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異世界エンジョイライフ  作者: ○
道中
41/42

ある家での記憶

『魔剣』に追い詰められている。

 俺がある貴族に拾われたのは9さいの時だった。アデラードというのはその時につけられた名前だ。




 それまで早くに両親が死に、天涯孤独だった俺はゴミを漁ったり、窃盗を繰り返していた。


 ヘマをして捕まった時も痛いだけで恐怖はなかった。


 けど、あの家はとんでもなかったね。うん。


 まずなぜ当主が俺を拾ったかというと、まァ、有り体に言えば人体実験だ。

 俺は実験動物のように怪しい薬を投薬されたり、身体の中を調べられたこともあった。


 逃げようと思ったこともあったが、あの魔術師、あいつがそれを許すことは無かった。


 思えばあいつが発端だったんだろう。ただの金持ってるだけの腑抜けがそんな残酷なこと、しないはずだ。

 出資者だったんだろう。




 その日は雨が降っていたかな。


「きみは何でそんなところに閉じ込められてるの?」


 水が滴る地下の牢屋で胎児のように丸まっている俺に少女が話しかけた。


「なんでだろうね」


 前々から存在自体は知っていたが見るのは初めてだ。

 長女のセレエナ・エレス、見た感じ勝気そうなクソガキという印象だった。


「悪いことしたから?」


「そうかもね」


 度重なる実験、性格の悪いこいつの兄弟に心身共に疲弊していた俺は適当に受け答えする。

 次に備えなければ。

 ここら辺の俺はもう脱走とか無駄なことだと気づき始めていた。


「変なの!」


 そう言うと彼女は上に戻ってしまった。

 変なのはテメーらだろうが。




 そんなこんなで一年…

 身体はもう訳の分からない状況で頻繁に訪れるやかましいガキの相手にイライラしていた。


「あのさ、逃げましょうよ」


「???」


「私この家嫌いなの。息苦しいわ」


 無理でしょ。唐突すぎる発言に俺はもうどうしたらいいかわからなくなった。

 そこで俺はもう全部ぶちまけた。


「まだ外もよくわかってねぇガキが適当なことぶっこいてんじゃねぇ!大体よ!なんで俺に構うんだよ!俺への当てつけか!?綺麗なおべべと薄汚い俺を比較して優越感にでも浸ってんのか!?きもちわりぃ!死ねよもう!」


 カスみたいな罵詈雑言の中で彼女は、セレエナはいけしゃあしゃあと答えた。


「一目惚れしたのよ」


「はぁ!?」


「顔がどタイプなのよ」


 何を言っているんだ本当に。


 だけど多分、それは俺に向けられた最初の好意だったんだろうな。




「わけわかんねぇよ…」


 物心ついた時からもう周りには誰もいなかった。

 一人の生き方が当たり前だった。


「泣いてる?」


 俺の中の何かが決壊した。




「作戦はこうよ。『魔剣』さまは実験材料を外から運んできているわ。そうなると屋敷の人手は荷物の搬入作業に割かれて警備が手薄になる。そこを狙うわよ」


「…本当に大丈夫か?」


「私を信じなさいよ」


 自信に満ちた顔でセレエナはふんぞり返る。


「わかったよ…決行はいつ?」


「明日」


「明日ァ!?」


「うるさい口ね」


「うぶ!?」


 セレエナは牢屋越しに…接吻をしてきた。

 それも舌を入れる感じの。


「な、何をした!?」


「今流行りのキッスってやつよ。それにしても口が臭いわね…脱出したら全身くまなく綺麗にしてやるわ」


 ぺっぺっとつばを吐きながら彼女は消えていった。


「…!…!」


 唇が柔らかすぎた…




 翌日…


「なんか外が騒がしいな…」


「おまたせ!」


 セレエナは階段を転げ落ちそうになりながら降りてきた。

 手には鍵束を持っている


「行くわよ!」


「なんかうるさくないか?」


「当たり前でしょ!火をつけたんだもの!」




 外に出ると屋敷はごうごうと火の手をあげていた。


「流石に人多すぎたからプランBってやつよ!」


「すごいなお前…」


「裏門に馬を待たせてるわ!早く行きましょう!」




「何処に行くのですかお嬢様」


 不吉な声が道を塞ぐ。


魔術師(クソ野郎)…!」


 気品を感じる初老の男性。しかし、目は完全にイカれている。その矛盾が何より恐ろしい。


「おやぁ、その子は私の所有物ではなかったですか?」


「私のになったのよ!」


 俺はセレエナに手を掴まれ走り出す。




「あと…もう少し!」


 裏庭を抜け、裏口が見えてきた。

 外にいる馬は待ち遠しいかのように尻尾を振っている。


 その瞬間、


「あう!」


「なに転んでんのよ!」


「ごめん、いま立…」


 あるべきものがそこになかった。


「ッ!?」


 俺の両脚は切断されていた。


「取引をしましょう」


 いつの間にか回り込んでいた魔術師が俺たちに話しかける。


「お嬢様は逃げるなりなんなり勝手にしてください。私は実験体が戻ればいいので」


 そう言いながら奴は手に持った剣を怪しく光らせる。


「わかったわ」


 彼女はすんなりとそう言ってのけた。


 そうだよな…俺みたいな奴を引き取るメリットはセレエナにはない。だからしょうがないことだ。


「じゃーね」


 セレエナは馬に跨る。




「…さて、アデラードくん。足ぐらいは直してあげましょう。私も大事な子に死なれては困る。」


「うっ…」


 離れた足をぐいぐいと切断面に押し付けられる。


「この剣はあまりに切れ味がよすぎる。物体が斬られたことにすら気が付かない。よかったですね」


「黙れクズ!」


「まだ元気はありますねぇ。良かった良か」


 瞬間、炎が魔術師の上半身を焼く。


「!?」


「あなたは私のものだと言ったはずよ!」


 セレエナ!?さっきのは嘘だったのか!


「今度こそ邪魔者は居ないわ。逃避行と洒落込みましょう」




「いやはや、旦那様も人が悪い。自慢の娘がこんなに強力な魔法を使えるなんて」


 焼け焦げ、死んだと思っていた奴が動き出す。


「貴方をサンプルとして調べさせてもらいます。旦那様もお兄様達も既に焼け死んでいる頃でしょうから誰も反対できないでしょう」


「うるさいわね亡者!火葬してやるわ!」


 セレエナの手から炎が吹き出す。そしてやつに到達する。

 ()()()()()


 炎は掻き消され、代わりに胸を貫かれたセレエナがいた。


「げぼッ…」


「こういう時のための保険として作っておいてよかった。魔法を消す剣というやつです」


 魔術師は腰に差していたもう一振の剣を、セレエナに捩じ込みながら話を続ける。


「貴方も魔法を使えるならわかるでしょう?私との力量の差を。ただ、その無謀は及第点といったところです」


「やめろ!」


「黙れ」


 俺は殴り飛ばされ、後頭部を強かに打つ。


「お前みたいなカスが私の礎に慣れたことを名誉だと思いなさい!私の私達による崇高な計画によりスティラは救われるのです!」


「…るさい」


「はい?」


「うるせぇんだよ!」


 心の芯から声を張り上げる。


「確かに俺は生きることだけでも精一杯なカスだよ!でも、お前に生き方を指図される権利はねぇよこのサディストが!」


「羽虫が…」


 魔術師はセレエナから剣を抜き、こちらに歩み寄ってくる。


「畜生…!」




「やっぱり私達お似合いね」


「!?離しなさい小娘!」


「最初で最後のハグがおじさんなんて嫌だけどしょうがないわね」


 胸には痛々しい傷が開き、血がとめどなく溢れている。

 しかし、彼女は魔術師を抱きしめていた。


 そして、燃えた。


「ギャアアアアアアアア!!!!」


 剣を取り落とすほど取り乱す魔術師とセレエナを俺は呆然と見つめていた。


「早く行くのよ!」


「一緒に逃げるって言っただろうが…!」


「わたし、がぁぁ!おれがぁぁぁ!こんなところでぇぇぇ!!」


 俺は魔術師の剣を拾い上げ、魔術師に斬りかかろうとする。


 しかし、炎が強く近づくことが出来ない。


「…ッ!…んでだよ!どうしてそこまで!」


「愛してるわアデラード」


 俺の問いには答えず、彼女と魔術師は炎の中に消えていった。




 その後、屋敷から逃げ出した俺は義賊として活動し始めた。

 あの屋敷の奴らが気に入らなかったからかな。


 次第に俺たちを慕ってくれる人が増えた。

 悪い気はしなかった。


 そんな中であいつらに出会った。

 彼女と同じ魔法。

 嫌でも姿を重ねてしまう。


 そして、キシリカという魔術師は俺に言った。




()()()()()()()()


 ああ、なんて偶然なのだろう。


 もう一度聞きたいんだ。君がなんで俺を命をかけてまで助けてくれたのかを。

 どうせ君は好きだからとか大雑把な答えを出すんだろうけど。


 だったら俺も君のようになろう。

 くだらないような理由でも命を懸けられる君のように。


 だからそれまで、




「死ねるわけねぇんだよクソ野郎!!」

更新遅すぎてごめんなさい!

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