深夜
あらすじ
枕投げ大会をした。
「んあ」
枕投げ大会を終え、泥のように眠りこけていたおれは急に目を覚ましてしまった。
時刻は3時といったところだろうか。
(トイレ…)
催したおれはトイレを探して部屋の外に出た(トイレは共用である)。
「ふう…」
用を済ましたおれは急に夜風に当たりたくなり、外へ出た。
夜風が身体を通り過ぎていく。
昼はむさ苦しいような空気も、夜は静かで心地がいい。
「浸っとるのぉ」
「うぇ!?」
びっくりしたぁ。
見るとキシリカがベランダのへりに座っていた。
格好は年相応…というか外見年齢相応に見えるシャツと短パンと言った感じだ。
「そんな格好じゃ寒そうだけど」
「寒くないわ、鍛え方が違う。…と言いたいところじゃが、そろそろ戻らせてもらおうかね。疲れたし。だいたいなんじゃあの赤毛の…元気すぎじゃろ…」
それはとっても同意だ。
それよりも。
「戻る前に聞きたいことがあるんだけど」
おれはあることを本人に聞いてみたくなった。
「10年前、何があったの?」
「それ聞くのかぁ…」
キシリカは、少し痛いところを突かれたかのように、一瞬苦しい顔をした。
「『大侵攻』じゃ」
「『大侵攻』ってあの?」
おおまかだがおれでも知っている常識。それにキシリカがどう関わっているのだろう?
10年前、大陸全土に魔物が急激に発生した。
色々な街が襲われ、名前を消した都市も少なくない。
死者も万に達し、人々は魔物に怯える日々を過ごしていた。
王都アラキではこれに対抗するために、兵だけでなく、スティラ全土から腕利きの戦士を集め、大量発生の源であった超巨大発生装置型獣『大穴』の討伐隊を編成した。
その中には魔法使い達もいたという。
だが、その戦いで『大穴』は倒したものの討伐隊はほぼ壊滅。
魔法使い達も数少ない生存者を残して消え失せた。
「その生き残りが『スティラ五杖』だ。私は強くなんかない。上澄みでもない。ただ運が良かった、生き残ってしまった、それだけだ」
「自分のキャラさえ忘れるほど悲惨だったんだな」
「?…!?そうだったいかんいかん」
『大侵攻』の話は聞いていたがここまで詳しく話を聞けるとは思わなかった。
「その…聞いといてなんだが…辛くないのか?」
「もう慣れたわい。ただ…ね。こうしてたまに思い出してやらなきゃ、話をしてやらなきゃ、死んでいった奴らは忘れられてしまうだろう?」
「…」
「さ!辛気臭い話は終わりじゃ!」
そうして彼女はいつものようにニヤリと笑うと、
「大坑道の大トカゲ退治をするぞ!」
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