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【完結まで残り4話】クソ冤罪映画




 映画館は駅直結ビルの7階にあった。


 エスカレーターで上がると、甘ったるいポップコーンの匂いがした。そして受付には小学生くらいの男の子が沢山いた。某ジャンプアニメ映画の影響だ。


 私は子供にぶつからないよう、いつもより下に視線を落として歩いた。自分の腰くらいの高さしかない子供が大量にいると怖い。走るしうるさいし、真っ直ぐ歩かない。私は視線を下に落としたまま券売機へ向かおうとした…その時、勢いよく目の前の人とぶつかった。いつもより前方がおろそかになったせいで全然気づかなかった。


 床に4粒ポップコーンが落ちた。ぶつかった相手のものだろう。申し訳ない。やってしまった。


 「すみませんお怪我はないですか?」そう先に言ってきたのは相手の方だった。私はゆっくりと顔を上げた。


 「大丈夫ですよ……奥村さん」


 ぶつかった相手は奥村一葉だった。


 「子供って怖いですね〜」と奥村は走り回る子供達に笑みを浮かべながら言った。


 「1週間ぶりですね。奥村さん」


 「ですね〜星浦さん少し焼けました?」


 「えぇまぁ… 奥村さんは..カジュアルですね」

 奥村は黒のスキニージーンズにペンギンが描かれた灰色のフード付きスウェットを着ていた。

 

 「そりゃそーですよ。映画館で警察官丸出しじゃダメでしょ」


 「コオリを捕まえるためにここには公安何人いるんですか?」と私は映画館ロビーを見回した。主婦や老人、カップルと老若男女で溢れているが警察っぽい人は奥村も含め見当たらなかった。


 「いや〜一般市民には教えられないですよ」


 「一般市民に「俺は公安の人間です」って暴露したくせに。秘密警察が聞いて呆れますよ」と私は皮肉たっぷりに言った。


 「星浦さんに関してはそれが最適だと思ったんです。あとね公安なんてそんなもんですよ。ほらメディアとかSNSで承認欲求塊おじさんが『自分元公安でした』とか言っちゃってるでしょ。その程度ですから。大したことない組織ですよ」


 「へー」日本の将来が不安でしかないと口に出そうになったのを抑えた。



「奥村さんはここでコオリを待ち合わせするの?」


「そーです。俺もついさっき着いたみたいなんだけど、まだ来てないみたいですね」


 交代で見張っているのか。本当に大掛かりなことをしている。




『入場開始のお知らせです。ただいまの時間から13時10分上映『月の裏側』の入場を開始いたします』


 大学生くらいの若い女性のアナウンスがロビーに響き渡った。



 ついに始まるのか…なんだか人生1番の大勝負なのに呆気ないな。


 「じゃあ奥村さん…私は行ってきますね」


 「はーい。いってらっしゃーい」と奥村はポップコーンをパクパク食べながら言った。


 「例の…」


 「ふぅん?」


 「奥村さん、例の動画とアレ…ありがとうございました」私は奥村に90度頭を下げた。


 「ははは。そんなの別に大した労力はかかっていないから…。お互いやるべきことをやりましょ」と言って奥村はニッコリ笑った。  



 呑気に手を振る奥村を後に私はチケットを発券して映画館の8番シアターに入場した。


 会場には既に7割ほど席が埋まっていた。公安の人間はどれくらいいるのだろうかと思ったが、どうせ自分には警察と一般人の違いなんて判断できないから考えるのをやめた。


 まぁ公安を抜きにしても男が多い。当たり前か。性犯罪の冤罪という社会問題に対して強い意識を持つのは男だろう。しかも試写会に応募するってことは相当思うところがあるのかな。いやそもそも映画ファンという可能性もあるか。



 コオリはまだ入場していなかった。会場には若い女が1人しかいない。無論私だ。


 いつもより少ない広告映像の後に映画は始まった。山崎が、映画監督のパパの脛を齧って製作した映画『月の裏側』(※偏見の塊)


 物語は、社会人になった主人公の家に幼馴染の女が遊びに来るところから始まる。主人公と女は仲良く食事をし、そのまま良い流れになった。お互い両想いだったことが分かったからだ。主人公は女と甘い一夜を過ごす。しかし、主人公は1週間後、強制性交等の疑いで逮捕される。


 主人公は逮捕され起訴。会社は懲戒退職。SNSでは誹謗中傷。家族は病んでしまい精神病院…。そんな辛い状況に追い込まれた主人公が映画という存在に救われ、自分がメガホンを取り冤罪について訴えるという内容だった。


 まさに山崎シンスケそのものの人生を描いているようなものだった。



 最終的には主人公を擁護する声がSNSで広がり、被害者女性が冤罪を認めるという終わり方だった。物語最後に「成功していく主人公に腹が立って」と言っていた女の口ぶりは稀代の悪女のような演出だった。




 つまらない映画だった。


 某冤罪映画の影響を受けたであろうカメラ回し、悲壮感たっぷりの音楽、役者がピカイチだった分、演出のアラが鼻についた。


 エンドロールが流れ始めたとき、私は横目で右隣の中年男性を見た。


ハンカチで口元を抑え声を押し殺しながら涙を流していた。彼はボクサーの庄司同様に冤罪被害で苦しんだのだろうか。


 性の問題で男が生きづらい局面があるのはもちろん分かる。DVだって男側が被害者の時は被害を告発する場が少ないし告発できない風潮がある。

 『男なんだからやり返せ』

 『かかあ天下で良いじゃん』

 『奥さんの尻に叱れるくらいが男は良い』


 そんな風潮がある。男だって声を上げられない時はある。苦しんでいる男に手を差し伸ばそうとしない社会の雰囲気はある。そんなのは分かっている。分かっているけど私は…同性の苦しみしか分からない。分かろうとしていないんじゃなくて…想像ができない。力あるんだから戦えよ。差別されないんだからもっと出世欲出せよ。通りすがりに品定めされないんだから生きやすいだろ。そう思ってしまうんだ。


きっとこれは男側も同じなのだろうか。女の気持ちが分からない。分かろうとしているけど分からない…。そして彼等なりに、私には理解できない苦しみがあるんだ。


 理解はできない。理解はできないけど苦しんでいたら不快に思っていたら、それをしないように手を止めることは行動に変えることは出来るんじゃないか。私はそう思う。




 じゃあ、まずどうすれば良いのか。


 苦しみをひけらかすんだ。

 理解しなくても良い。知ってもらうんだ。


 山崎がやったように。


 性交をしたという事実に同意があったという嘘を混ぜて、“レイプ被害の冤罪をかけられた”という真実を作ったみたいにね。



 エンドロールが終わり、照明がどんどんと明るくなった。そしてマスコミが前列の方に出てきた。ここからはトークショー。映画監督のの山崎と冤罪被害にあったボクサーの庄司が、冤罪の苦しみについて話し合う。



 司会の女性が舞台裏から出てきた。


 「それでは、トークショーの方に移りたいと思います。ご登壇お願いします!映画監督のの山崎シンスケさんとプロボクサーの庄司ユズルさんです!」



 大歓声のもと山崎は出てきた。顔を合わせて会うのは1週間ぶりだ。



 山崎はオールバックの髪に縁無しメガネ、スーツを着ていて某芸人にソックリだった。



 山崎との再会でも特に気が動揺することはなかった。私はもうやるべきことはやった。あとはこの目の前の記者達に託すだけだ。


 私の気がかりといえば一つだけ。

 私は視線を山崎から左隣に視した。


 私の左隣が空席なのだ。


 多分だけど彼女は来る。奥村をはじめとする公安の人間の警備をも潜り抜けて彼女は来る。もう彼女のことは止められないだろう。


 16で美人局組織に所属し公安に捕まった…あの女がー


 自分から睡眠薬を飲んでレイプされに行って被害届を出したあの女がー


 セミロングの髪にマリリンモンローのような唇を持ったあの女がー


 “戸田コオリ”が私の左隣の席に座るという予感が私の胸の中で踊り続けた。



 


 

次回は奥村一葉の視点になります。

後3話で終わる予定です。


生理で死んでます。本当になんでこんなに痛いんだろう。イブ飲んでも痛いし、マッサージしても身体を暖かくしても痛い。本当に生理中って鬱鬱鬱。

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