コオリ突入
公安に入って初めての大仕事をやり遂げた。
某大国と繋がっている美人局組織の尻尾を掴んだ。
「慎重に動け」という上長の指示を無視して、俺はSNSで“援交JK募集”と投稿し、呆気なく戸田コオリが引っかかって呆気なく逮捕できた。
当時は自分のやり方が正しかったと鼻にかけていたが実際は違った。彼女はわざと逮捕されに囮捜査に引っかかったのだ。彼女は組織を抜けたかった。だから警察丸わかりの俺の文章に食いつき待ち合わせの場所に来た。俺は彼女の手のひらの上だった。もし時が戻せるなら「君…援交してるよね?僕警察なんだけど」と自信満々に彼女に言った自分をぶん殴りたい。
なんとも無知で恥ずかしい。
あの時も…そしてきっと今も。
山崎の映画が上映が開始されたと連絡が来た。会場には女性は1人。星浦メルしかいないとのことだ。
さぁ…いよいよ本番だ。
彼女はこれから、この映画館ロビーを抜けて来る。
山崎を殺しに来る。
彼女が7年ぶりに俺の目の前に現れる。
自殺した風早アカリの復讐に来る。彼女はそんな女だ。援交を繰り返した男の陰部を切断した。16歳にして色仕掛けをしナイフで陰部を切断。21歳で性犯罪の冤罪を起こし司法は見事に騙された。全くどんな人生を過ごしたらそんなことができるのか考えられない。
『もう普通の人の人生を歩みたいです』
家庭裁判所で涙を流しながら言った彼女の言葉は嘘だったのだろうか。
そんなことをボンヤリ考えていたら映画上映から2時間が経過していた。もうすぐトークショーが始まり山崎が壇上に上がる。コオリはもうすぐ来る…そう考えた時、映画館入り口前にいたカップルから合図が来た。もちろん彼女達は俺と同じ警察官だ。
来たのか戸田コオリが。
俺と彼女の距離は25メートルくらい。顔ははっきりと見えないが、黒のスキニーに黒のジャケット、グレーのベースキャプをかぶっている。まぁおそらくアレだ。
胸が一回ドッと大きな音を立てたのが分かった。あの時、星浦さんを襲ったボクサーとは比べ物にならない精神の昂りだ。
俺は小さく頷き周囲の警察官達に合図を出した。
まず女子高生の変装をした警察官(本当は30代)が彼女に近づいた。警察官のスクールバックの中には小型の金属探知機が入っている。戸田コオリが危険物を持っていないかの確認だった。
JK警察官は大声で友達と電話をするフリをしながらコオリとすれ違った。すれ違ったあとJKは唇を尖らせた。金属無し…の合図だ。ナイフやハンマーでは無いのか。
山崎を殺しに行くという読み自体が違ったのか。いやそれは無い。彼女はバイト先の女将さん名義で試写会に応募しチケットを購入している。間違いなく来るのだここに。ただ映画を見て終わりな訳がない。
そして俺の右手がブルっと震えた。さっきのJKからメッセージが来た。すれ違いざまに撮影したコオリの顔だ。おかっぱの髪型に…ダメだ。顔がしっかり見えない。でも背丈や体型はコオリと一致している。それに口元にホクロもある。コオリといえばコオリである。
彼女の口元はマリリンモンローような妖艶さがあった。そのせいで当時未成年である戸田コオリに引き込まれそうになった瞬間もある。それは認める。
星浦メルが「コオリのこと好きなんでしょ?」と聞いてきた時に気が動揺したことも認める。彼女は俺にとって特別な存在だ。
俺は、苦しむ同性のために命をかけて戦う彼女を美しいと思った。だけどもう命をかけずに普通の人生を生きてほしい。
『普通の人生を歩みたいです』そう言った彼女の言葉には嘘偽りなかった。そう信じている。
俺たち警察が戦うから、もう止まってほしい。
コオリと思われる女は女子トイレに入った。俺は先程のカップルに合図を出し、すかさず女性警察官が後を追いトイレに入室した。そして男性警察官はトイレの前で待機。一見すると彼女のトイレを待つ彼氏にしか見えない。
5分経ってもコオリに尾行した女性警察官から連絡が入らなかった。俺は主婦のフリをした女性警察官に突入の合図を出した。そしてこの警察官には盗聴器の電源をONにさせた。俺は有線のイヤホンをスマホにさし耳にあてた。
「…」
トイレにはコオリと警察官しかいないのか、特に人の話し声は聞こえない。中で何が起きている?
『あ!!ふ!!』という女性警察官の声を最後に音声が切られた。
額から汗がジワっと滲む。どういうことだ。コオリは中で何をしている。そう考えようとする間もないままコオリはトイレから出てきた。
もう尾行はいい。仮にコオリが女性警察官に危害を加えていたら暴行か傷害で持っていける。トイレ前で待機していた彼氏役の男性警察官がコオリに声をかけた。
「ねぇお姉さん1人〜?」
チャラ男設定のようだ。
コオリは男を無視し、エレベーター前に待機していたJK警察官に一直線に近づいていった。
何を…?
JK警察官は一直線に近づいてくるコオリに動揺を隠せていなかった。クソ…馬鹿。
「ねぇお姉ちゃん」
コオリがJK警察官に声をかけた。
「なんすか?」JK警察官は気怠げな態度でコオリに応じた。
「私のこと撮影したでしょ?」とコオリは満面の笑みで聞いた。
バレていた最初から。
彼女が警察だということを。
「撮影してねーし!」と言ったJK警察官のスマホをコオリは奪いスマホを操作した。「返せよ!!」と叫ぶJKを無視しコオリは操作を続ける。彼女が出た大学はIT系だ…。
「撮影してるじゃんねぇ〜」とコオリはJK警察官に向けてスマホの画面を見せつけた。
「いや…それは」とJK警察官は泣きべそを描き始めた。クソ失敗だ。童顔だからコオリが油断すると思って重要なポストに置いたのが間違いだった。クソ…だから反対したのに。童顔で頭がキレるホープでも実戦は違うんだ。これが終わったら上司に責任取ってもらおう。
もうこうなったら俺が行くしかない。そう思った時に「あなたが戸田コオリでしょ?」とJK警察官は言った。
あぁもう馬鹿!!コイツ…パニクって作戦を滅茶苦茶にしやがった。周りの警察官も、動揺を隠せていない。クソ。
そんな中でJK警察官は制服ブレザーの内ポケットに手を突っ込んだ。
あぁもう最悪だ。
JK警察官はコオリに拳銃をつきつけた。
「大丈夫。アンタを捕まえれば私の功績になる。某大国の美人局組織を再び逮捕ってね」とクククと彼女は笑った。コイツ…クビどころの騒ぎじゃない。公安に入った自分に酔って刑事ドラマの真似を始めやがった。
『ねぇお巡りさん…これ拳銃だよね。私武器持ってないよね…?それに戸田コオリって認めてないよね?』
コオリは静かにそう言った。
「はぁ…はぁ…」
JK警察官は少しずつ冷静さを取り戻したのか、右手がブルブル震え始めた。
『じゃあここからは正当防衛だね。お巡りさん❤︎』
そう言ってコオリは右手の親指と人差し指でJK警察官の目を突き刺した。
もう一話書き上がっているので、お昼ご飯食べたら投稿しますね。




