方をみて微笑んでから扉を開けた。
「やぁメルちゃん久しぶり」
「うん…久しぶり」
山崎は椅子から立ちあがって私を出迎えた。山崎の見た目は、冤罪だと告発動画をあげた時と一緒。
オールバックのヘアスタイルに縁無しの丸メガネ。令和ロマンの細い方に似ているって大学時代に言われていたっけ。
「元気だった?」と山崎は笑顔で聞いてきた。
「まぁ…ボチボチ」
「そう!良かった」と山崎は嬉しそうに笑った。そうだこの人は笑った時にしわくちゃになった感じの顔になるんだ。
山崎は普通に私に話しかけてきた。まぁそりゃそうか。今目の前にいるのは同意のある性行為をした男だ。
薬を飲まされて意識混濁になった状態の私とセックスした男だ。
「星浦さん、席におかけください」と奥村一葉は椅子をひいた。
「あぁ!ごめんね!2人ともその前に靴とコート脱いでね!」と山崎が言った。
コートはともかく何故靴なんだろうと奥村一葉も私も疑問に思ってすぐに動けなかった。
「盗聴や盗撮されていたら困るんだ。もちろん鞄も机の上に置いてね。」
山崎の理由を聞いて納得した私たちは指示に従った。まぁボイスレコーダーでも入っていたら命取りだろう。コートを脱いで山崎に渡した。山崎は私のポケットを入念にチェックしてハンガーにかけた。ブーツは足先にカメラが入っていないか、踵部分に録音機を隠していないか細かくチェックしていた。鞄はひっくり返され、一つ一つ入念にチェック。
「よし…持ち物は問題ないね」と山崎は言ったがまだ物足りなさそうな顔をしていた。
山崎は私たちの方に近づき 「ちょっと失礼」と言って奥村一葉の体をペタペタ触り始めた。ポケットやズボンの裾、隠せるものがあるところは全部触られていた。奥村一葉は眉を少し傾けるだけで微動だにしなかった。
奥村一葉のボディチェックが終わり、流れるような手つきで「次はメルちゃんの番だね」と山崎は言って私の身体をペタペタ触り始めた。
うなじ、胸、太もも、お尻、陰部、一通り触られた。
当たり前のように身体を触る山崎よりも、「やめて」と言えない自分よりも、その光景をただ眺めている奥村一葉に何故か腹が立った。
「ふぅー…ごめんね。2人とも座っていいよ。」と言って山崎は椅子に座った。私も奥村一葉も山崎に続いて席についた。
「あれ?メルちゃんは一葉くんのことどこまで知ってるの?」
「アカリの彼氏ってことは、し、知ってる」
「ええ…なに?それ以外は知らないの?」と山崎は茶化すように言った。
「星浦さんが俺のこと聞いてこないんですよ」と奥村は片方の口角を上げて困ったように言った。
「え〜メルちゃん危機感無さすぎだよ。ほらー良いよ。質問タイムってことで、ホラ質問してよ」
「じゃあ…どうして奥村くんは自分の彼女をレイプした相手が目の前にいるのにヘラヘラしているの?
どうして四谷の会議室を取ったの?
どうして私の会社に電話をかけたの?
どうしてあんな告発動画だしたの?
どうして私とのLINEのやりとりをSNSに公開したの?
どうして冤罪だって嘘ついたの?
どうして…私なの?」
私は言葉に抑揚もなくただ淡々と言った。
私が一方的に喋ったから山崎も奥村も面を食らったと思ったが違った。
「•奥村くんがヘラヘラしているのは、彼の向いている殺意の矛先が僕じゃなくて戸田コオリだから。
•四谷の会議室を取ったのはここのビルのオーナーが僕の友達だから
•告発動画を出したのは僕の冤罪を証明するため
•君とのLINEを公開したのは客観的証拠を出せばバカな世間は信じてくれるから
•これは冤罪だ。
•君を選んだ理由…君が戸田コオリと1番仲がいいから。」
山崎は張り付いた笑顔で一息で言った。
「山崎さん、補足していかなきゃ星浦さん分かんないですよ。」と奥村は困った様子で言った。
「それは君がこれから、ゆっくり話してよ」
「なに…なにが始まるの?」
「WANTED !!!戸田コオリを探せ!!」と山崎は口角を上に高く上げて目をかっ開いて言った。
テンパった私はこの時気づかなかった。私がした質問に一つだけ山崎が答えていなかったことを。