【最終話】アクセル全開
『はいえーと、週間文●です〜。すみませーん。昨日ウチの出版社にですね。山崎さんが女性をレイプしているとみられる動画とですね…睡眠薬を飲まされたとされる毛髪の鑑定結果を送ってきた女性がいるんですよね〜。どういうことかお答えしていただきますか?』
さぁ爆発の時間だ。
山崎と私が性交をしたという事実に、同意があったという嘘を混ぜて、“レイプ被害の冤罪をかけられた”という真実を山崎は作り上げた。
だから私も山崎と同じことをした。
山崎と私が性交したという事実に、レイプされた動画があるという嘘を混ぜて、“山崎は複数の女性をレイプしている”という真実を作り上げた。
「はぁ?動画?なんのことですか?」と山崎は落ち着いた口調で週刊誌の記者に聞き返した。
「アダルトサイトに上がっているんですよ。山崎さんの顔バッチリ写って女の子襲っている動画』そう言って前列にいた週刊誌の記者はスマホの画像を印刷したものを壇上の山崎と庄司に渡した。
山崎はその写真を見るやいなや「クッソォ!」と発狂した。
「メル…お前なにしてくれたんだ!!」と私の方を見て山崎は叫び写真がプリントアウトされた紙をグシャグシャにしてこちらに投げつけた。
コオリがその紙をおそるおそる拾い上げ、丸まっていた紙を広げ伸ばした。
「メルちゃん…これなに?」
「私が山崎にレイプされている時の動画のサムネ」私は簡単にそう答えた。
私はアカリと同じように白目を向き正常位で股を開きバカな顔をしている。素人AVのサムネにはうってつけだろう。
「お前が作った偽画像だろうがぁ!!!」山崎は叫んだ。そして山崎は少し呼吸を整え「皆さん彼女は星浦メルと言って僕を冤罪に嵌めた当事者です!」と暴露した。会場はどよめき、中には私の顔を見るべく、席から立ち上がり降りてきた男もいた。
「今回も彼女はこんな偽画像を作って僕を陥れようとしています。信じられないですよね?こんなのあとで検証したら分かることです!皆さん騙されないでください!!」
それは山崎の言った通りだった。私が奥村に頼み作ってもらった偽の画像だ。海外のAVサイトを加工して、私と山崎の顔に作り変えたのだ。
「メルちゃん…なに企んでいるの?これ偽物だよね?」ってコオリは小声で言った。
「こっちは偽物」と私はコオリの耳元で囁いた。
『まぁ…動画の真偽はともかくですが』と記者は続けた。
『毛髪の鑑定書…こちらによりますと…この告発した女性は2年前にとある睡眠薬を飲まされているみたいですね。デエビゴっていう睡眠薬みたいなんですが…』
「それも、それも彼女が偽造して作った鑑定書だ!!」
『あれ?山崎さんが2年前に準強制性交の罪で捕まった時も、被害者女性に飲ませた薬…これもデエビゴですよね?』
会場が少しザワついた。
「ははは。週刊誌さん、貴方達ちゃんと裏取りました?昨日の今日で取ってないでしょ?皆さんこうやって、僕は情報操作を受けて冤罪で追い込まれたんですよ!!」山崎は役者さながらの大声と抑揚でそう言った。
『いやぁ…どうですかね。僕はその告発した女性と警察署まで今日の朝、同行しているんで…』と記者は言った。
「な、お前、警察行ったのか?」
山崎はようやくここで私と会話をする気になったようだ。
「うん行ったよ」
「お前…良いのか?また…」と言って山崎は言葉を濁らせた。
「別に…私はただ『大学時代、睡眠薬を男から無理矢理飲まされた』って相談しただけだよ。薬を無理矢理飲まされることはさ、傷害の罪にあたるから被害相談だよ。レイプされたかは分かんないからさ」と言って私はニヤリと笑った。
「メルちゃん…」とコオリが声にならない声を上げた。
「ほらでも山崎くんさ…前にも睡眠薬飲ませているみたいだからさ、どうなるかな〜」と私は煽るように言った。
「おいお前。良い加減にしろよ」と言って山崎は壇上から降り私の胸ぐらを掴んだ。
コオリも庄司も周囲の人間も誰も私達を止めなかった。ただ呆然とこの光景を見ていた。
私は山崎の胸ぐらを掴み返した。
「山崎くん…私ね本当は貴方と戦いたくなかった。だってさ私が戦ったって良い思い何もしないもん。知らない人からはさ…ハニトラだ。金目的だって言われてさ、友達からはもうどう接したから良いか分かんないって言われたり、話のネタ欲しさに根掘り葉掘り聞いてきたり、性被害に遭ったらね…普通の人間として扱ってもらえないの。
戦いたくなかったよ!それでもね…やっぱり戦わなきゃ前には進めなかった。だから、私はどんな形でも良いから貴方との関係を精算するの!!
どんな結果になっても戦ったっていう事実が!!私の今後の人生を支えてくれると信じているから!」
私は涙と鼻水を垂れ流しながら、山崎の腕を思いっきり掴んでそう叫んだ。
「…なに主人公気取っているんだよ」山崎は小声でそう言って私の胸ぐらから手を離した。
「私も舞台に立つの!」
私はコオリの手を掴み走って会場を後にした。
映画館のロビーを走り切り非常階段で一気に駆け降りた。
コオリは黙ってそんな私について来てくれた。
全部言った。
言い切った。
もう全部どうにでもなれ。
私は戦った。
私はちゃんと戦えるんだ。
「ここまで来れば大丈夫でしょ?」と私は笑いながら言った。地下駐車場だ。あとは車に乗ればこの茶番は終わりだ。
「メルちゃん…良いの?何もかも…もうメルちゃんの人生は滅茶苦茶になったよ。なんでそんなことするの?メルちゃんの名前はきっとこれからSNS で拡散される家族だって…」コオリは泣きながら言った。
「良いの。私の人生は7歳でもう死んでるから。これくらいどうってことないの!むしろもう私のこの人生は余生なの。余生なんだから好き勝手やらなきゃダメだったんだ」
「そんなことって…被害者がなんでそんな…」
「それにね大丈夫。マスコミは性加害者の味方でも、性被害者の味方でもない。盛り上がる方の味方だから。きっとしばらくは私の味方でいてくれるよ。睡眠薬の鑑定書は本物だしね」
そう言ってコオリを車に案内した。
「コオリ乗って。ドライブしよ」
「どこに行くの?」
私はシートベルトをつけて、ブレーキペダルを踏みながらエンジンボタンを押した。
「良いように使われた大地に行くかい?」と私は冗談を言った。
「あれは…」とコオリは言って頬を赤らめた。「ちょっとあの時はカッコつけようとして…特に意味ないよ」と言った。
意味ないんだ。私は思わず吹き出した。
シフトレバーをドライブに切り替えて、私はアクセルを踏み込もうとしたとき、後部座席が開いた。
「酷いな〜今回俺MVPでしょ〜」と言って何者かが車に乗り込んできた。勿論、奥村一葉だ。
「鑑定書に…フェイクのレイプ動画…もうちょっと俺…褒められても良いんだけどな〜!」と言って、奥村はシートベルトをつけた。あぁお前もドライブに参加するんだ。
「奥村さん…その節はありがとうございました」
「いーえ。なんか会場は収集つかなくなったんで逃げ出しましたよ。ボクサーの庄司が山崎のことボコボコにブン殴り始めたところで俺は退散しやした〜」
ははは。そうなのか。まぁ初見の私達に襲いかかった短気の庄司ならやりかねないか。でも少しスッキリした。ありがとう。庄司ユズル。私のことを信じてくれて…。
「さて…コオリ、君は元気だった?」
私はバックミラー越しで後部座席に座る奥村一葉の顔を見た。やっぱり、その顔は…好きな人に向ける顔だった。
「うん…」とコオリは生返事で答えた。
「君のボス一派は公安の失態を脅しにして、ちゃんと逃げたから安心してよ」
「貴方じゃ、イダと冬梅には叶わないから」
「君も俺じゃ叶わないかな?」
「私は…その…」と言ってコオリは黙り込んだ。私は助手席に座るコオリの顔を覗き込んだ。
おやおや。
「はーいじゃあ車出しますよー」と言って私はアクセルを思いっきり踏みしめた。
この物語は戸田コオリと奥村一葉の純愛物語だ。きっと2人はこれからお互い話し合って、今とは違う関係になるんだろう。
傍観者の私はたまたま、その場面を目撃してしまった。
人の色恋はなんて楽しいんだ。
そう私は傍観者なのだ。
2人とドライブをして彼女達と別れた後、私の本当の戦いは始まる。私が主人公の戦いだ。
それまで私はこの自然に生かされた大地を全力で駆け抜けよう、そう思うとアクセルに自然と力が入ってしまった。
完結です。ブクマつけてポイント入れてくれた方ありがとうございました。
この作品を最後に性犯罪に関する作品は最後にしようと思います。
もう出し切りました。後半は出涸らしみたいになりました。もう出ない…もう無理。
ラストは読者に委ねる形になりましたが、メルは幸せに生きて生涯終えますよ。そこだけはご安心を。




