拳銃と掌
「至急確保!」という声が聞こえた。違う。これは俺の声だ。
予想していた最悪よりもっと最悪なことが起きた。公安の警察官がパニクって一般市民に拳銃を向けた。そして拳銃を向けられた女がその警官の目玉をくり抜いた。
映画館は騒然となった。待機していた女性警察官達は一般市民の安全を確保する為「すみません!警察です〜!一回しゃがんでくださーい」と言って警察手帳を上に掲げた。
そしてロビーで待機していた男性警察官達が一斉にJK警察官と戸田コオリのいる場所に向かって走り出した。
コオリのやつ…目を刺した。なんの躊躇いもなく人の目を指で刺した。
女性警察官は下にうずくまり、唸り声を上げた。
「えぇ…嫌だ。いっぱいいる〜。確保ってなに?私何にもしてないのに〜」とコオリは上ずった声で言った。
男性警察官がコオリの上に飛び乗ろうとしたが、すかさずコオリは身をかがめ男の金的を蹴り上げた。
「よしまず1人」
次に男性警察官は警棒を取り出し、コオリの腕に目掛けて振るった。
「ねぇだから私、素手だし一般市民なんだけど!!」そう言って彼女は黒のジャケットを脱ぎ、警棒を持った男性警察官に向けて投げ捨てた。それと同時に飛び上がり男の顎を目掛けて膝蹴りを放った。
間違いない。あれは戸田コオリだ。警察官を3人やった。しかも2人は男。実戦じゃなきゃこんな真似出来ない。
俺はボクサーの庄司ユズルにやられた左手がブルブル震えた。
それでも複数の男警察官の前では、彼女も流石に太刀打ちできなかった。
彼女は男性警察官に床に抑えつけられた。20代の娘に男性警察官が2人がかりで抑えた。
俺はゆっくり彼女に近づいた。
まったく…こんな形で再会したくなかった。
うつ伏せになった彼女はブツブツと文句を言っている。
「コオリ…残念だけど君の目的は叶わないよ。ここで終わりだ」俺は優しく彼女にそう言った。
「だから…私はコオリじゃないって!!」と叫ぶ彼女の声を聞いて俺は一瞬寒気がした。
俺は屈んで、右手でゆっくりと彼女の被った帽子を取り上げた。その顔を見た瞬間… 俺は胃袋がキューと搾り取られる気分になった。
コオリじゃない。
「誰だ…お前は?」
『冬梅サクラ…コオリと同じ組織の人って言ったら分かるかな』
目の前の女はニッコリと俺に向かって笑いかけた。瞬きする度に一重になったり、二重になったりする彼女の妖艶な目を俺はただ見続けた。
「冬梅サクラ…」と俺は彼女の名前を繰り返した。聞いたことのある名前だ。どこかで聞いた。どこかの事件資料で最近読んだ…。いやこんな状況で思い出せるはずがない。
その時 『彼女の拘束を解かないかね?』と、後ろから180を超えるモデルのような立ち姿の男が現れた。
「バッチリ君たちの動画撮らせてもらったよ。まぁ監視カメラあるけどね。良いの?警察官が一般市民に拳銃向けて、大の男が華奢な女に飛びかかって」
そう言って男は先程の様子を録画したスマホを俺たちに見せつけた。男の顔は眉目秀麗。芸能人のレベルだ。おかっぱの髪型は堀の深い顔とうまく組み合わさってクレオパトラのようだった。そしてクッククと笑う姿も作り物のようだった。
「お前らは…まず彼女の拘束を解け」と俺は男性警察官に指示した。すぐ彼らは指示に従い、冬梅サクラの拘束を解いた。
俺の勘だが…いや勘じゃない。絶対にそうだ。あの冬梅サクラが美人局組織の幹部で、このイケ男が組織のトップだ。
コイツらには勝てないと一瞬で悟った。それに俺たちの失態があまりにもデカすぎる。
「冬梅…お前、本当に力落ちたな」
「イダうるさい。良いでしょ?時間は稼いだんだから」
時間…俺は急いでスマホの電源つけて時間を確認した。15時40分。山崎と庄司のトークショーはもう終わる時間だ。
「コオリは…?」俺は思わず彼女達に聞いてしまった。
ウフフと冬梅サクラは俺の顔を見て笑った。
「ずっとコオリはそこにいたのに…。本当に公安ってバカばっかりね」
「公安という存在にあぐらを描いてオナニーしている奴らばかりだからな」とイダと呼ばれる男は言った。
「コオリはずっといた?どういうことだ?」と俺は疑問をそのまま彼女達にぶつけた。
「あははは。しっかり貴方達にアナウンスしていたじゃない。映画まもなく上映します〜って」
上映…? アナウンス…?
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『入場開始のお知らせです。ただいまの時間から13時10分上映『月の裏側』の入場を開始いたします』
大学生くらいの若い女性のアナウンスがロビーに響き渡った。
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しまった。全く気が付かなかった。コオリはここで働いていたのか。制服を着ている従業員を見落としていた。自分の無能さに失神しそうだった。
「コオリはどこにいる?」
「8番シアターの山崎のところに決まっているでしょ?」と冬梅サクラは手についた血をハンカチで拭き取りながらそう答えた。
俺は8番シアター目掛けて走った。周囲の女性警察官が映画館のスタッフに事情を説明し、騒然とした映画館は一つのカオスの塊を除いて日常に戻りつつあった。
俺は映画館のチケットをスタッフに勢いよく渡し、8番シアターの扉に手をかけた。
『ふざけるなメル!!お前この野郎!!!自分が何をしたか分かっているのか!?』
会場に入るやいなや罵声が聞こえた。もちろんその声の主は映画監督の山崎シンスケだった。
洗濯してお昼寝したら書いて投稿するので、今日はあと1話投稿したいなぁ
冬梅サクラは前々作の主人公です。「レイプされた〜」の方です。




