最悪な脅しから始まる旅なのに
クソ長い会話パートもこれで終わり
戸田コオリは自分から山崎のところに行ってレイプされに行った?警察に被害を告発するために。山崎とその父である映画監督の山崎太郎を失墜させるために?そう考えたら私の中で止まっていた血液が勢いよく動き出した。
「おいなに面白がっているんだよ」と山崎は私の顔を見て言った。
「すみません…」
私は嬉しかった。ネットからもクラスメイトからも教授からも対等に扱われず下に見られていた戸田コオリが実はどこよりも高いところから皆を見下ろして手のひらで転がしていたなんて。
「お前がなんで呼ばれたか分かってる?」
「あ…え、戸田コオリを探すためでしょ。全然良いよ。場所も分かっているみたいだし」と私は言った。事実そうだ。コオリにあって事件の真相を聞きたい。
「ただ探すだけじゃない…。戸田コオリの口から言わせるんだ『山崎をハニトラして警察に言った』とね!!」と山崎は私の髪の毛を掴んで言った。
またしても、奥村一葉はそんな私を助けてくれず冷ややかな目で見ていた。
「これでやっと僕の名誉は回復される。父の名誉もね」
「そうですよ。星浦さん…こっちからしたら戸田コオリのせいでアカリは自殺したんだ。大切な彼女が…あの女のせいで!」と奥村一葉も怒りを込めて言った。
「だから、今目の前にいる男がアカリをレイプしなきゃアカリは自殺なんて決断はしなかったでしょ!!」
私は少し声を張って言った。まだ奥村になら自分の言葉が届くかもしれないと期待したからだ。
「いや…それはアカリが悪いだろ。男の家にノコノコと行って2人になったんだ。薬を飲ませたのはまぁ悪いけど、アカリに非があったのは間違いないだろ。まぁそもそも僕たちその時付き合ってなかったし」
奥村一葉は真面目な顔つきで言った。
あぁなるほど。奥村くんもそっちのタイプか。横で聞いてる山崎が手で口を抑え必死に笑いを堪えている。
「そもそも僕と奥村くんが知り合ったのは、彼からこうDMをしてきたんだよ。『亡くなった風早アカリの彼氏です。アカリが嘘の告発をしたのは分かっています。その証拠もあります。一度会ってお話がしたいです』…ってね」と山崎は言葉一つ一つを大袈裟に言った。
「さぁーメルちゃん…君の任務はたった1つ。あの女の口から、あの事件は計画して仕組んだハニトラだと言わせることだ。
山崎は余裕を少し取り戻したのかニヤニヤしながらスマホを操作し始めた。大切なことを忘れていた私は、勢いよく循環していた血液が急に鈍り初めた。
そうだ。山崎には私を地獄に落とす最強のカードを持っている。
山崎が私に睡眠薬を飲ませてレイプした後のLINE。なにも分かってもいない無知な私と、レイプに成功した男とのLINE。
もしできなかったら、メルちゃんがハニトラをした女だと世間に公表してネット死刑だー」
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ヤマザキ『楽しかった?』
●●『はい。少し驚きましたが、私はまだ社会経験が浅いのでいい勉強になりました。』
ヤマザキ『気持ちよかったの?w』
●●『よく分からないんですが、頭はフワフワする感じでした。』
ヤマザキ『ww じゃあまた次もよろしくね』
●●『はい(^-^)』
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「それに君とSEXしたときの動画…僕はまだ持っているからね、馬鹿みたいに喘いでいる君の動画を…●●の部分を外して“メル”と表示させる。君の日常はこれで終わりだ。君の家族は泣くだろうね。公務員のお父さんと看護師のお母さんだよね。自分の可愛い娘が男にまた広げてアンアン行って警察に被害を訴えた。職場には居られない」
山崎が言ったそれは吐き気がする最悪の結末だった。でもそれは可能性として充分にあり得る結末だった。山崎の指先1つで決まる結末だ。
戸田コオリを見つけて「ハニトラした」と認めさせることが出来なければ私の人生はここで終わるのか。相変わらず私はいつもコイツの掌で踊っている。
「じゃあメルちゃん!奥村くんと札幌行って戸田コオリに会って動画撮ってきてよ!」と山崎は隠しカメラやペン型の録音機を机に広げた。
「戸田コオリと再勝負だ」と山崎は笑顔で言った。
「なんで?奥村さんも?」と私は奥村一葉を横目に言った。
「星浦さんの見張り役兼、戸田コオリを殺すためですよ」と奥村は淡々と言った。
「殺すって…」
「当たり前ですよ。戸田コオリがアカリと接触したせいで彼女は死んだんだ。あの女がアカリの日常を奪ったんだからね」
山崎は右手につけた腕時計を大袈裟に見て、「もうすぐ飛行機が出発する。ターミナルは2番だからね」と言って航空券を私達に渡して山崎は会議室から出て行った。
再び車に戻った私と奥村一葉は、最初に車に乗った時よりも関係に深い溝が出来ていた。「男の家にノコノコと行く方が悪い」という奥村の発言が効いた。こんな男と札幌まで行かなきゃ行けないのは地獄すぎる。それでも奥村一葉は私と2人きりになった時は紳士だった。
「星浦さんお疲れ様でした。足元寒かったでしょう。これ使ってください」と言って奥村は私にブランケットを差し出してくれた。
ちゃんと見ていたんだと私は少し感動した。
「さぁ…じゃあ突然ですが今から札幌に行きましょうか」と言って、奥村一葉はシフトレバーをDにした。
「本当に奥村さんは…戸田コオリを殺すんですか?」と私はバックミラー越しに奥村一葉に聞いた。
「そうだね。まずは彼女に会わないと…」
そう言った奥村一葉の顔は今までの表情とは違った何か特別なものだった。その顔は人生で何回か見たことがある顔。
「奥村さんは戸田コオリに会ったことがあるの?」そう言いかけてやめた。まだ聞いちゃいけない思ったから。
そして私達の戸田コオリに会いに行く旅が幕を開けた。
そして私は知る。自分はいつだって傍観者で、傍観者にしては当事者と距離が近いことを。
このお話が奥村一葉と戸田コオリによる長い時を経た純愛の物語であることを。
さぁここからだー!!




