メルの痛み①
日本は表現の自由の国だ。
どんな表現も規制してはいけない。
もちろん。
性犯罪の表現も。
小学生の女の子がお留守番する部屋に、業者を装って男が入り込みレイプする話も。表現の自由万歳。漫画で犯罪防止してるんだもん。性癖は多様性だ。表現の自由万歳。
それを読んだ読者が漫画と同じ手口を真似しても。表現の自由万歳。
性犯罪万歳。
ロリレイプ万歳。
表現の自由万歳。
そして私は死ぬ勇気もなく、ただ息をして生きていく。
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「え、奥村さん今なんて?」
私は膝下で重ねた両手を力強く握りしめた。
「山崎にあなたもレイプされましたよね?」
「いや、はははは。何言ってるんですか?私のは違いますよ…。私は同意ありましたよ…」
「確かに貴方は、山崎が逮捕されてから警察の聞き取り調査を受けた時に同意があったと言った」
分かってるなら聞くなよと心の中で舌打ちをした。
「ええ…そうです。しかも奥村さんも見たでしょ。山崎と私の事後ライン。あのザ•勢いでセックスしちゃった大学生のやりとり…」
「警察は不同意だったと睨んでいます。あのLINEはあくまで被害を認識できてなかった混乱した状態だと…星浦さんは過去にも…」と言って奥村は言葉を濁した。
「いや…お巡りさん、被害者の肩持ちすぎじゃないですか?」
「もういい。星浦さん。警察はあなたの味方だ。あなたはレイプされた。検査を今からしてください」と言ってドアをノックし、女性の警察官を呼んだ。
「失礼します」と言って女性警察官は申し訳なさそうに部屋に入った。この人も私のことを知っている。
私は獲物から目を離さない獣のように、奥村を見ながらゆっくり立ち上がった。
「はは…何の冗談?奥村さん。証拠なんてないでしょ?」
「冗談じゃない。君も睡眠薬を飲まされていたら証拠はある」
…検査?…警察?…被害届?…検察で話して…。同情的なババァが自分ごとみたいに悲しんで…裁判所でキモいジジイにジロジロ見られて…。ネットではエンタメ扱い…。親が悪い…ドアを開けた子供が悪い…。やめて…お母さん。ごめんなさい…助けて…。
「ふ、ふざけるな!!!」
私はパイプ椅子を蹴り上げた。
「私が戦わないって言ってるのに、何あんた達、無理矢理戦わせようとしてるの?!あなた達は良いよね。別に何も日常変わらないもん!なんなら私が被害届出したら仕事の成果あげられるもんね!」
「星浦さん…それは違いま」
「違わない!!!」
「あなた達警察だから私の事件知ってるんでしょ!?」
奥村も女性警察官も私の目から視線を逸らした。
「一回、性犯罪遭ったら次はないの!次は本当に私の自業自得なの!!家族ももう耐えられなくなっちゃうの!!」
私は女性警察官を突き飛ばし、取調室から走って逃げ出した。
今度こそタクシーを捕まえ1人でラブホテルに向かった。奥村も次は追ってこなかった。
タクシーの車内で私は大声をあげて泣いた。小学生の子どもみたいに。「おかーさんおかーさん」と何度も呪文を唱えるように言った。
やっと気づいた。
私は限界だったんだ。
何もなかったと普通の暮らしを目指すあまり、私は痛みと向き合わず、最悪な状況にならないように最低限の行動しかしてこなかった。その差分がハッキリとつきつけられた。
ホテルの部屋についてからも、化粧を落とさずに布団にこもって私はただ泣き続けた。
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