始まりの旅路
あらすじ
王都へ向かうことになった。
「優しくね!優しく!」
「動くなアホ」
おれは馬車に揺られながら、ソニアにピアス穴を開けてもらおうとしていた。
なんでって?なんかかっこいいから。
「馬車の上で開けようとする人初めて見たわ」
ブスーッ!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ガッツリ致命的なところに刺しやがったなこの女!
「あらごめんなさい」
「おれじゃなかったら死んでた」
「元気があってええの」
そう言って『スティラ五杖』…つまりなんかすごい魔法使いであるキシリカが人差し指を立てた。
「っ!」
一瞬耳に痛みが走ったが、痛みが続くことはなく、恐る恐る耳を触ると凹みができていた。
「便利っすね」
感想を述べながらおれは安物のピアスを身につけた。
こんなに暇だとは思わなかった。
おれの故郷の街を出発してからかれこれ一週間が経った。
その間特に修行などはなし。
寝る時以外ほぼほぼ移動だ。
「あの」
「なにかね」
「魔法教えてくれるんじゃ…」
「おお、そうだったそうだった」
そうだったじゃねぇよ。
忘れてやがったな、この偽ババア女が。
一週間も忘れてるのはやばいだろ。
「前も言ったがいめーじが大切じゃ」
彼女は手綱を握りながら言った。
「そいつの魔力の種類次第じゃが、それを出力しやすく自分の魔力といめーじとを結びつけるのじゃ」
「…というと?」
「わしの魔法は空気を操る。それを巨大な手にして使っとるのじゃが」
地味にこいつの魔法が空気を操ることが初めて判明した。
「発動の時にわし自身の手を握ったり開いたりして魔法の手の形も変えておる」
わかるようなわからないような…
つまりおれが前に火を放てたのは、前世の記憶である銃をイメージしてそれを発射したからということか?
「おーそどっくすに杖だったり、剣に魔法をまとわせて使う者もいたぞ」
「はえー多種多様」
「1番珍しかったのは手持ちの『ステァリヌスバス』から魔法を噴射する奴じゃの」
「なんて?」
そんな会話からしばらくして、おれが火を出す訓練をしていると、
「なにこれ…」
ソニアが前方にあるものに気づいた。
「動物の死体?」
見ると奇妙な死体があった。
上半身は普通に毛が生えている鹿のようなのだが、下半身が骨だけになっている。
もっと奇妙なことにそんな死体が進行方向に点々とある。
「うぇっ…」
おれが気持ち悪くなって吐くと、飛沫がちょっとソニアにかかってしまい、ボコボコに殴られた。
「食われたのじゃ」
「食われた?何に?」
「見てのお楽しみじゃ」
そればっかだなこいつは。
進むにつれて死体の数は増していき、濃厚な血の匂いが辺りに漂っている。
グロいのは苦手なのでそろそろやめてほしい。
「お前こういうの得意なんだな」
「まぁね。実家じゃ自分で名前つけた豚を捌いたこともあるわ」
「いたぞ」
いた?何が?
前方に何かいる。
ペッとそいつが何かを吐き出した。
「ひ!?」
あの死体だ。
そいつは熊ほどの大きさだが形が決まっていないかのように蠢いている。
口などの付いているべきものが付いていない。
色は緑のようだが、少し透けておりさっき食べたものが少し見えていた。
こいつはいわゆる…
「スライムだ!!」
「『ステァリヌスバス』じゃ」
こいつかよ。
見てくださってありがとうございます!